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SAPHO症候群(SAPHO syndrome)

さふぉーしょうこうぐん

概要

1961年に米国のWindomらが「集簇性ざ瘡と関節炎」として報告し、次いで、日本からも1967年に本学整形外科の佐々木正が「掌蹠膿疱症を伴った両側鎖骨骨髄炎の症例」として報告した疾患で、その後、1987年にChamotらによって仏国の全国調査で集められた85症例が検討された結果"SAPHO"という略称で提案された疾患概念です。"SAPHO"とは、その特徴であるSynovitis(滑膜炎)、Acne(ざ瘡)、Pustulosis(膿疱症)、Hyperostosis(骨化過剰症)、Osteitis(骨炎)の頭文字を取り命名されました。末梢関節炎(膝・足関節で多い)のほかに胸鎖関節の炎症および異常骨化が特徴的で、脊椎や仙腸関節などの軸性関節炎もみられます。皮膚症状は掌蹠膿疱症(palmoplantar pustulosis:PPP)、ざ瘡、尋常性乾癬が多く、特に掌蹠膿疱症を伴うSAPHO症候群は掌蹠膿疱症性関節炎(pustulotic arthro-osteitis:PAO)と一部疾患概念が重なります。また、HLA-B27が数~30%程度陽性となり、ほかの章で述べる脊椎関節炎(SpA)の類縁疾患とする報告もあります。

世界的には発生頻度が0.04%程度という報告もあり、まれな疾患です。やや女性に多いという報告が多く、30~50歳台が好発年齢とされます。それぞれの症状は消長を繰り返すうえ、関節炎と皮膚疾患の関連が強いとされているにもかかわらず、発症時に全ての症状がそろわない患者さんも多くみられます。原因は未だ不明で、確立された治療法はありませんが、長期的な予後(病気の見通し)は良好です。

症状

最も頻度が高い症状は、前胸壁(胸鎖関節・胸骨柄結合部)の痛みで、これについで脊椎、末梢関節、膝関節、仙腸関節の痛みが高頻度で、寛解(症状が落ち着いて安定した状態)と増悪(症状の悪化)を繰り返すのが特徴で、数日で軽快する場合から数年に及ぶこともあります。皮膚症状は80%程度にみられます。また発症様式によって3つの型に分けられ、海外からの報告では関節炎先行型32%、皮膚症状先行型39%、同時発症型29%とほぼ同じくらいの頻度です。日本からの報告では皮膚症状先行型の頻度が66%と多く、関節炎先行型が27%、同時発症型が7%です。掌蹠膿疱症がみられる症例では、皮疹が比較的特徴的で、関節炎の合併を疑って診察することもあることから、比較的診断がつきやすいですが、その他の皮疹を伴う場合は、関連に気がつかれない症例も少なくありません。

骨関節病変

前胸部の病変は65~90%程度の患者さんにみられ、本疾患の特徴的所見とされます。一般的に骨炎・骨化過剰症を来たし、それぞれ、疼痛・腫脹および骨性膨瘤がみられます。その他の関節では、一般的には膝、足、手指、足趾、仙腸関節、脊椎、大腿骨(遠位部)、脛骨(近位部)、下顎骨などが障害されます。脊椎・仙腸関節の関節炎は10~40%の患者さんにみられ、臨床所見、放射線検査による所見がSpA(脊椎関節炎)と類似し、鑑別が困難です。

皮膚病変

皮膚症状は80%を超える症例でみられ、特徴的なものとして、掌蹠膿疱症、ざ瘡、尋常性乾癬が挙げられます。それぞれ、掌蹠膿疱症が30%、重症ざ瘡20%、尋常性乾癬10%、掌蹠膿疱症と乾癬の合併が20%程度とされ、3者を合併する方も10%弱存在することから、診断に苦慮する例も多くあります。一方で15%前後の患者さんでは長年の経過でも皮膚病変がみられないこともあります。

診断

上記の臨床症状とレントゲン、CT、MRI、骨シンチグラフィーでの骨関節炎の証明、必要ならば骨病変の生検による他疾患の除外を行い総合的に判断して診断します。

X線、CT、MRIで骨硬化、骨皮質の肥厚像、関節裂隙の開大・癒合などがみられます。また、骨シンチグラフィーでは、胸鎖・胸肋関節の集積によって牛の頭のように見える"bull's head pattern"や、脊椎、仙腸関節などに集積があります。

世界的に診断に用いられることの多い基準を以下に示します(表1、2)。SAPHO症候群の皮膚病変として乾癬を含むか否かは基準により異なりますが、いずれの基準でも、特徴的な骨病変が存在すると皮膚病変がなくともSAPHO症候群と診断できることになります。先に述べましたが皮膚病変が存在しない症例や骨病変先行型が存在するのはこのためです。

表1.Benhamouらによって提唱されたSAPHO診断基準
(Clin Exp Rheumatol.6(2):109-12,1988から引用)

診断項目

1 重度のざ瘡を伴う関節病変
2 掌蹠膿疱症を伴う関節病変
3 四肢、脊椎、胸鎖・胸肋関節の骨肥厚症
4 体軸もしくは末梢の慢性再発性多発性骨髄炎

判定

上記4項目中1項目を満たし、下記除外項目がない場合に診断される

除外項目

化膿性骨髄炎、感染による胸壁の関節炎、感染性掌蹠膿疱症、手掌角化症、びまん性特発性骨増殖症(DISH)、レイチノイド療法に伴う骨関節病変


表2.Kahnらによって提唱されたSAPHO診断基準
(Oral Surg Oral Med Oral Pathol.78(5):594-8,1994から引用)

診断項目

1 慢性再発性多発性骨髄炎
2 掌蹠膿疱症、膿疱性乾癬、重度のざ瘡のいずれかを伴う急性・亜急性・慢性の関節炎
3 掌蹠膿疱症、膿疱性乾癬、尋常性乾癬、重度のざ瘡のいずれかを伴う重度の骨髄炎

判定

上記3項目中1項目を満たした場合


治療

現在のところ本疾患に対する確立した治療法はありませんが、対症療法に加え、下記のような治療が検討されています。

  1. 非ステロイド抗炎症薬(NSAIDs)
    関節・骨・皮膚病変ともにある程度の症状緩和の効果を指摘した報告があります。

  2. ステロイド、抗リウマチ薬(csDMARDs)
    ステロイドの関節注射は一時的な関節炎の緩和に、メトトレキサート、サラゾスルファピリジン、レフルノミドなどの抗リウマチ薬は一部の患者さんに効果があったとの報告があります。抗リウマチ薬は関節リウマチの使用法に準じて用います。

  3. ビスフォスフォネート製剤
    骨吸収抑制と部分的な抗炎症効果があることから骨関節病変に対し除痛効果、一部では治療効果があるとの報告があります。点滴製剤と経口製剤があり、日本でSAPHO症候群に対し主に用いられるのは経口製剤です。

  4. 生物学的製剤
    NSAIDs、ステロイド、抗リウマチ薬で治療効果の見られなかった患者さんに対し、生物学的製剤であるTNF阻害剤やIL-17阻害薬が用いられることがあります。生物学的製剤は関節リウマチや脊椎関節炎の使用法に準じて用いられます。TNF阻害薬は骨関節病変と皮膚病変双方に治療効果を示したとの報告がある一方で、再燃(再び病状が悪化すること)を起こした、重症例には無効であったとの報告もあります。また、炎症性腸疾患でTNF阻害剤使用中の患者さんでSAPHO症候群と類似の症状を起こしたとの報告もあり、治療効果の是非に関しては未だ議論のあるところです。掌蹠膿疱症を伴う場合にはIL-23p19阻害薬も使用されています。

  5. 抗菌薬
    SAPHO症候群を起こす機序の1つとしてCorynebacterium, P.acnesの慢性感染に対する 免疫反応の可能性が示唆されており、ドキシサイクリン、アジスロマイシン、クリンダマイシンなどの抗菌薬が一部の患者さんに効果があったとの報告があります。

  6. 扁桃摘出術
    特に掌蹠膿疱症を伴う場合には喫煙、歯科頭頸部領域の慢性感染症、金属アレルギーなどとの関連が報告されており、これらの要因を除いたり、扁桃摘出術を行ったりすることがあります。

慶應義塾大学病院での取り組み

レントゲンのみならず必要に応じてCT・MRI・骨シンチグラフィーを実施し、関節リウマチを含めた膠原病、他疾患との鑑別を行い、早期診断・早期治療を心掛けております。

さらに詳しく知りたい方へ

文責: リウマチ・膠原病内科外部リンク
最終更新日:2024年8月9日

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