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広汎性子宮頸部摘出術後妊娠における残存頸管長と早産リスクの関連は? 宮越敬(産婦人科)

早期子宮頸がんに対する子宮温存とは?

がん検診の普及に伴い、我が国の子宮頸がん罹患数は漸減傾向でしたが、近年はやや増加しつつあります(参照:子宮頸がん)。国立がん研究センターの年齢階級別罹患率(人口10万対)によると、若年患者が増える傾向にあり、1982年に比べ2013年には40歳前半が罹患のピークとなっております(図1)。

図1.子宮頸がんの全国年齢階級別推定罹患率(1982年および2013年)

図1.子宮頸がんの全国年齢階級別推定罹患率(1982年および2013年)
(参考資料:国立がん研究センター「がん登録・統計」)

また、2000年頃から20歳代および30歳代の子宮頸がん罹患率(人口10万対)は上昇傾向にあります(図2)。女性の晩婚化および出産年齢の高齢化に伴い、結婚・出産前に子宮頸がん罹患が判明することも少なくありません。このような背景から、従来では子宮全摘出を要した早期子宮頸がん例に対して、病変の存在する子宮頸部のみ摘出し子宮体部を温存する「広汎性子宮頸部摘出術(以下、頸部摘出術)」が普及しつつあります(図3)。当院では2002年9月より開腹術による頸部摘出術を開始し、豊富な臨床実績を有しております。

図2.子宮頸がんの全国推定罹患率の推移(20歳代および30歳代)

図2.子宮頸がんの全国推定罹患率の推移(20歳代および30歳代)
(参考資料:国立がん研究センター「がん登録・統計」)

図3.広汎性子宮頸部摘出術

図3.広汎性子宮頸部摘出術
(参考資料:春日義史, 宮越敬, 田中守. 婦人科癌の治療と妊孕性. ペリネイタルケア.2017)

頸部摘出術後妊娠の注意点は?

子宮頸管は胎児を子宮内にとどめておくために重要な役割を担います。一般に頸管長が短くなるほど子宮口が開きやすく、早産(妊娠22週〜36週の分娩)のリスクが上昇します。大部分の子宮頸管を摘出する頸部摘出術は早産ハイリスクです。そこで、慶應義塾大学病院(以下、当院)では頸部摘出術時に残存頸部を全周性に縫縮し、妊娠時の頸管開大予防(早産リスクの低減)に努めております(図4)。しかしながら、2013年までの当院の臨床実績を振り返ると、頸部摘出術後に出産に至った42例中16例が児の呼吸障害のリスクが高い妊娠34週未満の分娩でした(文献1)。また、この16例中11例は破水(妊娠参照)後の分娩であり、破水に伴う早産は頸部摘出術後妊娠の特徴のひとつと考えられました。

図4.広汎性子宮頸部摘出術における頸管縫縮および腟管との吻合

図4.広汎性子宮頸部摘出術における頸管縫縮および腟管との吻合
(参考資料:Nadeem R, et al. Gynecologic Oncology, 2006)

頸部摘出術後妊娠における早産のリスク評価の試み

一般産科診療では、早産既往妊娠などのハイリスク例を中心に、経腟超音波を用いて妊娠中期(妊娠21-25週頃)に子宮頸管の長さ(頸管長)を計測し、早産のリスク評価を行います(図5)。

図5.経腟超音波による子宮頸管長の測定

図5.経腟超音波による子宮頸管長の測定

そこで、今回私たちは、2016年まで当院で妊娠分娩管理を行った頸部摘出術後妊娠33例の診療情報を集計し、妊娠21-23週の残存頸管長と分娩週数の関連を解析しました(除外:流産例、胎盤位置異常例、残存頸管長に関するデータ不足例)(文献2)。第一に、対象33例中24例は早産分娩であり、9例(27%)は妊娠34週未満の分娩でした(図6)。また、残存頸管長は分娩週数と相関すること(図7)、妊娠34週未満の分娩となる頻度は、残存頸管長により異なることがわかりました(13mm未満:55%、13mm以上:14%)。このことから、残存頸管長が13mm未満の場合には妊娠34週未満の早産に注意する必要があります。

図6.広汎性子宮頸部摘出術後妊娠33例の分娩週数の分布

図6.広汎性子宮頸部摘出術後妊娠33例の分娩週数の分布

図7.広汎性子宮頸部摘出術における残存頸管長と分娩週数の関係

図7.広汎性子宮頸部摘出術における残存頸管長と分娩週数の関係

頸部摘出術後妊娠の妊娠管理にあたって

当院の臨床経験により、残存頸管長が分娩週数と関連することがはじめて明らかとなりました。頸部摘出術後妊娠は早産ハイリスクであり、特に残存頸管長13mm未満の症例では妊娠34週未満の早産となる可能性が高いことも分かりました。以上より、過去に子宮頸管への手術既往のない場合と同様に、頸部摘出術後の患者さんにおいても経腟超音波による頸管長計測は早産リスクの評価に有用と考えられます。

局所感染の有無も破水に伴う早産に関与します。例えば、腟内細菌叢のバランスのくずれである"細菌性腟症"の頸部摘出術後妊娠における破水・早産への関与も指摘されております。今後、頸管長以外の早産予測パラメーターを検討し、頸部摘出術後妊娠に関する慶應義塾からの情報発信に繋げていきたいと考えております。

参考文献

1. Pregnancy Outcomes After Abdominal Radical Trachelectomy for Early-Stage Cervical Cancer: A 13-Year Experience in a Single Tertiary-Care Center.
Kasuga Y, Nishio H, Miyakoshi K, Sato S, Sugiyama J, Matsumoto T, Tanaka K, Ochiai D, Minegishi K, Hamatani T, Iwata T, Morisada T, Nakamura M, Fujii T, Kuji N, Aoki D, Tanaka M.
Int J Gynecol Cancer. 2016 Jan;26(1):163-8. doi: 10.1097/IGC.0000000000000571.

2. Mid-trimester residual cervical length and the risk of preterm birth in pregnancies after abdominal radical trachelectomy: a retrospective analysis.
Kasuga Y, Miyakoshi K, Nishio H, Akiba Y, Otani T, Fukutake M, Ikenoue S, Ochiai D, Matsumoto T, Tanaka K, Minegishi K, Kuji N, Roberts R, Aoki D, Tanaka M.
BJOG. 2017 Oct;124(11):1729-1735. doi: 10.1111/1471-0528.14688. Epub 2017 May 22

左:筆頭著者・春日義史(現所属:川崎市立川崎病院産婦人科)、右:筆者

左:筆頭著者・春日義史(現所属:川崎市立川崎病院産婦人科)、右:筆者

最終更新日:2018年3月1日
記事作成日:2018年3月1日

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