脊髄刺激電極埋め込み術
概要
脊髄刺激電極埋め込み術とは、難治性の痛みに用いる治療法の1つで、脊髄を電気的に刺激して痛みを和らげようとするものです。脊髄は、痛みの感覚を脳に伝える伝導路となっています。脊髄に電気信号を送ると、体の中の痛い部分に心地良い刺激を与えることができ、痛みを和らげていきます。この方法は1960年代に考案された歴史の古い治療法です。電極装置も改良を重ね、より耐久性に優れたものが開発されております。そして、どのような痛みに効果があるかも分かってきたため、対象をきちんと選択して行うようになった結果、有効率も高く報告されるようになってきました。
以前は、脊髄刺激電極装置を埋め込んだ後はMRI検査が受けられないという欠点がありましたが、近年、MRI対応の刺激電極装置が開発されており、埋め込み後のMRI検査も可能になってきています。
装置について
脊髄に電気刺激を与えるために、最終的に2種類の機器を体に埋め込みます。1つは導線(電極リード)で、脊髄に電気刺激を与える電極が先端についています。もう1つは、電気刺激を発生させる刺激装置(ジェネレーター)で、回路と電池を内蔵しています。
治療の流れ
最終的な埋め込みまでの手順を以下に示します(図1)。
図1.治療の流れ
試験電極挿入術
この治療方法が患者さんの痛みに本当に効くのかを判断するため、まず、仮の電極リードを背中の皮膚から試験的に挿入します。これは、体の外から刺激装置をつなげて、いつでも電気刺激を行えるようにします。適切な部位に電極リードが挿入されると、もともと痛みがあった部位に刺激感が感じられ、痛みが和らぎます。この方法は、痛みを全て取り除けるわけではなく、半減すれば大いに成功といえます。この状態で約1週間入院し、痛みの取れ具合に満足できるか、痛みを抱えながらも毎日の生活が改善されるか、を患者さんご自身に判断していただきます。効果が自覚できて、埋め込み術をするメリットが大きいと判断された場合に、本埋め込み術を行うことになります。
埋め込み術
この場合には、電極リードを背中の皮膚から挿入し、ジェネレーターを臀部や腹部の皮下に埋め込みます。埋め込み終了後は、刺激装置を操作する機器を患者さんにお渡しします。
この治療で改善できる病気
内服薬や、神経ブロックなどの、体への侵襲が少ない治療法をまず試みて、それでも改善されない場合に、初めて検討します。このような難治性の痛みのうち、神経が障害されたために生じる痛みや、血流が不十分なため生じている痛みに有効と考えられています。適応疾患は下記のものが含まれます。
- 脊椎手術後の腰下肢痛
- 複合性局所疼痛症候群(ふくごうせいきょくしょとうつうしょうこうぐん)
- 末梢血管障害(まっしょうけっかんしょうがい)
- 幻肢痛(げんしつう)
- 不完全型の脊髄損傷
- その他 (ご相談に応じます。)
なお、血液を固まりにくくする薬を内服している患者さんや、もともと血液が固まりにくい患者さんには、この方法は行えません。どうしても必要な場合は、薬を処方している担当医に、内服薬を一時的に中止しても問題ないかを確認してから検討します。
合併症
- 感染:埋め込んだ電極リードや刺激装置が感染して抜去が必要になることがあります。
- 血腫:皮下や硬膜外に血の固まり(血腫)がたまることがあり、血腫を取り除く処置が必要になることがあります。
- 神経損傷:脊髄や末梢神経が傷ついて、しびれや麻痺(まひ)が生じることがあります。
- リードの断線、接続不良:入れ替えが必要になります。
文責:
麻酔科
最終更新日:2021年8月17日