水疱性角膜症
概要
角膜内皮細胞の機能不全により、角膜が浮腫状に混濁する病気です。角膜内皮細胞は、角膜の一番内側にある細胞で、角膜内の水分量を調節している細胞です。具体的には、角膜内にたまった水分をポンプ機能により排出する役割を担っています。この機能により、角膜の水分量は一定に保たれ、角膜の厚みや透明性が維持されています。この機能が障害されますと、角膜内の水分が排出できなくなり、角膜は浮腫(むくみ)で厚くなり透明性も低下します。また、浮腫のために角膜の表面を覆っている角膜上皮が剥がれやすくなります。
図1.水疱性角膜症(角膜の浮腫を認めている)
角膜内皮細胞
角膜の一番内側にある細胞で、再生機能がなく、加齢により減少します。また、コンタクトレンズの長期装用や眼内の手術や炎症、外傷によっても減少します。遺伝的に少ない病気もあります。年齢にもよりますが、角膜内皮細胞の正常値は細胞密度で表すと2,500~3,000個/mm2程度です。この角膜内皮細胞が約500個/mm2以下になると内皮細胞のポンプ機能が低下し、角膜が浮腫状となります。
症状
角膜が浮腫状に混濁することにより、視力が低下します。また、角膜上皮が剥がれると激しい痛みが生じることがあります。
診断
細隙灯顕微鏡検査で角膜が浮腫状に混濁している所見、角膜厚の増加、角膜内皮細胞密度の低下(500個/mm2以下、もしくは測定不能)により診断します。
治療
視力の低下が軽度であればそのまま経過をみますが、角膜上皮が剥がれ痛みが生じている場合は、ソフトコンタクトレンズの装用や高張食塩水の点眼、軟膏で経過をみます。高張食塩水の点眼や軟膏により浸透圧の作用で角膜内にたまった水分を一時的に排出する効果があります。視力の低下が高度であり、ソフトコンタクトレンズや高張食塩水で痛みが軽減しない場合などは、角膜移植が適応となります。以前は全層角膜移植のみを行っていましたが、最近は「角膜パーツ移植」の概念が生まれ、障害部位のみを移植する方法が発達してきました。水疱性角膜症は内皮細胞が障害されていますので、角膜内皮細胞を移植する角膜内皮移植が行われるようになってきました。全層角膜移植と角膜内皮移植のメリット・デメリットは以下の通りです。
- 全層角膜移植
メリット:
視力の向上が良好、視力の向上が早い、移植片の接着が良好
デメリット:
手術中の危篤な合併症、縫合糸による術後の乱視や感染のリスク、眼球の強度の脆弱化など
図2.全層角膜移植後(角膜の透明性良好である。縫合糸を使用している。)
- 角膜内皮移植
メリット:
手術時間が短く手技がより簡便、手術中の危篤な合併症が少ない、縫合糸で移植片を接着させないため、術後の屈折変化や乱視の変化が少なく、また縫合糸感染もない、眼球の強度が保たれる
デメリット:
移植片接着不良(空気の浮力で移植片の接着を図るため)の可能性、手術後の体位制限(仰向け)が必要、手術後の急激な眼圧上昇の可能性
水疱性角膜症の罹患期間が長い例や浮腫が強い例、緑内障の手術をされている例などは適応にならない場合もあります。
図3.角膜内皮移植後(角膜の透明性良好である。縫合糸を使用していない。)
慶應義塾大学病院での取り組み
慶應義塾大学病院では、水疱性角膜症の病態に応じて最適な治療法を提示させていただき、患者さんと話し合って治療方法を選択していきます。また、当院は日本で最も古いアイバンク(慶大眼球銀行)を併設した歴史があり、角膜移植の際には、長い経験と蓄積された技術・情報を元に、アイバンクを通して公平・公正で安全な角膜を提供しています。
文責:眼科
最終更新日:2024年2月27日