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メタボリック症候群

めたぼりっくしょうこうぐん

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概要

メタボリック症候群(またはメタボリックシンドローム)とは、生活習慣病といわれる肥満症高血圧症、耐糖能障害(たいとうのうしょうがい:食後に吸収されて血管内に入った糖が利用されずに血管内に留まる状態)、脂質異常症などの危険因子が、1人の患者さんに集積する状態のことをいいます。これら危険因子が集積すると、虚血性心疾患(心臓に栄養を送る血管が細くなったり、詰まったりすることで心臓に十分に血流が行き渡らない状態)や脳血管障害(脳に栄養を送る血管が細くなったり、詰まったりすることで脳に十分に血流が行き渡らない状態)などの動脈硬化性疾患を発症します。我が国では、動脈硬化性疾患による死因は約30%以上にものぼると推測されています。このために、患者さん一人一人の状態をより早期に知る必要があり、日本では2005年にその定義、診断基準が明確にされ、一般に認知されています。

メタボリック症候群では、肥満、特に内臓脂肪蓄積型肥満が病態の上流にあり、遺伝的背景(体質)に環境因子が加わり、各危険因子が経時的に連鎖することで動脈硬化性疾患を発症します。それぞれの危険因子の経時的な連鎖をドミノ倒しに見立てたものが「メタボリックドミノ」の図として表されます(図1)。これらの病態生理については盛んに研究が行われ、治療についての根拠も蓄積してきています。とりわけ、メタボリック症候群の予防のためには、食事・運動療法を含めた生活習慣の改善が重要です。

図1. メタボリックドミノの概念図

図1. メタボリックドミノの概念図
(伊藤裕教授 提唱)

2007年5月の厚生労働省の発表では、日本人のメタボリック症候群の患者さんは、予備軍を含め1,940万人と推定され、先進国を中心にその病態を一般に啓発し、疾病予防を目指す政策が模索されています。我が国では、2008年度より、医療保険者による定期健診(勤労者では労働安全衛生法)に腹囲測定が追加され、メタボリック症候群に着目した特定健診・保健指導プログラムが開始されました。2018年1月には国立循環器病研究センターが特定健康診査や特定保健指導の結果を集約した「ナショナルデータベース」を分析し、特定保健指導により3年後にメタボリック症候群は31%減少し、腹部肥満も33%改善、心血管リスクも有意に改善したと報告しています。

症状

メタボリック症候群の患者さんは、「メタボリックドミノ」の図で上流から中流にかけての多くの場合、ほとんど症状がありません。「飲み過ぎ、食べ過ぎ、運動不足」などの生活習慣の乱れは、過体重(かたいじゅう)、肥満を来します。肥満は、皮下に脂肪のたまりやすい皮下脂肪型肥満と、小腸などの内臓の周囲に脂肪のたまりやすい内臓脂肪型肥満とに分類されます。外見上から、皮下脂肪型肥満は「洋なし型肥満」、内臓脂肪型肥満は「りんご型肥満」ともいわれます。このうち、メタボリック症候群の危険度が増すのは「りんご型」体型の内臓脂肪型肥満です。内臓脂肪型肥満ではインスリンという血糖を下げるホルモンの効きが悪くなり、この状態を「インスリン抵抗性」といいます。この「インスリン抵抗性」が、ホルモンのバランスや血管の状態を悪化させることが示されています。こうした観点から、メタボリック症候群の症状として、「ズボンのベルトがきつくなった」、「洋服屋さんでウェストを測ってもらったら90cmといわれた」といった腹囲、ウェストの増大を示す症状は重要です。

この内臓脂肪肥満に加えて、高血圧症、耐糖能障害、脂質異常症のうち2項目を満たす場合にメタボリック症候群と診断されますが、上述のように、メタボリック症候群と診断された時点で症状のある患者さんはほとんどいません。この時点で、「症状がないから」と生活習慣を見直さないと、「メタボリックドミノ」の下流に進み、様々な症状をひき起こしてしまいます。網膜症による失明、腎症による血液透析、神経障害による下肢切断は、糖尿病の3大合併症です。狭心症、心筋梗塞は「胸痛」を起こし、脳血管障害は、「頭痛」「麻痺」などの症状を来します。メタボリック症候群は、これらの症状を来す前に、患者さん自身に生活習慣を見直し、改善していただくことを目的に確立された概念なのです。

診断

重要なことは、患者さんに「ご自身の状態を知ってもらう」ことです。健康診断のお知らせが来たら、ぜひ受診しましょう。「悪いところはないから」とか、「病院にかかっているから」といって無視してはいけません。もし、あなたが通院していてその病気に対する診療は施されても、全身のチェックを受けているとは限りません。ぜひ、健康診断やがん検診などをご活用ください。

メタボリック症候群については、我が国において日本内科学会が中心となって作成した診断基準があります(表1)。これは上述のように、ウェスト周囲長を計測し、男性であれば85cm以上、女性であれば90cm以上の場合に、空腹時の血液検査で、1) 中性脂肪(トリグリセライド)値が150mg/dL以上または善玉コレステロールであるHDL-コレステロール値が40mg/dL未満、2) 収縮期血圧130mmHg以上かつ/または拡張期血圧85mmHg以上、3) 空腹時血糖値110mg/dL以上、の3項目のうち2つ以上を満たす場合に、メタボリック症候群と診断されます。このほかでも、例えば、糖尿病で血糖を下げる薬を飲んでいる方は、耐糖能障害として3項目のうちの1つに含めます。

表1 日本のメタボリック症候群の診断基準

治療

メタボリック症候群の治療は、「メタボリックドミノ」のドミノ倒しの駒が倒れるのを止めることと同じであり、初期の段階から積極的に介入し、メタボリック症候群の進行を止める必要があります。最上流では、個々の症例の生活習慣や体型に応じた適正体重、目標体重を設定し、生活習慣の是正、食事、運動療法を指導します。具体的には、1kg減量するために約7,000kcalのエネルギーのマイナスバランスが必要であることを念頭に、目標体重までの必要エネルギー量を計算し、1日のエネルギーバランスと照らし合わせます。例えば、茶わん1杯分(約150~200kcalと計算する)のご飯相当を1日の食事量から減らせば、約1~1.5か月で約1kgの減量につながります。また、運動療法は有酸素運動、いわゆるウォーキングやジョギングなどが望ましいとされています。平均約200~250kcalの消費エネルギーと計算される1日に8千~1万歩のウォーキングを約1か月実施することで、約1kgの減量を達成できます。また、「駅では階段を利用する」、「テレビのリモコンは使わない」といったわずかな工夫で身体活動量を高めることも消費エネルギー増大に重要です。

生活上の注意

メタボリック症候群から種々の病態を予防するために、まずご自身の状態を知ってください。対象となる健康診断や検診を受診してください。また、上記の治療に示すように生活習慣の改善、具体的には、「腹八分目」や「よく噛むこと」、「身体活動量を増やすこと」に努めてください。さらに規則的な生活、充分な睡眠、喫煙者は禁煙を心がけてください。

図

慶應義塾大学病院での取り組み

  • 糖尿病外来を初診される患者さんのウェスト周囲長を測定しています。
  • 栄養士さんと面談していただき、ご自身の現在のカロリー摂取状態、適切なカロリーを知っていただくことができます。
  • 肥満症診療に対する医療チームを立ち上げ、全人的な治療を目指しています。

さらに詳しく知りたい方へ

文責: 腎臓・内分泌・代謝内科外部リンク
最終更新日:2023年3月14日

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