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成人の鼠径部ヘルニア

せいじんのそけいぶへるにあ

概要

鼠径部ヘルニアは、腹部のヘルニアで最も多くみられるものです。腸などの内臓が鼠径部(太ももの付け根)から外に飛び出して膨らんでくる病気です。腸が出てくることが多いため俗に「脱腸」と呼ばれますが、腸以外に大網(たいもう:胃から垂れ下がって腸を覆う大きな網のような脂肪組織)や卵巣、膀胱などが脱出することもあります。体表の所見だけでは、出ている臓器が何かは分かりません。鼠径部ヘルニアは、脱出する経路により、間接(外)鼠径ヘルニア、直接(内)鼠径ヘルニア、大腿ヘルニアの3つに大別されます(図1)。このうち間接鼠径ヘルニアと直接鼠径ヘルニアを合わせて鼠径ヘルニア(英名: inguinal hernia)といいます。また、術後の再発ヘルニアや、いずれにも属さない特殊型のヘルニアもあります。鼠径部ヘルニアは小児と高齢者に比較的多くみられますが、すべての年齢で起こりえます。なお、小児の鼠径ヘルニアは別項で詳しく説明します。

図1

図1. ヘルニアの発生部位

症状と原因

症状

鼠径部に膨らみがみられます。多くは腹圧をかけると飛び出し、仰向けになると元に戻ります。痛みや違和感を伴うこともあります。放置すると次第に大きくなり、男性では陰嚢に達することもあります。
内蔵が嵌まり込んだ状態を嵌頓(かんとん)といいます(図2)。まれなことですが、元に戻らない場合、腸閉塞となることがあり、腹痛、嘔吐、発熱がみられ、緊急手術を要します。

原因

成人の場合、加齢により鼠径部の構造が弱くなったり、飛び出しやすい形をしている状態を背景として、重いものをも持ったり、便秘や咳などにより腹圧が高くなったことを契機に脱出するようになります。筋肉が弱くなったことが原因ではないので、腹筋を鍛えても治りません。前立腺の手術後にヘルニアが発生しやすい傾向も認められています。遺伝に関しては明らかではありませんが、親子で顔が似ているのと同じように、鼠径部の形が似ているために、ヘルニアになりやすい傾向はあるかも知れません。

図2

図2. 嵌頓(かんとん)ヘルニア

検査と診断

典型的な鼠径部ヘルニアは身体所見と触診で診断されます。詳しく調べるときには超音波検査、CT検査を行うことがあります。

治療

成人の鼠径部ヘルニアは自然に治癒することはありません。放置すると年単位で徐々に大きくなります。可能性は低いのですが、嵌頓を起こすことがまれにあります。手術以外に根治的な治療法はありませんが、一時的にバンドで脱出しないように押さえることはできますが、おすすめできる対処法ではありません。手術では脱出した内臓をお腹の中に戻し、腹壁の孔をふさぎます。以前は腰椎麻酔下に鼠径部を切開し、孔を縫合して閉じたり筋膜で補強したりしました。現在は腹腔鏡を用いてお腹の中の方からメッシュ(人工の網)で孔をふさぐ方法や、局所麻酔下に鼠径部を切開してメッシュで孔をふさぐ手術法が普及しています。メッシュは人工物で、体内で溶けたり吸収されることはありませんが、特に害はありません。30歳代以下の患者さんではメッシュを使用することの是非に関して議論があり、従来の方法で手術をする方が無難ともいえます。万一メッシュが感染した場合には、感染したメッシュを除去する必要があります。日帰り手術で治療する医療機関もありますが、当院では2泊3日(一部の病棟では1泊2日)の入院を原則としています。一般に、術後、数パーセントの頻度で再発がみられます。その場合、再手術を要します。当院では1%以下です。

生活上の注意

術後早期は、腹圧のかかることは避け、無理はしないようにしてください。

文責: 一般・消化器外科外部リンク
最終更新日:2019年2月27日

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