C型慢性肝炎・C型肝硬変
概要・自然史
C型肝炎ウイルス(HCV)は、1989年カイロン社により同定されたフラビウイルス科に属するRNAウイルスです。このウイルスの発見により、それまで非A非B型肝炎といわれていた肝炎の多くは、このHCVによるものであることが判明しました。現在、HCVキャリアは全世界で5,800万人、我が国で90万~130万人存在すると推定されています。
HCVは血液を介して感染するので、日本では以前の輸血や血液製剤の投与により感染したケースがほとんどですが、欧米では麻薬中毒者や同性愛者による注射針の使い回しによる感染が主体です。HCVは、通常の性交渉による感染は低いと考えられています。また、母子感染はC型慢性肝炎患者さんの母親からの出産の約10%といわれていますが、先進国のような衛生環境のよい地域での出産による感染はさらに 低いと考えられています
HCVは一度感染すると、ほかの肝炎ウイルスと同様、急性肝炎を引き起こします。その中で、自然に治癒する(HCVが自然に排除される)人は約30%といわれており、70%は慢性持続感染に至ります。しばらくの間は、肝機能が正常の非活動性肝炎の状態が続きますが、その後活動性になり、肝機能が悪化してきます。この慢性活動性肝炎が進行すると、徐々に肝臓の線維化が進行し、肝硬変へと進展します。通常ウイルスの感染から肝硬変に進展するまでに平均約30年かかるといわれていますが、個人差はあります。
さらに、C型慢性肝炎では経過とともに肝細胞がん(hepatocellular carcinoma:HCC)を引き起こします。肝細胞がんは線維化が進行するにつれ高率に発生し、肝硬変のHCV患者さんは1年あたり8%の人が肝細胞がんと診断されます。そのため定期的な画像検査が必要で、一般的には3~6か月ごとの画像検査(超音波検査、CT検査、 MRI検査など)と腫瘍マーカー(肝細胞がんで高値になるα-fetoprotein[AFP]やPIVKA-IIなど)の検査がすすめられています。また、肝硬変に伴う門脈圧亢進症、特に胃食道静脈瘤(gastro-esophageal varix)の出現や進行、破裂も危惧されます。定期的に上部消化管内視鏡の精査もすすめられています。
症状
慢性肝炎の段階ではほとんどの場合自覚症状がありませんが、倦怠感、掻痒感、食欲低下などの症状を認めることもあります。逆に自覚症状がないまま、健康診断などではじめてHCV陽性を指摘されることもあり注意が必要です。
肝硬変の状態でも初期は無症状のこともありますが、病状が進行すると目や体が黄色くなる(黄疸)、むくみ、お腹に水がたまる(腹水)、鼻血がとまりにくい(出血傾向)などの症状がみられることがあります。また、ほとんどの肝細胞がんの初期症状もありません。進行すると腹部違和感、圧迫感、また破裂による血圧低下、ショック状態などがあります。したがって、HCV感染患者は症状によらずに定期フォローが重要です。
診断
HCVに感染しているかどうかは、血液検査で調べることができます。HCV抗体陽性の場合には、偽陽性を除き、現在感染している持続感染か、過去に感染したが現在ウイルスは体内にいない既往感染の2通りが考えられます。持続感染と既往感染の区別は、核酸増幅法を用いたHCV RNA、またはHCVコア抗原の有無により可能となります。
また、治療やフォローに際して、感染しているHCVのサブタイプ(serotypeまたはgenotype)を調べることもあります。さらに、保険適用外ですが、今まで複数の治療歴のある患者さんには、薬剤耐性ウイルスの存在を調べることもあります。肝硬変の有無によって治療方針が変わることもあり、肝線維化程度を調べるため、肝硬度や血清線維化マーカー、超音波、CTやMRIなどの画像検査、肝生検などを行うこともあります。
治療目標
C型肝炎の治療を考える場合、原因となるHCVを除去し、病気の治癒を目指す治療法と肝臓の炎症を抑え、肝硬変、肝がんへの進行を遅らせる肝庇護療法の2つに分けられます。特に前者におけるC型肝炎治療の目標は、HCV持続感染によって惹起される慢性肝疾患の長期予後の改善、すなわち、肝発がんならびに肝疾患関連死を抑止することにあります。現在、Child-Pugh分類12点までの非代償性肝硬変を含むすべてのHCV患者が抗ウイルス治療の対象となり、年齢、ALT値、血小板数にかかわらず、抗ウイルス治療を検討することが推奨されます。一方、この目標から、肝細胞がんが根治できていない患者さんにおいては、まず肝細胞がんの治療に専念することが合理的と思われます。
しかし、抑制されるとはいえHCV排除後(sustained virological response:SVR状態)でも肝発がんが起こりうることから、HCVが排除された後でも、長期予後改善のため肝発がんに対するフォローアップを行う必要があります。特に、高齢かつ線維化が進行した高発がんリスク群では厳密なフォローが必要です。なお、SVR後の肝新規発がんに関連するリスク因子が特定されています。肝細胞がんの既往、肝線維化(F3以上)、男性、年齢、糖尿病の合併、アルコール摂取、アルブミン低下、線維化マーカーの持続高値、治療後のAFP値などが報告されています。
治療方法
現在、直接作用型抗ウイルス薬(direct-acting anti-viral agents:DAAs)を組み合わせたインターフェロン(interferon:IFN)を併用しない(IFN-フリー)治療が適用されます。治療効果として、特殊集団を除き、治療終了後12週SVR達成率は約96%~100%程度と非常に良好です。
直接作用型抗ウイルス薬は、そのターゲットからNS3/4Aプロテアーゼ阻害薬(GLE)、NS5A複製複合体阻害薬(LDV,PIB,VEL)、NS5Bポリメラーゼ阻害薬(SOF)に分類されます。2023年8月の時点で、使用可能な薬剤をTableにまとめましたのでご参照ください(表1)。
表1.Table 2023年現在使用可能なDAA治療
種類 |
特徴 |
SOF/LDV |
☆eGFRが30mL/min/1.73m2未満や維持透析など腎機能低下は使用禁忌 |
GLE/PIB |
☆「非代償性肝硬変」は使用禁忌 |
SOF/VEL |
☆eGFRが30mL/min/1.73m2未満や維持透析など腎機能低下は使用禁忌 |
薬剤は、1)腎障害、非代償性肝硬変など禁忌症の有無、2)前治療不成功歴の有無、3)HCVサブタイプ、すなわち、1型/2型とその他、4)慢性肝炎/代償性肝硬変/非代償性肝硬変の区分で選択されます。また、併存状態(例として、HIV治療中や肝移植後で免疫抑制剤投与中)によって、薬剤の相互作用を考慮し薬剤種類を選択します。Child-Pugh分類Cのスコア10点以上の患者さんにおいては、肝移植の適応も同時に考慮したうえで、HCVの治療タイミングを決定する必要があります。
なお、DAA前治療不成功例に対するDAA再治療を検討する際には、NS3/4AならびにNS5A領域の薬剤耐性変異、特にP32欠失の有無を測定したうえで、肝臓専門医によって慎重な治療薬選択がなされることがすすめられています。
フォローアップと慶應義塾大学病院の取り組み
HCV駆除(SVR達成)後の定期通院フォローが必要です。肝細胞がんの既往のある患者さん、肝硬変の状態に達している患者さんにおいては、それぞれの診療ガイドに従い、3~6か月に一度画像検査や腫瘍マーカーの測定をすすめています。その他の患者さんには、6か月に一度の採血と腹部超音波が推奨されます。感染期間の短い症例や、線維化程度が軽い若年患者さんのフォロー終了の囲い込みは今後の研究課題となります。また、HCVが一旦駆除されても、感染リスクを有する行為(注射針の共有、危険度の高い性行為)が続けられる場合、再度感染するリスクがありますので、リスク行為をやめるか、パートナーと一緒に治療することが重要です。慶應義塾大学病院は大学病院として、HCV/HIV共感染や肝移植後のHCV再感染の治療に多数経験しております。気になる方はぜひご相談ください。
文責:
消化器内科
最終更新日:2023年11月24日