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ホーム > あたらしい医療 > 簡便な認知症サインと質問セットを用いたアルツハイマー病スクリーニング法の有用性 -メモリーセンター-

簡便な認知症サインと質問セットを用いたアルツハイマー病スクリーニング法の有用性
-メモリーセンター-

はじめに

我が国の認知症の患者数は、2025年には471万人、2030年には523万人にのぼると推計されており、今後5年間で約50万人増えて、高齢者の14%を占めると予想されています(厚生労働省研究班、2024年)。認知症への対応は、医療、福祉に限られた問題ではなく、我が国の行政・政策の重要課題でもあります。

アルツハイマー病(Alzheimer disease:以下AD)(注1)では、脳内のアミロイドβの過剰とそれに続くタウ蛋白の異常蓄積により神経細胞死に至り、認知機能障害が生じます。

我が国ではADの疾患修飾薬抗アミロイド抗体2剤(注2)が承認されておりADの医療はまさに大きな転換期を迎えています。本薬剤は、日常生活の質の低下を抑制できる薬剤ですが、現時点ではその適応は軽度認知障害と軽症ADのみに限定されています。したがって、より早期の認知障害を効率よく発見する必要性があります。

ADの臨床診断は、神経心理検査、頭部MRI検査、脳血流検査などでADが疑われ、次にアミロイドPET検査や脳脊髄液検査を行うことで確定診断に至ります。いずれも、専門医、設備の整った施設を必要とし、高価であったり、侵襲が高かったりするため簡便に診断できるものではありません。したがって、診断された際には病気がすでに進んでおり、抗アミロイド抗体の適応がなくなってしまったケースが多数報告されております。

研究の背景と目的

我々は、ADを含むさまざまな認知症患者さんおよび健常ボランティアを対象に、アミロイドPETやタウPET、血漿中ADバイオマーカーの測定を実施しました(参考文献1)。同時に、認知症の特徴的な徴候である「head-turning sign(HTS)」および「Neucop-Q」(参考文献2)と名付けられた簡便な3つの質問セット(病識:consciousness(C)、楽しみ:pleasure(P)、ニュース:news(N))の有用性を検証しました。Neucop-Qの詳細は公式サイト外部リンクをご参照ください。

方法

問診時 head-turning sign(HTS)
(振り返り動作:医師の質問に直接答えようとせず、となりにいる家族など同伴者の方を振り返って手助けを求めること)

  • あり(positive)
  • なし(negative)

3つの質問 Neucop-Q

1. 現在、困っていることはありますか?

  • なし、もしくは物忘れはあるが年のせいであり、困ってはいない。
    認知機能障害(記憶、遂行機能、理解判断力、見当識)に病識がない。(impaired)
  • ある。
    認知機能障害に病識があり、困っている。(normal)

2. 現在楽しみはありますか?

  • ない。内具体性が伴わない回答。(impaired)
  • 具体的な回答。(normal)

3. 最近(3か月以内)気になるニュースを挙げて下さい。(公共性があるニュース。政治、社会、芸能、スポーツなど。)

  • なし、もしくは正しくない回答。
    3か月以上前のニュースや内具体性が伴わない回答。(impaired)
  • 具体的な回答。
    例:先月〇〇大臣が辞任した、先週〇〇県で大雨があった、など。(normal)

結果

  • HTS陽性(HTSpos)、病識なし(Cimp)、ニュースの記憶なし(Nimp)の被験者は、アミロイドβ病態を示す血漿バイオマーカー(Aβ42/40比、pTau181、GFAP、amyloid PET centiloid)と強い相関を示しました。
  • アミロイドPET陽性の予測において、HTS陽性(HTSpos)は特異度93.0%、陽性適中率(PPV)87.0%と高い値を示しました。
  • 病識なし(Cimp)およびニュースの記憶なし(Nimp)は、アミロイドPETの予測において、最も高い陰性的中率(NPV)を示しました(それぞれ75.0%、72.5%)。一方、楽しみなし(Pimp)はAD以外の認知症(非ADタウ陽性)の予測において特異度85.4%と高い値を示しました。
  • Neucop-Qの質問の組み合わせで、病識なし、楽しみあり、ニュースの記憶なし(Cimp/Pnor/Nimp)の被験者は、血漿pTau181が35.2%上昇し、アミロイドPET陽性を予測する特異度97.2%、PPV83.3%を示しました。
  • アミロイドPETのセンチロイド値(蓄積値)は、HTSpos、Cimp、Nimp、Cimp/Pnor/Nimpの各群で、それぞれ2.88倍、1.78倍、2.36倍、3.06倍の増加を示しました。

結論

HTS陽性(HTSpos)、病識なし(Cimp)、ニュースの記憶なし(Nimp)を有する患者さんは、ADおよびADによる軽度認知障害が強く疑われました。これは、ADに見られる「取り繕い」(saving appearance responses/behaviors)(注3)を反映しているものと思われます。

一方、楽しみなし(Pimp)は非AD認知症との関連が示されました。

また、HTS陽性およびCimp/Pnor/Nimpを有する患者さんのうち、それぞれ87.0%および83.3%がアミロイドPET陽性を示し、抗アミロイド抗体治療の適応が認められました。

今後の展望

疾患修飾薬レカネマブ(レケンビ®)の正式承認を受け、ADに対する早期発見および早期治療介入の重要性が改めて認識されています。

Mini-Mental State Examinationや長谷川式認知症スケールなどは、簡便な神経心理検査ですが、検査に不快感を訴える患者さんがおります。HTSおよびNeucop-Qは、通常の会話の中に盛り込むことができ、極めて侵襲性が低いことが特徴です。

本研究では、非常に簡便な診察法であるHTSおよびNeucop-Qが、医療機関のみならず、介護施設やコミュニティーでも実施可能であり、ADの有力な第一選択スクリーニングツールとして活用できる可能性が示されました。

特記事項

本研究は、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)医療研究開発革新基盤創成事業産医連携拠点による新たな認知症の創薬標的創出、JSPS科研費JP16H06277の支援を受けて行われました。

【用語解説】

(注1)アルツハイマー病(Alzheimer disease:AD)
本疾患は、ドイツの精神医学者Alois Alzheimer(1864~1915)により1906年に初めて報告された神経疾患で、認知症全体の約60%を占める極めて頻度の高い神経難病である。記憶障害で発症し、見当識障害、実行機能の障害、理解判断力の低下などが出現する進行性の神経変性疾患である。AD患者の脳内では、病因物質であるアミロイドβとタウの蓄積に伴い神経細胞が死ぬことで、症状が発現すると考えられている。

(注2)疾患修飾薬抗アミロイド抗体2剤
我が国では、認知症治療薬レカネマブ(商品名:レケンビ)とドナネマブ(商品名:ケサンラ)が上市されている。これまでの薬と違って認知症の原因となる脳内に溜まったアミロイドβと呼ばれるタンパク質を除去することによって症状の進行を直接抑制する効果が期待できる。「ADによる軽度認知障害(MCI)」と「ADによる軽度の認知症」の患者が対象となる。

(注3)「取り繕い」(saving appearance responses/behaviors)
認知機能障害をもつ患者が、自分の能力や記憶の低下を隠そうとする意識的・無意識的な行動を指す。応答のあいまいさ、話題のすり替え、他者への依存、記憶の穴埋め(代償的行動)などが含まれる。

参考文献

  1. Can the clinical sign "head-turning sign" and simple questions in "Neucop-Q" predict amyloid β pathology?
    Daté Y, Bun S, Takahata K, Kubota M, Momota Y, Iwabuchi Y, Tezuka T, Tabuchi H, Seki M, Yamamoto Y, Shikimoto R, Mimura Y, Hoshino T, Kurose S, Shimohama S, Suzuki N, Morimoto A, Oosumi A, Hoshino Y, Jinzaki M, Mimura M, Ito D.
    Alzheimers Res Ther. 2024 Nov 21;16(1):250. doi: 10.1186/s13195-024-01605-6.

  2. The utility of simple questions to evaluate cognitive impairment.
    Daté Y, Sugiyama D, Tabuchi H, Saito N, Konishi M, Eguchi Y, Momota Y, Yoshizaki T, Mashima K, Mimura M, Nakahara J, Ito D.
    PLoS One. 2020 May 14;15(5):e0233225. doi: 10.1371/journal.pone.0233225. eCollection 2020.

文責:メモリーセンター外部リンク
執筆:伊東大介

最終更新日:2025年2月3日
記事作成日:2025年2月3日

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