臨床研究を通じたあたらしい医療への貢献 ―リウマチ・膠原病内科―
慶應義塾大学病院リウマチ・膠原病内科における臨床研究
リウマチ・膠原病内科では、様々な臨床研究を通して、より安全で最適な治療を患者さんに提供できるような取組みを行っています。
臨床研究には様々なものがあり、薬事承認をめざして新たに開発された薬や医療機器の効果と安全性を検証する「治験」、既に承認されている薬剤などを使用して新たな治療戦略や使用方法を確立するための「介入研究」、血液や尿の一部をいただいて解析をしたり、日常臨床のデータを使用したりして行う「観察研究」などです。いずれにおいても患者さんのご協力なくして行うことはできませんが、参加していただく患者さんの不利益とならないように手順が厳密に定められており、倫理的に妥当であるか委員会の審査承認を得てから行われます。
このような臨床研究から得られた成果は、国内外のガイドラインや治療推奨の基盤データとしても採用され、実際の患者さんの新たな治療法につながっています。
成人スティル病に対する生物学的製剤治療
成人スティル病は39℃以上の発熱・関節炎・淡い皮疹などを特徴とする疾患です。指定難病に指定されており、現在の受給者は約4,500人程度と患者さんの数はそれほど多くありません。治療の中心はステロイドですが、再燃することも多く、ステロイドの長期使用に伴う副作用が問題となっていました。ステロイドの副作用を減らすためにいくつかの免疫抑制薬が使用されることがありますが、それでも病気の勢いを十分コントロールすることができない患者さんが少なくありませんでした。
成人スティル病の患者さんの中にはほかのリウマチ・膠原病疾患を合併するなどの理由で生物学的製剤が使用される例があり、こういった患者さんの経過を「観察研究」として検討することで、成人スティル病に対して生物学的製剤の一種であるトシリズマブが有効である可能性が分かってきました。そこで、2014年~2016年に当科が中心となり、国内の複数施設で成人スティル病に対してトシリズマブの有効性を検証する医師主導「治験」が行われました。この試験の結果からトシリズマブの有効性やステロイドの減量効果が示唆され、2019年、既存治療で効果不十分な成人スティル病に対し、世界に先駆けてトシリズマブが我が国で承認・保険適用となり、日本中の施設で使用することが可能となりました。
関節リウマチに対して生物学的製剤を開始する際の最適な使用方法
関節リウマチの関節破壊は発症2年以内に急速に進行することが分かり、現在は「寛解(かんかい)」と呼ばれる、病気が落ち着いた状態を治療目標に設定し、早期から抗リウマチ薬によって治療を開始することが世界中で推奨されています。関節の腫れや押した時の痛み、炎症反応など病気の勢いが落ち着いた状態である「臨床的寛解」、X線での関節破壊が進行しないことを意味する「構造的寛解」、日常生活における身体機能の維持を意味する「機能的寛解」の3つをいずれも満たすことを目標としています。
抗リウマチ薬には、大きく分けて従来型合成抗リウマチ薬と、2000年代前半から使用可能となったTNF(ティーエヌエフ)などの炎症分子を標的とした生物学的製剤、10年ほど前から使用可能となったJAK(ジャック)阻害薬があります。関節リウマチと診断された場合、通常は特別な合併症がなければ、メトトレキサートなどの従来型合成抗リウマチ薬で治療を開始し、3~6か月の時点で治療効果の判定を行い、効果が不十分な場合には生物学的製剤やJAK阻害薬を追加することが世界中で推奨されています。
当科が中心となって行った多施設共同介入試験であるSURPRISE試験では、メトトレキサートによる治療が効果不十分で生物学的製剤の一種であるトシリズマブを開始する際、それまで使用していたメトトレキサートを継続した方が、中止するよりも、6か月後の有効性が優れることを示しました。
また、当科が中心となり韓国・台湾の施設も含めて行った介入試験であるMIRACLE試験では、メトトレキサートによる治療が効果不十分で生物学的製剤の一種であるアダリムマブを開始する際、それまで使用していたメトトレキサートを半分程度に減量しても、6か月後に同量継続に有効性が劣らず、安全性は優れる傾向にあることを示しました。
これらの研究により、患者さんごとのリスクや合併症を考慮したうえで、有効性・安全性に優れた治療を届けることができるようになりました。
現在取り組んでいる臨床研究
現在当科では、当科専属リサーチナースや治験コーディネーターと連携し、様々な治験や介入研究に取り組んでいます。
関節リウマチ治療で重要な薬剤であるメトトレキサートは我が国では長い間内服薬が使用されてきましたが、嘔気などの副作用で十分量を内服できないこともめずらしくありませんでした。2022年より我が国でも皮下注射製剤が使用可能となりましたが、体内への取込や分布が内服薬とは異なることが知られており、血球中のメトトレキサート代謝物を測定し、患者さんがより有効・安全にメトトレキサートを使用できるような治療戦略の構築に取り組んでいます。
近年、関節リウマチの治療薬として新たな機序で効果を発揮するJAK阻害薬が登場し、その最適な使用方法に関しての検討が進んでいます。日本人を含むアジアにおいてはJAK阻害薬使用中に帯状疱疹が多いことが知られ、不活化帯状疱疹ワクチンをJAK阻害薬使用前後に接種することが選択肢の1つとなっています。しかし、JAK阻害薬開始前に2回の接種を完了すべきなのか、JAK阻害薬開始後の接種完了で十分であるのかは明らかになっておらず、この点を明らかにする介入研究(STOP-HZ試験)に取り組んでいます。
また、JAK阻害薬は単剤でも高い有効性が報告されており、JAK阻害薬開始時に、それまで使用していたメトトレキサートを併用する方が良いのか、メトトレキサートを終了しても十分な有効性を発揮できるのかを明らかにするための介入研究(FAITHFUL試験)に取り組んでいます。
メトトレキサートの効果が不十分でJAK阻害薬を追加する際、病気の勢いをコントロールできているかは、関節の腫れや痛み・血液検査・担当医や患者さん自身の評価などを総合して判断します。しかしながら、これらの臨床的な評価だけではなく、体内において分子レベルでも病気の勢いがコントロールされているのかを評価する試み(RA-Be in Remission試験)を行っています。
当科では、安全で最適な治療を患者さんに提供できるよう、これらの関節リウマチに関する介入研究以外にも、関節リウマチ・膠原病領域の様々な疾患を対象とした治験・臨床研究を行っています。詳細につきましては外来担当医までお問い合わせください。
リウマチ・膠原病内科スタッフ
文責:リウマチ・膠原病内科
執筆:玉井博也、金子祐子
最終更新日:2024年11月1日
記事作成日:2024年11月1日
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