インターネット依存
概要
2019年5月下旬に、世界保健機関 (WHO) が死因や疾病の国際的な統計基準として公表している「疾病及び関連保健問題の国際統計分類(ICD)」の最新版において、インターネット依存の下位項目の1つである「ゲーム障害」が、正式に病気であると認められました(文献1)。これまでは、インターネット依存の存在は、世間に限らず、精神科医や研究者の間でも議論が続いていました。その間にも、多くの人々、特に若者たちがインターネットやゲームに夢中になり、学校や仕事をやめるなど、人生に悪影響が現れています。このようなインターネット依存の患者さんのご家族は「一刻も早く回復してほしい。」と願うことでしょう。しかし、回復するためには、まずインターネット依存とは何か、なぜインターネット依存になってしまうのか、そもそも回復とはどのような状態を示しているのかなどの疑問を解決しなければなりません。
ここでは、こうした疑問に答えるため、インターネット依存の定義から、症状、リスクファクター、有病率、合併する精神疾患、インターネットにのめり込みやすいと思われる性格傾向などについて説明します。そして、様々なインターネット依存の中で、特にSNS(Social Networking Service)依存とゲーム依存とを取り上げます。また、最近になって出現した大規模多人数型オンライン(MMO:Massively Multiplayer Online)などのゲームや、なぜこれにのめり込むのかについて説明します。最後によく使われている治療方法、特に認知行動療法について紹介します。
インターネット依存とは何か?
インターネット依存の定義は、現在はまだ統一されていません。現時点では「インターネット使用の過剰あるいはコントロール困難なとらわれ、促迫行動で、結果として障害や苦悩が発生する。」とされています。
インターネット依存には様々な下位項目がありますが、主に次の3つの下位項目があるとされています。
- オンラインゲーム・ギャンブル障害
- SNS (メール等を含む) 依存
- ポルノ依存
一方、依存の対象はインターネットそのものではなく、オンラインゲーム、オンラインギャンブリング、オンラインセックスなどへの依存としてとらえる方が適切とする見解もあります。上記の1)と2)の2項目について以下の項で詳しく述べることにします。
インターネット依存は、行動嗜癖(こうどうしへき)の一種です。症状としては、後に述べるようにSalience(オンライン活動が人生の最大の重要事項となり、ほかの思考、感情、行動を圧倒してしまう)や耐性(インターネット使用の時間、質などが上昇する)などの構成要素が当てはまります。
インターネット依存の原因とリスクファクターとしては、以下のものが挙げられます。
- 年齢 (図1)
- 精神疾患 (図2)
- 家族内のコミュニケーションや家族機能の不全
- 性格傾向
図1. インターネット依存の有病率(年齢の分布)
*1,100人を対象としたオンライン調査に基づく (出典:文献2)。
図2. インターネット依存と合併する精神疾患
(出典:文献3)
ゲーム依存とSNS依存
インターネット依存のタイプは、ゲーム依存とSNS依存の2つのカテゴリーに大別されます。
ゲーム依存
1990年代に出現したオンラインゲームは、パソコン、ノートパソコン、スマートフォン、ポータブルゲーム機などの様々な機械を通して、インターネット環境さえあれば、どこからでもアクセスできるゲームであり、同時に複数の参加者がリアルタイムでコミュニケーションしながら、争ったり、協力しつつゲームが進められていくもので、終了時点というものが存在しません。また、1人でできるタスクもあれば、チームで協力しなければならないものもあり、ソーシャルな要素のある点がオンラインゲームとオフラインゲームの最大の違いであるともいえます。このため、多くの人々にとってオンラインゲームの方が楽しく満足感が高く、結果として実生活を浸食するという結果になっています。
SNS依存
SNS とは、現実の友人や見知らぬ人と交流できるバーチャルコミュニティを指します。 SNS依存で最も問題になっているのはFacebookです。オンラインゲームと違って、SNSは現実(オフライン)の友人との関係を維持するために利用できるのが魅力だとされていますが、時にはそのSNSを常にチェックしないと、仲間はずれになったり、周りについていけないと感じ、オンラインソーシャルネットワークへの積極的な参加を強いられるというパターンも少なくはありません。またSNSでは、対面では言いにくいことも感情や衝動を抑えずに言えるようになるため、友人関係の維持ではなく破壊につながることもしばしば認められています。
SNS依存には、SNS特有の原因もいくつかあります。SNSは本質的に自己中心的な構造を有しているので、自己愛性格を満足させやすいという特性がその1つです。Facebookが最も依存性が高いことの理由については仮説がいくつかありますが、他人にメッセージを送るだけでなく、電話、ゲームなどの様々な娯楽が内在しており、多様な利用者を満足させるという根強い理由があります。
インターネット依存の症状
インターネット依存の症状はいくつかありますが、ここでは、Griffithsが提案した行動嗜癖の主な6つの構成要素を紹介します(文献4)。
- 過剰な突出性(Salience)
オンライン活動が人生の中で最も重要なことになり、それに関しての考え、感情、行動などが中心となります。時間が経つと、その行動だけで頭がいっぱいになり、ほかの趣味を失ったり、ほかの行動を無視してしまうこともあります。極端な場合には、基本的な欲求をも無視してしまうことがあります。例えば、食事を摂らなかったり、トイレになるべく行かないようにおむつを使ったりすることなどです。 - 気分変容(Mood modification)
夢中になっているオンライン活動の感情面への影響のことです。インターネットに依存する人はそのインターネット上の行動(ゲーム、ギャンブリングなど)を気分変容の対処法として使っています。気分が落ち込んだ時はそれを使って興奮する(Rush)という影響がある一方、発生した問題から逃げる(Escape)ためにインターネットを利用するという影響もあります。常に気分転換のためのインターネット利用は症状の1つと考えられています。 - 耐性(Tolerance)
薬物依存の場合は、薬物の量が増えることで分かるが、インターネット依存の場合は何で分かるのか?という疑問があります。それはインターネットの場合は、定性的および定量的な耐性があると思われています。定量的というのは、使っている時間がどんどん増え、実際に使っている時間が想定していた時間よりも長くなるということです。定性的というのは、機器の質が上がる(エスカレートする)ということです。例としては、ゲームの場合はパソコンのスペックを上げたり、専用のヘッドフォン、キーボード、マウスなどを買うのはこの症状なのではないかと考えられています。 - 離脱症状(Withdrawal symptoms)
夢中になっているオンライン活動ができなくなったり、またはインターネットの接続ができなくなった場合に、感情的にイライラする、落ち込む、暴力的になる、といった症状が出ます。物理的な震え、動悸などの離脱症状が現れる場合もあります。 - 葛藤(Conflict)
葛藤にはいくつかのパターンがあります。インターネットをずっと使っている人の葛藤とは、やめたいけれどやめられない、自分の人生に悪影響を与えているのにずっと続けている、といった個人内葛藤(Intrapersonal conflict)もあれば、本人と周囲の家族、両親、配偶者との対人葛藤(Interpersonal conflict)もあります。さらに、その行動と日常生活、昔の趣味、仕事や勉強との活動コンフリクトといった葛藤もあります。 - 再発(Relapse)
インターネットを使いすぎだと思い、何回かやめることを決めたものの、やめるどころかますます使ってしまうことです。
インターネット依存の予防と治療
予防法として推奨するのは、インターネットリテラシーの学習です。インターネットの良いところと悪いところ、そして、インターネットの健康的な使い方について学ぶことがすすめられます。さらには、ゲームに関心を持っている子ども、特に10代の子どもがいたら、ひとりでゲームをさせるのではなく、両親も含めた家族と一緒にゲームを楽しむことが強くすすめられています。暴力的、性的なものが入っていないか、ゲームの内容をチェックできるだけでなく、子どもが関心を持っていることについて話し合うことができ、家庭内でのコミュニケーションが円滑化する可能性が高いです。親子で一緒にゲームをすることが不可能な場合は、現実世界の友人と一緒にゲームすることが望まれます。
インターネット依存に限らず、行動嗜癖の治療目標は「完全にやめる」ことではなく、使用のコントロールが目標になります。そして何よりも重要な最終目標は、本人の幸福感です。依存に陥っている本人はインターネットをしている時が最も幸福だと思っていますが、そもそもそれが本当に幸福なのか?という問いを発する必要があります。
インターネット依存は、欲望が満たされることがないため、ずっと続けてしまいます。治療を担当する者の役割は、患者さん本人にインターネットをやめるよう指示することではなく、本人とソーシャルネットワークやゲームについて、なぜ彼らが依存におちいったかを話し合うことです。
患者さん本人にとって重要なこととして、自身の強い点、弱い点、欲望についてよく知り、それらを踏まえて将来を考慮することも挙げられます。こうしたことによって本人とともに幸福を追求していくことこそが治療者の役割といえます。
適切なゲームを、適切な時間だけ行うのであれば、ポジティブな点はいくつもあります。たとえば自尊心を高めたり、反射神経、反応時間、記憶力、論理的思考、戦略的思考、社交的スキル、コミュニケーションスキルなどを改善することができます。
参考文献
- Park, Alice: 'Gaming disorder' Is now an official medical condition, according to the WHO. Times. 2019-05-29
- Wu CY, Lee MB, Liao SC, Chang LR. Risk Factors of Internet Addiction among Internet Users: An Online Questionnaire Survey. PLoS One. 2015 Oct 13;10(10):e0137506. doi: 10.1371/journal.pone.0137506. eCollection 2015.
- Carli V, Durkee T, Wasserman D, Hadlaczky G, Despalins R, Kramarz E, Wasserman C, Sarchiapone M, Hoven CW, Brunner R, Kaess M. The association between pathological internet use and comorbid psychopathology: a systematic review. Psychopathology. 2013;46(1):1-13.
- Griffiths MD. A 'components' model of addiction within a biopsychosocial framework. J Subst Use 10: 191-197, 2005
さらに詳しく知りたい方へ
- ムハンマド・エルサルヒ, 村松 太郎, 樋口 進, 三村 將. インターネット依存の概念と治療【アディクション-行動の嗜癖】
BRAIN and NERVE: 神経研究の進歩. 2016 Vol. 68, no. 10, p.1159-1166(2016.10) - ElSalhy M, Miyazaki T, Noda Y, Nakajima S, Nakayama H, Mihara S, Kitayuguchi, T, Higuchi S, Muramatsu T, Mimura M.
Relationships between Internet addiction and clinicodemographic and behavioral factors. Neuropsychiatr Dis Treat. 2019
Mar 26;15:739-752. doi: 10.2147/NDT.S193357. eCollection 2019.
文責:
精神・神経科
最終更新日:2019年10月1日