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筋萎縮性側索硬化症(ALS)の根本治療を目指して~運動ニューロン疾患外来開設~

概要

私たちが身体を動かすとき、その指令は大脳皮質から脊髄という場所を下降する上位運動ニューロンと、脊髄から動かしたい筋肉まで伝達する下位運動ニューロンを介し伝えられます。運動ニューロン疾患とは、この伝達路である運動ニューロンが傷んでしまう病気です(図1)。いくつかある運動ニューロン疾患の中で、もっとも重篤な病気が筋萎縮性側索硬化症(Amyotrophic lateral sclerosis: 以下、ALS)です。米国で国民的に人気のあったメジャーリーグ野球選手ルー・ゲーリックがこの病気で亡くなったことから、ALSは「ルー・ゲーリック病」と呼ばれることもあります。

図1.筋萎縮性側索硬化症(ALS)

図1.筋萎縮性側索硬化症(ALS)

ALSはアルツハイマー病、パーキンソン病に次いで患者数の多い神経変性疾患であり、日本では約9,000人の患者さんがいます。発症は40代から70代の方が多く、その10%が家族性で90%は孤発性といわれています。

この病気を発症すると、徐々に身体が動かせなくなり、食事や会話も困難になり、呼吸もできなくなってしまいます。人工呼吸器をつければその後何年も生きることができますが、全身の麻痺は不可逆的で、進行を数ケ月程度遅らせる薬はあるものの根治療法はありません。 障害(変性)が出るのは運動神経のみであり、患者さんは意識がはっきりしたまま徐々に体が動かせなくなります。発症すると確実に機能が失われていくため、ご家族の介護負担が非常に大きいのも特徴です。

症状

初めにどの運動ニューロンが弱ってくるかによって、 最初に現れる症状は異なります。

手足の筋力低下と筋萎縮

ALSの患者さんのうち約4分の1の方は、最初に手足の動きが弱くなり、病院を訪れます。重いものを持てない、走りにくい、階段が昇りにくいなどの自覚症状を感じます。これらの症状とともに、手や足の筋肉がやせ細ってきます。症状が進むと歩行が困難となり、車いすが必要となります。

構音障害、嚥下障害

ろれつがまわらなくなったり、食べ物や唾液(つば)が飲み込みにくくなり、むせることが多くなります。症状が進むと食物や水分が摂れなくなり、生命の維持には胃ろうが必要となります。また、言葉がしゃべれなくなると会話に大きな障害が生じます。手や口の麻痺が進むと残された筋力(目の動きなど)を使ったコミュニケーションを余儀なくされます。

進行すると呼吸障害が出て、生命の維持には人工呼吸器を必要とします。本人の意識や知覚が正常であるにも関わらず、生活やコミュニケーションの自由が阻害されるため、生活の質は著しく低下します。経過には個人差があるものの発症から死亡ないしは人工呼吸器装着までの期間は 20~48ケ月であると報告されています(日本神経学会:筋萎縮性側索硬化症診療ガイドライン 2013外部リンク)。人工呼吸器や胃ろうは、延命治療との考えもあります。これらを施行する場合は、医師と十分相談した上で施行いたします。

治療

現在認可されている薬は2つあります、いずれも病気の進行を抑える作用はありますが、症状を改善させる効果はありません。残念ながら根本的に本疾患を治せる薬はまだありません。

リルゾール(リルテック)©:1回1錠、1日2回(朝及び夕食前)の内服薬です。ALS患者さんの生存期間や人工呼吸器装着までの期間を約3ケ月間延長させる効果があります。

エダラボン(ラジカット)©:1日1回の60分かけて点滴するお薬です。12週間ごとに10~14日間連日投与します。ALS患者さんの生存期間や人工呼吸器装着までの期間を数ケ月伸ばす効果があります。

慶應義塾大学病院での取り組み

当院では、「運動ニューロン疾患外来」にてALSの患者さんの診療、治療を専門チームが取り組んでおります。難病である本疾患の臨床治験を積極的に行い、1日でも早い根本治療の確立を目指しております。

2018年から、疾患特異的iPS 細胞を用いた創薬技術を応用し新たに見出したALS治療薬の候補、ロピニロール塩酸塩の安全性・有効性を評価するための第 I/IIa 相医師主導治験を当院にて行っております(2019年5月現在、多くの方にご応募をいただいているため、新規のお申し込みを一時休止しております)。ロピニロール塩酸塩は、ALS患者さんから作成したiPS細胞を運動ニューロンに誘導して、既に薬として使用されている 1,232 種類薬の効果を調べることにより見出されました。この薬はこれまでパーキンソン病の治療薬として利用されておりましたが、約 70%の孤発性ALS患者さん由来iPS細胞にも効果が示されました。本治験では、実際のALS患者さんでその安全性と有効性を評価しております(図2)。

図2.患者さん由来iPS細胞を用いた創薬の展開

図2.患者さん由来iPS細胞を用いた創薬の展開

  • 家族性アルツハイマー病患者さん(プレセニリン1、2変異)の皮膚の細胞から、京都大学山中伸弥教授らの方法により皮膚線維芽細胞よりiPS細胞を作成し、神経細胞の誘導を行った。

運動ニューロン疾患外来スタッフ

運動ニューロン疾患外来スタッフ

文責:神経内科外部リンク

執筆:伊東大介

最終更新日:2019年7月1日
記事作成日:2019年7月1日

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