急性腹症
概要
急激に発症した激しい腹痛で、緊急手術を必要とする可能性が高い急病の総称です。つまり急性腹症には、様々な病気が含まれ(表1)、早急な診断と治療を要します。現在では画像診断などの進歩により原因が特定されることが多くなり、病名として使われることは、ほとんどなくなりました。同じ診断名でも、その状態に応じて緊急手術や処置が必要な場合と、必要でない場合があります。
表1. 腹痛の原因となる病気
腹部 |
胃腸 |
胃・十二指腸潰瘍(穿孔) |
急性胃腸炎 |
肝臓 |
肝臓がん破裂 |
急性肝炎 |
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胆嚢・胆管 |
急性胆嚢炎 |
胆石発作 |
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膵臓 |
急性膵炎 |
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脾臓 |
脾破裂 |
脾梗塞 |
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腎臓・尿管 |
腎・尿路結石 |
腎梗塞 |
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血管 |
腹部大動脈瘤破裂・解離 |
腸間膜動静脈閉塞症 |
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婦人科系 |
子宮外妊娠 |
骨盤腹膜炎 |
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腹部以外 |
胸部 |
食道破裂 |
食道炎 |
全身性 |
膠原病 |
尿毒症 |
症状
急激に発症した激しい腹痛を指す総称ですので、腹痛以外に伴う症状も様々です。表1に挙げた疾患のうち、痛みの部位や性状で特徴的な痛みを示す場合もあります。医療機関受信の際には、どのような症状がいつから、どのくらい続いたかを説明できるように、まとめておくと診療がスムーズに進みます。強い痛みを我慢しているうちに状態が悪くなり、病状がこじれることがありますので、症状だけで、「これは胃炎だ」とか「腸炎だ」とか自己判断するのは危険です。
診断
救急外来では、まず緊急性があるかどうかの判断を行います。緊急性とは、緊急手術や処置と入院治療の必要性のことです。 緊急性の判断のために、以下の5つを行います。
- 腹痛が発症した前後の状況、腹痛の性状を聴取
- 身体診察
- 血液・尿検査
- レントゲン検査
- (必要に応じて)腹部超音波検査
患者さんから聴取した情報と身体診察によって、症状を起こしている部位(または臓器)と腹膜炎の程度とを見極めます。同時に血液検査によって、腹膜炎などの炎症所見を客観的に評価します。以上から、緊急性が高いと判断された場合は、さらに精密検査を行います。救急外来で一般的に行われる精密検査は以下のとおりです。
- 腹部CT検査(特に造影剤を用いたCT検査)
- (必要に応じて)胃・十二指腸内視鏡検査
近年、腹部造影CT検査の精度は極めて良くなっており、症状を起こしている急病の診断確定には、欠かせないものとなっています。疾患によっては、これらの検査後に、さらに別の精密検査が必要となる場合もあります。
治療
緊急性が高くないと判断した場合、救急科外来で輸液や薬剤による治療を行い、経過を診させていただきます。外来での治療が奏効すれば、必要に応じて薬が処方され帰宅可能となります。 緊急性が高く、精密検査によって診断が確定した場合は、疾患や重症度に応じた治療が必要となります(それぞれの治療方法に関しては他科の解説を参照してください)。
- 胃・十二指腸の急病(→他科リンク:胃潰瘍十二指腸潰瘍)
- 小腸・大腸の急病
- 肝臓・胆道・膵臓の急病(→他科リンク:胆石)
- 腹部血管の急病(→他科リンク:腹部大動脈瘤)
- 泌尿・生殖器の急病(→他科リンク:尿路結石、月経異常)
慶應義塾大学病院での取り組み
救急科では、幅広く急性腹症の患者さんを受け入れ、正確な診断を行い、各専門科(一般・消化器外科、心臓血管外科、泌尿器科、産婦人科、消化器内科など)と綿密な連携を取りながら診断・治療を行っています。
さらに詳しく知りたい方へ
- 救急レジデントマニュアル. 第5版 / 堀進悟, 藤島清太郎編集
東京 : 医学書院, 2013.10 - 急性腹症診療ガイドライン2015 / 急性腹症診療ガイドライン出版委員会編
東京 : 医学書院, 2015.3
文責:
救急科
最終更新日:2018年1月15日