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リンパ管腫(嚢胞状リンパ管奇形) ―小児外科―

はじめに

病名について

「リンパ管腫」は、最近のISSVAの国際分類外部リンクにおいては(common or cystic)lymphatic malformationと分類されているのに合わせて、「(嚢胞状)リンパ管奇形」とも呼ばれており、徐々に移行しつつあります。しかし、最適な日本語病名については今も議論が続いており、今後変わる可能性があります。

病気の特徴

こどもに多くみられる良性の病変です。一般的にはあまり馴染みのない病気です。生まれる前の体を形づくる時期にリンパ液が流れるリンパ管が徐々にネットワークを形成します。その時、本来細い管状になるべきリンパ管が膨らんで、大小様々(1mm以下のものから数cm)の水風船のような「嚢胞」を形成し、それらが集まって塊となった病変です。

嚢胞の中身は薄い黄色のリンパ液が主体ですが、時に内出血を起こして血液が混ざることがあります。体表の病変は膨らんで見え、触れると柔らかく弾力性があります。発生する部位は首や顔・わきの下の辺りが最も多いですが、全身どこにでも発生する可能性があります。大きく分けて、中の嚢胞の最大径が1cm以上のものをマクロシスティック(嚢胞状)、それ以下のサイズの嚢胞の病変をミクロシスティックと呼んでいます。嚢胞は小さく嚢胞以外の組織が多い病変は日本語では海綿状とも呼ばれています。

一般にリンパ管腫は幼少時に発症しますが、それ以降に内出血などにより腫れて初めて発見されることもあります。また体の深部にあると発見されずに何十年も経過することもあります。体の成長と同じペースで大きくなりますが、嚢胞内リンパ液が増えたり炎症が加わったりするとそれ以上に膨らむこともあります。体のほかの部位へ転移することはありません。

硬化療法、外科的切除が有効な治療として用いられてきましたが、最近、効果的な内服薬が出てきました。また病変発生に関する理解も深まり、ほかにも有効であることが予測される薬の開発が進んでいます。慶應義塾大学病院小児外科では多くの経験を生かし、従来治療の発展とともに新たな薬剤の治療を積極的に取り入れています。我々の取り組んでいる治療を以下に説明します。

慶應義塾大学病院での取り組み

硬化療法の工夫

嚢胞状のリンパ管腫に対しては病変部に硬化剤を注入する硬化療法が有効です。嚢胞がつぶれると病変全体がその分小さくなるという治療法です。日本で保険診療として認められている硬化剤はOK-432(ピシバニール®)です。これは溶連菌を死活化し凍結乾燥して粉末化した製剤です。リンパ管腫の嚢胞内部に注入すると強い炎症を惹起し結果として嚢胞が収縮し、病変全体が小さくなります。

一方、ミクロシスティック型(海綿状)リンパ管腫やOK-432で効果が見られない症例に対しては、ブレオマイシンを併用する硬化療法があります。ブレオマイシンは適応外使用薬として用いられています。OK-432と性質が異なり毒性も強いため使用量は安全域内に制限されていますが、有効なため世界中で最も良く用いられている薬剤です。当院ではブレオマイシンも使用しており、患者さんごとに最適薬を検討して選択しています。

リンパ管腫内はいくつかの嚢胞が小さな窓で連なるように存在しています(図1A)。1回の治療でなるべく効果を上げるためには注入した硬化剤が病変全体に行き渡ることが必要ですが、当科では、注入する溶液に造影剤を混ぜて、レントゲンでリアルタイムに薬液の広がりが見えるようにしています。注入後に体の向きを変えたり、揉んだりすることで、病変内に確実に薬剤を行き渡らせ、最大の効果を得ることができます(図1B)。特に小児では多くの場合このような手技には全身麻酔による鎮静を必要とするので、1回1回のチャンスから最大限の効果を上げるよう治療を進めています。

右下頸部の皮下リンパ管腫に対する硬化療法

積極的な外科的切除

リンパ管腫は硬化療法や最新の内服治療でも病変が十分小さくならない場合もあります。その場合には外科的切除は大きな役割を果たします。創ができること、筋・血管などの正常組織をある程度切除せざるを得ないことなどのデメリットもありますが、神経や血管を適切に温存することができれば、治療期間が短く、1回で大きな効果を得られる非常にメリットの大きい治療です。当科では多くの経験を基に、複雑な病変の患者さんも詳細な画像検査のうえで適切に切除術を行っており、良好な結果を得て患者さんに満足いただいています。

最新の内科的治療法

2022年秋からリンパ管腫を含む難治性リンパ管疾患に分子標的薬であるシロリムス(ラパリムス®錠)の内服治療が保険適用となりました。2024年夏からはシロリムスの顆粒剤も使用可能となりました。シロリムスはリンパ管腫細胞内で異常に亢進している増殖・成長のシグナルを抑える作用を有しています(図2)。そのため、病変の縮小とともに(図3)、リンパ漏や内出血を改善する作用を示します。副作用もありすべての患者さんに対して最適とはいえませんが、従来の治療法に内服療法が加わったのは大きな進歩です。当院小児外科ではこの薬の開発に最初から加わり、国内でも最も多くの患者さんへの使用経験を有するため、その特徴を熟知しており、ほかの治療法と併用しつつ効果的に使用しています。

一方、越婢加朮湯を中心とした漢方薬も症状の改善に効果を示しており、現在では多くの患者さんが服用しています。

図2.PI3K-AKTシグナルとシロリムス

図2.PI3K-AKTシグナルとシロリムス
リンパ管腫ではPI3Kの活性シグナルが強くなっており、シロリムスはmTORと結合して細胞の増殖のシグナルを停止させる。


図3.シロリムス治療による病変の縮小

図3.シロリムス治療による病変の縮小
左の眼窩内のリンパ管腫病変の縮小(内服開始6か月での変化)。

開発中の薬剤

皮膚や粘膜に突出するリンパ管腫病変は治療が難しい病変ですが、これに対してシロリムスの軟膏剤の治験が進んでおり、近い将来皮膚の病変に対して使用可能となることが見込まれています。シロリムス以外にも、同じシグナル(PI3K-AKT系)(図2)のPI3Kを抑制する国産の内服薬の治験が現在進んでおり、有効性が期待されています。当院でも治験を行っており(注)、有効性および安全性が確認されれば数年内に国内で使用可能となることが期待されています。

(注)

治療戦略

リンパ管腫の病変は患者さんによって様々なので、治療戦略の立て方が難しいことがあります。先に述べたいくつかの治療法をどの順序で行うか、どのように組み合わせると一番良い結果を得られるか、いつまでに改善するか、などはまだ明確でないところもあります。当院では、特に多数の診療科で構成している血管腫・血管奇形センター外部リンクのエキスパートチームで協議し最適な治療を提供し成績を上げています。

今後の展望

私たちはリンパ管腫の患者さんにとって最良の検査・治療を常に考えながら診療を行うとともに、リンパ管腫の生物学的特性に基づいた新たな治療法を開発することを目的とした研究も怠りなく行っています。様々な小児リンパ管疾患の手術で切除された組織を顕微鏡で詳細に検討したり、その組織から出てくる細胞の性質を調べたりして、薬やその他の治療法を探っています(小児リンパ管疾患の組織細胞生物学的検討(小児リンパ管疾患の組織細胞生物学的検討外部リンク)。

いつかこの病気を克服し、すべての患者さんが完全に治るようになることが我々の願いです。

関連リンク

小児リンパ管疾患相談窓口外部リンク(慶應義塾大学医学部小児外科)
リンパ管疾患情報ステーション外部リンク(リンパ管疾患研究班)

文責:小児外科外部リンク
執筆:藤野明浩

最終更新日:2024年11月1日
記事作成日:2024年11月1日

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