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多発性筋炎・皮膚筋炎(polymyositis / dermatomyositis: PM/DM)

たはつせいきんえん ひふきんえん

概要

筋炎とは、手足などからだの筋肉に原因不明の炎症が生じ、これに伴い力が入らなくなったり、筋肉痛を起こしたりするのを基本的な症状とする病気です。特徴的な皮膚症状を伴う皮膚筋炎、伴わない多発性筋炎にこれまで分けられてきましたが、その一部は免疫介在性壊死性筋症という疾患に分類されることが近年の研究で提唱されています。ほかの膠原病と同様に女性に多く発症し、家族内発症(特定の家族内で多発すること)はまれといわれています。病状が進行すると日常生活に際して寝返りや起きあがり動作、歩行、階段昇降などが困難になってきます。この病気は、筋肉だけが障害される場合のほか、肺、心臓、関節などの臓器も障害されることがあります。病気の原因はわかっていませんが、自分の身体に対する抗体が自分自身を攻撃してしまう自己免疫疾患のひとつと考えられています。

厚生労働省では、原因がわかっていない難病とされるいくつかの病気について、国の事業として年1回調査をし、医療費の補助を行っています。そのような調査の対象になっている病気のことを「指定難病」と呼んでおり、本疾患はその1つです。

症状

筋肉の症状

大部分の患者さんで筋肉が障害され、疲れやすくなったり、筋力が低下して力が入らなくなったりします。緩徐に発症することが多く、はじめは自覚症状のない患者さんもいます。特に、太ももや二の腕、首などの身体に近い筋肉が障害されやすいとされていて、初発症状としては、例えば「しゃがんだ姿勢から立ち上がるのが困難となる」「お風呂に出入りするのがつらい」「バスに乗る時足が上がりにくい」「階段が昇りにくい」「洗濯物を物干しにかけるのがつらい」「高いところの物をとれない」「手に持ったものが普段より重く感じる」「頭を枕から持ち上げられない」などがあります。人によっては、物を飲み込むのに必要な筋肉が侵され物が飲み込みにくくなったりもします。

皮膚の症状

特徴的なものとして、「ヘリオトープ疹(ヘリオトロープとはキダチルリソウという紫色の花の咲く植物)」といわれるまぶたに紫紅色の腫れぼったい皮疹や、「ゴットロン丘疹」(図1)という手指の第二関節(近位指節間関節:PIP関節)や手指の付け根の関節(中手指節関節:MCP関節)の伸側(手の甲の側)に落屑を伴う紅色の皮疹があります。さらに、手指以外にも、肘・膝・足首などの関節の伸側面に生じた紅斑を含めて広く「ゴットロン徴候」と呼びます。その他、日光が当たる部分や物理的に擦れる部分にも皮疹が起きやすく、例えば、前胸部にV字状に出現する斑点状紅斑の「V徴候」、ショールを巻いたように首から肩の後ろにかけて出現する紅斑の「ショール徴候」、大腿の側面に出現する「ホルスター徴候(ホルスターとは拳銃を収める腰から提げるケース)」などの皮疹が知られています。皮膚の症状がみられるものの筋力低下がみられない場合もあります。

図1.ゴットロン丘疹

図1.ゴットロン丘疹

関節症状

関節痛・関節炎がみられることがあります。関節リウマチのように骨が破壊されたり、変形したりすることはなく、軽症のことが多いといわれています。

レイノー現象

寒冷時に手足の指先が真っ白になったり紫色に変色することをレイノー現象といいます(混合性結合組織病の頁混参照)。皮膚筋炎・多発性筋炎の患者さんでは約20~30%で見られますが、軽症のことが多いようです。

呼吸器症状

約30~40%の患者さんに間質性肺炎という特殊な肺炎を合併します。症状としては咳や動作後の息切れ、呼吸困難などの症状があります。急速に悪化すると生命にかかわることもあります。胸部レントゲン検査、胸部CT検査で診断され、肺活量の検査で肺の機能を調べたりします。

心臓の症状

心臓の筋肉が障害されて不整脈を起こしたり、心臓の力が弱ったりすることがあります。

その他の症状

発熱がみられたり、全身倦怠感、食欲不振、体重減少などがみられることがあります。

診断

1975年に発表されたBohanとPeterの診断基準(表1)、米国および欧州リウマチ学会(ACR/EULAR)の分類基準(表2)、厚生労働省の改訂診断基準外部リンクを参考に診断を行います。典型的な皮膚症状があるものの、筋肉の炎症がないかあっても軽症のケースもあります。この場合はこれらの診断基準を満たしませんが、無筋症性皮膚筋炎(Clinically amyopatic DM;CADM)と呼びます。CADMには間質性肺炎を合併することが多いのも特徴です。
筋肉の異常を調べるために血液検査やMRIなどの画像検査、筋電図/筋生検などの特殊な検査を行って診断を進めて行きます。

表1.BohanとPeterの多発性筋炎/皮膚筋炎 診断基準(1975年)
(N Engl J Med.292(7):344-7,1975から引用)

  1. 四肢近位筋、頸部屈筋の対称性筋力低下
  2. 筋原性酵素の上昇(CK、アルドラーゼ、AST、LDH)
  3. 定型的筋電図所見(筋原性変化)
  4. 定型的筋病理組織所見(筋線維の変性、壊死、貧食像、萎縮、再生、炎症性細胞浸潤)
  5. 定型的皮膚症状(ヘリオトロープ疹、ゴットロン徴候、膝・肘・内踝・顔面・上胸などの鱗屑性紅斑)

<判定>
確実例: 4項目以上(皮膚筋炎は5を含む)
疑い例: 3項目以上(皮膚筋炎は5を含む)
可能性のある例: 2項目以上(皮膚筋炎は5を含む)


表2.ACR/EULAR分類基準(2017年)
(Arthritis Rheumatol. 2017; 69: 2271-82. から引用)

項目

筋生検なし

筋生検なし

発症年齢

最初の症状の発現年齢18歳以上40歳未満

1.3

1.5

40歳以上

2.1

2.2

筋力低下

進行性の上肢近位筋の客観的な対称性筋力低下

0.7

0.7

進行性の下肢近位筋の客観的な対称性筋力低下

0.8

0.5

頸部伸筋より屈筋が相対的に低下

1.9

1.6

下肢近遠位筋より下肢近位筋が相対的に低下

0.9

1.2

皮膚症状

ヘリオトロープ疹

3.1

3.2

Gottron丘疹

2.1

2.7

Gottron徴候

3.3

3.7

臨床症状

嚥下障害または食道運動障害

0.7

0.6

検査所見

抗Jo-1抗体陽性

3.9

3.8

血清CK, LDH, AST, ALTなどの正常上限以上の上昇

1.3

1.4

筋生検

筋線維内には進入しない筋線維周囲の単核球の浸潤

-

1.7

筋周囲あるいは血管周囲の単核球の浸潤

1.2

筋束周辺部の萎縮

1.9

縁取り空砲

3.1


  • 筋生検なし→7.5以上でDefinite,5.5以上でProbable
  • 筋生検あり→8.7以上でDefinite,6.7以上でProbable

血液検査

筋炎においては「筋炎特異的自己抗体」という項目が採血で検出できることが多く、それぞれの抗体によって臨床症状が異なることが知られています。保険で測定できるものとして抗ARS抗体、抗Mi-2抗体、抗TIF1γ抗体、抗MDA5抗体があり、そのほかに保険収載はされていませんが抗SRP抗体、抗HMGCR抗体、抗NXP2抗体、抗SAE抗体などもこの疾患との関連が示されています。そのほか、近年は抗ミトコンドリア抗体陽性の筋炎も注目されています。

抗ARS抗体では間質性肺炎や皮膚症状、関節炎、レイノー現象、発熱が特徴的で、抗MDA5抗体では急速に進行する間質性肺炎や皮膚症状が特徴的です。抗SRP抗体、抗HMGCR抗体は特発性壊死性筋症という疾患群で陽性であることが多いです。

なお、筋炎と悪性腫瘍は合併が多いことも知られており(特にTIF1-γ抗体とNXP-2抗体)、診断の際には上部消化管内視鏡、便潜血検査、婦人科や乳腺腫瘍の検索を適宜おこないます。

筋電図

筋肉に微量な電気を流して、その反応を測定する検査です。これにより筋力低下の原因が、神経によるものではなく筋肉によるものであることを検索します。

筋生検

皮膚を切開して取り出した筋肉の一部を、特殊な方法で染色して顕微鏡で見る検査です。筋炎ならば炎症をおこすリンパ球などの細胞が筋肉内に多数みられます。リンパ球の浸潤は、多発性筋炎では筋内膜付近にCD8陽性の細胞障害性T細胞が多くみられ、非壊死筋線維を取り囲む、もしくは侵入する像を呈します。細胞障害性T細胞はMHC class Iを発現する非壊死線維に浸潤する組織像を示します。

一方、皮膚筋炎では、筋周膜やその血管周囲において主にB細胞がCD4陽性ヘルパーT細胞やマクロファージを伴って浸潤し、また、筋膜周囲の筋線維の萎縮(perifascicular atrophy)がみられることがあります。筋線維は大きいものから小さいものまで様々なものがみられ、さらに壊死・再生・変性などの変化があります。非壊死筋線維の筋細胞膜にMHC(major histocompatibility complex) class Iの発現亢進が見られます。さらに、筋束内の毛細血管に補体複合体の沈着も認めることがあります。

MRI

筋肉の炎症部位や程度がMRIによってわかることがあります。

治療

筋力の回復は発病後の治療開始が早いほど良いとされていますので、診断が確定したらできるだけ早く治療に入ります。治療は薬物療法が中心で、副腎皮質ホルモン剤(ステロイド)が効果的です。一般に大量ステロイド療法が行われ、筋力の回復、検査所見の改善を見ながら数か月間かけて、服用量を減量します。急速な減量は病気が再燃(再び病状が悪化する)したり、体の負担になるので行いません。ステロイドの早期の減量と病勢のコントロールを目的として、メトトレキサート(商品名:リウマトレックス®)、タクロリムス(商品名:プログラフ®)、シクロホスファミド(商品名:エンドキサン®)などの免疫抑制剤を用いることがあります。さらに、ステロイド剤が効果不十分な場合、筋力低下の改善を狙ってガンマグロブリン製剤大量療法(ガンマグロブリン 400mg/kg/日を5日間点滴静注)が使用されることがあります。 間質性肺炎が進行した場合は、複数の治療を組み合わせて行う場合があります。

身体のこわばり、動作の不自由さ・筋力の回復のために、リハビリテーションは重要です。しかし、開始時期や程度は患者さんの病状により様々です。一般的にクレアチニンキナーゼ(CK)が薬物療法により低下し正常値に近くなり、筋力が順調に回復していることを確認してから、徐々に開始します。無理な運動は禁物です。

生活上の注意

病気が改善するまではできるだけ安静にし、筋肉に負担をかけないようにすることが大切です。筋力低下があるからといって、自分の判断で筋力トレーニングなどは決して行わないでください。

慶應義塾大学病院での取り組み

できるだけ迅速に診断できるよう努力しています。
診断に重要な筋生検を入院のうえ、各科と協力して行い、専門家による顕微鏡での詳細な病理検査を実施し、各種抗体検査等も勘案し、診断を行っています。

さらに詳しく知りたい方へ

文責: リウマチ・膠原病内科外部リンク
最終更新日:2024年7月9日

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