聴神経腫瘍(脳神経外科)
概要
聴神経とは脳(脳幹)と耳を結ぶ第8脳神経のことで、聞こえの情報を脳に送る蝸牛神経(かぎゅうしんけい)と平衡感覚についての情報を送る前庭神経(ぜんていしんけい)との2種類の神経の総称です。これらの神経に生じる腫瘍を聴神経腫瘍といいます(大部分は前庭神経から生じ、前庭神経鞘腫ともいいます)。ほとんどは良性腫瘍ですが、腫瘍が神経を障害することによって、めまいや難聴、耳鳴りを発症します。また、腫瘍が大きくなると、顔面神経麻痺(運動障害)や顔面のけいれん、顔面の知覚麻痺などを生じる他、脳を圧迫することで歩行障害や意識障害等を生じます。さらに腫瘍が大きくなると脳の圧迫が進み、命に関わることもあります。聴神経腫瘍は、脳腫瘍の7~10%を占めるとされており、良性の脳腫瘍の中では3番目に多い腫瘍です。その発生頻度は10万人に対して1人程度といわれています。なお、類似の症状を示すものとして、顔面神経鞘腫がありますが、同様に診断、治療を行います。
診断
種々の聴力検査を行い、聴覚障害の程度を検討します。さらに平衡機能の検査を行って、前庭神経の障害の程度についても確認します。また症状によっては、顔面神経の機能など、その他の神経の状態についても、いろいろな検査を追加しますが、最終的には造影剤を使ったMRIが必要になります(図1)。
図1
治療
聴神経腫瘍の治療法には、手術と放射線治療の2つがあります。また、聴神経腫瘍のほとんどが良性腫瘍であり、多くの場合1年で平均1mm程度しか大きくならないことから、腫瘍が大きくなければしばらく経過を観察することもあります。治療を行うか経過を観察するかは、腫瘍の大きさと聴力障害の程度、年齢などを考えて決定します。また、どの治療法を選択するかも、腫瘍の大きさ、聴力障害の程度、患者さんの年齢と全身状態を考慮しながら、また、それぞれの治療の特徴と患者さんの希望をお聞きしながら決定します。
なお、腫瘍が変性を起こして比較的急速に大きくなることがありますので、経過観察をする場合は、必ず定期的に専門医を継続して受診してください。
聴神経腫瘍の治療の目的は、腫瘍が小さいときには、将来聴力障害が出現したり、さらに悪化することを予防すること(聴力温存)です。腫瘍が大きくなり、脳に触れたり、脳を圧迫する場合には、将来的に生命を脅かすことを予防する目的で治療が必要となります。
慶應義塾大学病院での取り組み
当院では、脳神経外科と耳鼻咽喉科との共同で、1980年代より聴神経腫瘍の診断治療を積極的に行っており、手術実績は1,300例以上と、国内随一の経験数です。聴神経腫瘍手術の際に最も問題となる顔面神経麻痺は、現在ではほとんどなく、聴力の温存を最大の課題としています。脳神経外科、耳鼻咽喉科のどちらを受診されても、最適の治療を共同でご提供しますので、お気軽にご相談ください。
文責:
脳神経外科
最終更新日:2018年3月23日