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眼瞼下垂

がんけんかすい

概要

眼瞼下垂(がんけんかすい)とは、顔を正面に向けたときにまぶたが瞳孔の上まで充分に上げられない状態をいいます。片側の場合も両側の場合もあります。

正常な上まぶた

正常な上まぶた:
黒目の上方にまぶたが少しかかっている


軽い眼瞼下垂

軽い眼瞼下垂:
まぶたが瞳孔にかかっている


重い眼瞼下垂

重い眼瞼下垂:
まぶたが瞳孔をふさいでいる


眼瞼下垂は主に先天性眼瞼下垂(生まれつきの眼瞼下垂)、後天性眼瞼下垂(生まれたときは眼瞼下垂はなかったがその後まぶたが下がってきた状態)、偽眼瞼下垂(一見眼瞼下垂のようであるがそうではない状態)に分類されます。原因や程度により治療法や治療効果などが異なります。最も頻度が高いのは後天性の眼瞼下垂です。

眼瞼下垂の分類

先天性眼瞼下垂

単純先天性眼瞼下垂
瞼裂狭小症候群          など

後天性眼瞼下垂

腱膜性眼瞼下垂
・ 加齢性眼瞼下垂
・ ハードコンタクトレンズ眼瞼下垂
神経に問題がある眼瞼下垂
・ 重症筋無力症
・ 動眼神経麻痺(脳梗塞、脳動脈瘤など)
筋肉に問題がある眼瞼下垂
・ ミトコンドリアミオパチー
・ 筋強直性ジストロフィー    など

偽眼瞼下垂

眼瞼皮膚弛緩症
眉毛下垂
眼瞼痙攣
眼球陥凹
小眼球症             など


先天性眼瞼下垂はまぶたを上げ下げする筋肉である上眼瞼挙筋(じょうがんけんきょきん)自体の発達やそれを動かす神経の発達異常によるものと考えられていて、生まれつきまぶたが下がっている状態です。約80%が片側性です。ほとんどの場合視機能の障害を及ぼすことはなく、通常は手術を急ぐことはありませんが、まれに弱視や斜視の原因となったり、これらを合併している場合もありますので眼科での診察と経過観察が必要です。

後天性眼瞼下垂とは、もともとは普通にまぶたが開いていた人が少しずつまたは急にまぶたが下がってきた状態です。ほとんどの場合は数年間かけて少しずつ下がってくる腱膜性(けんまくせい)の眼瞼下垂です。腱膜とはまぶたを上げ下げする筋肉(上眼瞼挙筋)の末端部の腱のことであり、これが伸びたりゆるんだりしてしまうことによる眼瞼下垂を腱膜性眼瞼下垂といいます。いわゆる「年をとって目が小さくなってきた」という加齢性の眼瞼下垂の場合が最も多くみられます。その他ではハードコンタクトレンズの長期装用者や内眼手術(白内障手術、緑内障手術、硝子体手術など)の既往のある人にも生じてくることもあります。ほとんどの後天性眼瞼下垂がこの腱膜性眼瞼下垂ですが、まれに神経や筋肉が原因の場合もありますので注意が必要です。

偽眼瞼下垂とは本当は眼瞼下垂ではない状態で、眉毛下垂や眼瞼痙攣、眼瞼皮膚弛緩症、眼球陥凹、小眼球症などにより、一見眼瞼下垂のようにみえてしまう状態です。

眼瞼の解剖図

眼瞼の解剖図
眼球の後方からまぶたを動かす筋肉(上眼瞼挙筋)がのびてきて、その末端の膜(上眼瞼挙筋腱膜)がまぶたの組織につながっている。

症状

まぶたをきちんと上げることが困難になるために、無意識に前頭筋(おでこの筋肉)を使ってまぶたを上げる手助けをしようとします。そのために眉毛の位置が上がり、おでこにしわが寄ります。それでも視野が狭い場合には正面を見る際にあごを上げるようになります。眼精疲労や頭痛、肩こりの原因になるともいわれています。まぶたを上げ下げする筋肉の末端(上眼瞼挙筋腱膜)は二重まぶたをつくる膜でもあるので、眼瞼下垂が生じてくると、二重の幅が広くなってきたり三重まぶたになってきたりします。

後天性眼瞼下垂の一部には複視(ものが二重に見える)を伴うものもあり、急いで対応した方がよいものも含まれています。これは眼科や内科できちんとした診断と治療を受ける必要があります。

診断

正面を見た状態で上眼瞼が瞳孔にかかっていたら眼瞼下垂です。鏡で見て程度がわかりにくい場合は、フラッシュつきのデジタルカメラにて撮影をすると判定しやすくなります。どのタイプの眼瞼下垂かを診断するには、上眼瞼挙筋機能の測定が重要です。これは前述した眼瞼を上げ下げする筋肉(上眼瞼挙筋)がどれくらい動いているかを見るものです。眉毛の上を押さえ、おでこの力を使わないようにした状態にして、最も下を見たときと最も上を見たときのまぶたのきわの移動距離を測定します。上眼瞼挙筋機能は通常15mm程度です。後天性眼瞼下垂で最も頻度の高い、腱膜性の眼瞼下垂は腱膜の付着部が少々ずれただけの状態であり挙筋そのものの運動は問題ないので、上眼瞼挙筋機能は正常に保たれています。上眼瞼挙筋機能が低下していれば筋肉そのものかそれを動かす神経に問題がある可能性があります。

ある日急にまぶたが下がった場合には脳梗塞、脳動脈瘤や糖尿病などによる動眼神経麻痺などが疑われますのでCTMRIでの頭蓋内の検査や血液検査を要します。朝は普通にまぶたが上がっているが夕方になると開かなくなるというように日内変動が大きい場合は重症筋無力症という神経の疾患が考えられ血液検査などを要します。筋肉自体に問題があるものとしては、ミトコンドリアミオパチーや筋強直性ジストロフィーなどがありますがとてもまれです。

いつから眼瞼下垂が生じてきたかということも診断の助けになります。先天性眼瞼下垂は生まれつきまぶたが下がっている(上がらない)状態ですので、いつから下がっているかを聞くことにより比較的診断は容易です。先天性眼瞼下垂は程度が様々であり、ごく軽度のものであれば本人にも気付かずに経過することもあり、これに加齢性の変化が加わった場合は診断困難な場合もあります。先天性眼瞼下垂はまぶた自体の動きが悪いため、まぶたが上がらないだけではなく下がりも悪い状態です。下を見たときに上まぶたが下がらずに白目が見えてしまったり、目を閉じたときにきちんと閉じきれず、少し白目が見えていたりします(閉瞼不全)。

治療

先天性眼瞼下垂や腱膜性眼瞼下垂に対しては、まぶたを上げる手術を行います。
脳梗塞や重症筋無力症のようにほかに病気があってそのため眼瞼下垂が生じている場合は、原因の病気の治療を行います。これらの眼瞼下垂は、自然に回復してくることも多いのでそのまま様子をみて6~12か月経過しても改善しない場合はまぶたを上げる手術を行います。

眼瞼下垂の手術には大きく分けて2通りの方法があり、前述した上眼瞼挙筋の機能に応じて適応を考えます。小児であれば全身麻酔で行います。個人差がありますが10歳くらいから局所麻酔での手術が可能な場合もあります。大人であれば通常は局所麻酔で、条件によっては日帰り手術でも行えます。

上眼瞼挙筋機能が十分にある場合(腱膜性眼瞼下垂や軽度の先天性眼瞼下垂など)は、挙筋短縮術や挙筋前転術といわれている挙筋腱膜のずれを整復する手術、あるいは眼窩隔膜反転術を行います。これには皮膚を切開する方法とまぶたの裏の結膜を切開する方法がありますが、慶應義塾大学病院では基本的に皮膚切開で行っています。二重まぶたのしわに沿って皮膚を切開し、ゆるんでいる挙筋腱膜を縫合します。

上眼瞼挙筋機能が不良の場合(先天性眼瞼下垂や筋疾患、神経疾患治療後に残存した眼瞼下垂など)は、前頭筋吊り上げ術(ぜんとうきんつりあげじゅつ)を行います。これはおでこの筋肉の力を利用してまぶたを動かす方法で、まゆげの上とまつげの上の2か所を切開して何らかのもので連結させるものです。材料としては、ゴアテックスという人工の膜や太ももの奥の腱膜(大腿四頭筋腱膜)や太めの糸などが用いられます。ほかに眼輪筋という目の周囲の筋肉を利用して前頭筋に吊り上げる方法もあります。これらの手術の目的は、正面を見たときに少しでもまぶたを上げた状態にすることです。上眼瞼挙筋の動きを得ることはできませんので、術後は少なからず目を閉じることが困難になります。

手術後に予測されること

個人差がありますが、手術後1週間くらいはまぶたの腫れが強く出ることがあります。1か月くらいかけてかなり自然な状態になりますが、完全に回復するのには数か月かかります。腫れているあいだは二重まぶたの幅がとても広く見えますが、腫れがひけば予定していた二重の幅になります。

内出血が生じて青あざのようになる場合もありますが、皮下で広がりながら次第に吸収されてきます。一時的なものなので問題ありません。傷あとは通常、まぶたのしわに隠れてしまうので数か月するとほとんど分らなくなりますが、完全に消失するわけではありませんので、気にされる方は手術を受けないほうがよいでしょう。

まぶたが上がりすぎてしまった場合(過矯正)、まぶたの上がりが不足している場合(低矯正)、左右差がある場合は再手術を要すこともあります。傷あとや左右差などについては細心の注意を払いますが、容姿を気にする方は美容外科での手術を受けることをおすすめします。術後に上まぶたの皮膚のたるみが気になってくることがあります。この場合は、皮膚のたるみを切除する手術を行うことも可能です。

慶應義塾大学病院での取り組み

眼瞼下垂の診断と治療は、形成外科と眼科で行っています。基本的な治療指針はどちらの診療科でも変わりません。腱膜移植を伴うような重度のものや外傷後などの特殊なケースは形成外科で行いますが、一般的なものであれば眼科でも対応しています。

まぶたが瞳孔にかかっていないようなごく軽度の眼瞼下垂で視野が狭くなっているわけではない場合は、手術の目的が美容的(病気の治療ではなく、より美しくするための手術)なものになるので保険適用がありません。また、肩こりの解消目的の手術は当院で扱うことはできません。

さらに詳しく知りたい方へ

  • 野田実香(訳) 眼形成手術カラーアトラス エルゼビアー社
    医師向けの書籍ですので専門的な内容になっています。
  • 中島龍夫(編) 子どものための形成外科 永井書店
    小児の先天性疾患を中心に、平易に記載しています。

文責: 眼科外部リンク
最終更新日:2024年2月29日

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