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糖尿病網膜症

とうにょうびょうもうまくしょう

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概要

厚生労働省の調査によれば、糖尿病が強く疑われる人は約740万人、糖尿病の可能性を否定できない人は約880万人存在し、両者を併せると日本人の8人に1人が糖尿病の可能性があることになっています。糖尿病ではいろいろな合併症が生じますが、眼の合併症の代表的なものに糖尿病網膜症があります。網膜症の頻度は約40%とされ、現在も我が国における中途失明原因の第一位です。網膜とは、私たちの眼の奥にある部分で、カメラのフィルムに相当するところです。私たちがものを見るためにとても大切な役割を果たしています。網膜には細かい血管が全体に張りめぐらされていますが、糖尿病によって血糖値の高い状態が続くと、血管に多くの負担がかかり、血液の流れが悪くなってきます。細かい血管が密集している網膜は、高血糖の影響を非常に受けやすいのです。その変化は網膜の機能を徐々に損ない、最終的には著しい視力低下、そしてときには失明につながります。

しかしながら、現在では糖尿病網膜症によって失明する人は減少してきています。それは、病気のメカニズムが明らかとなって、適切な時期に適切な治療を行うことによって病気の進行を食い止められるケースが増えてきたからです。糖尿病網膜症を知ること、それが糖尿病網膜症から目を守ることの第一歩です。

症状

糖尿病網膜症の治療は、その病期によって異なります。眼科的な治療としては、網膜光凝固術(レーザー光凝固)、黄斑浮腫に対する薬物療法、硝子体手術があります。

  1. 血糖コントロール:一般的に、単純網膜症の段階では血糖コントロールを良好に保っていくことで、眼底所見が自然に軽快することが知られています。血糖コントロールが安定していることは、網膜症の進行を予防することにもつながりますので、大変重要です。
  2. 黄斑浮腫による薬物療法:糖尿病網膜症のどのステージでも黄斑浮腫は起こる可能性があり、視力低下につながります。糖尿病黄斑浮腫に対しては抗VEGF(血管内皮細胞増殖因子)薬やステロイドの注射を行うことがあります。ステロイドの注射の場合、血糖値の悪化が起こることがあり、注意を要します。詳しくは黄斑疾患をご参照ください。
  3. 網膜光凝固術(レーザー光凝固術):虚血に陥った網膜から新生血管が生じることを防ぐために、レーザー光凝固術を行います。新生血管とは、血液の流れが悪くなったり止まってしまったりしたときに、それを補うために急いでつくられる新しい血管です。糖尿病網膜症によって失明に至る場合は、この新生血管が大きく関わっています。新生血管は血液の流れの悪い部分、すなわち虚血網膜が存在するために生じるわけですから、虚血網膜をレーザーで処置することによって新生血管を作る反応を抑えることができます。よってレーザー光凝固術は網膜に虚血のある段階、増殖前網膜症と増殖網膜症がその対象です。外来通院で、3~4回に分けて行うことが一般的です。1回の治療は、約15分程度です。目薬の麻酔で行い、まぶしい感じはしますが、ひどい痛みはありません。レーザー治療は、早期であれば80%有効で、時期が遅くなると有効率が 50~60%に低下します。この治療は視力が良くなるわけではありませんが、網膜症の進行を予防するために大変有効です。
  4. 硝子体手術:レーザー光凝固術で抑えきれなかった増殖網膜症に対しては、硝子体手術と呼ばれる手術療法を行います。主に、前述の硝子体出血や網膜剥離を生じた増殖網膜症がその対象となり、硝子体内の出血を取り除いたり、出血の原因となる新生血管を処置したり、剥がれた網膜を元に戻すことなどが、手術の目的となります。この手術は難しく、視力や視野などの現状維持がその目標となります。約1週間程度の入院が必要で、手術は局所麻酔で行うことが一般的です(一部の糖尿病黄斑浮腫に対しても硝子体手術が行われることもあります)。

以上、良好な血糖コントロールを保つこと、そして眼科で眼底検査を定期的に受けて少しでも早い段階で網膜虚血を発見することがとても大切なのがお分かりいただけると思います。自覚症状がないとき、その時期こそが糖尿病網膜症による視力低下を防ぐ時期なのです。

糖尿病網膜症の病期

糖尿病にかかっている期間やその状態悪化によって、下記のような変化が生じます。

  1. 単純網膜症:網膜症の初期段階です。網膜の毛細血管が障害され始め、毛細血管瘤と呼ばれる小さなこぶのようなふくらみができたり、血管の壁から血液が滲み出して点状・斑状出血が生じたり、血液中の血漿成分が滲み出してできる硬性白斑などが出現してきます。自覚症状はないのが一般的ですが、毛細血管瘤や傷んでしまった網膜の毛細血管から血液中の水分が漏れて網膜がむくんだ状態(糖尿病黄斑浮腫)になると、視力が低下する場合があります。
    図1
  2. 増殖前網膜症:血管が詰まって、網膜の一部に血液が流れていない部分が生じてきます。血液の流れが悪い部分の細胞が変化して生じる軟性白斑、血管が閉塞するために生じる網膜虚血などが生じます。この時点でも自覚症状はないことが多いですが、前述の黄斑浮腫が悪化すると視力低下を来します。
    図2
  3. 増殖網膜症:血管が閉塞して虚血に陥った網膜は、何とかその機能を保とうとして様々な変化を引き起こします。その一つが、新生血管と呼ばれる不完全な血管が伸びてくる変化です。眼球内には、硝子体と呼ばれる透明なゲル状の物質がありますが、虚血網膜とその間に新生血管が生じます。この血管は、大変もろく出血しやすい血管ですので、新生血管が破れて眼球内に出血が広がると硝子体出血という状態になり、重篤な視力低下を来します。また、新生血管が破れることなく、その代わりに網膜を引っ張り上げるような反応を起こすと、網膜剥離という失明につながる病気を引き起こします。
    図3

このように、糖尿病網膜症は初期には視力低下が自覚されにくく、気づいたときにはかなり病気が進んでいるという病気です。つまり、うっかりすると治療時期を逃してしまう場合があるので注意が必要です。視力が低下する前から定期的に検査を受け、前述のごとく必要な時期に適切な治療を受けられるようにしておくこと、それが糖尿病から眼を守る最善の手段となります。

糖尿病網膜症の検査

自覚症状の現れにくい糖尿病網膜症があるかどうかを調べるためには、眼科における検査が必要です。

  1. 眼底検査:通常の診察室で行う検査です。倒像眼底鏡や細隙灯顕微鏡などを用いて、眼底の評価をします。
  2. 蛍光眼底造影検査:腕の静脈から色素(フルオレセイン)を注入しながら、眼底カメラで網膜血管の連続造影写真を撮ります。毛細血管瘤や傷害された網膜血管、黄斑浮腫、虚血に陥った網膜、新生血管などが造影剤で明らかになります。このように多彩な情報を一度の検査で得ることができ、病期の判断に役立ちます。また、これらの情報は治療方針を立てるうえで大変重要なため、医師が必要と判断した場合に行います。
  3. OCT(光干渉断層計)検査:眼底三次元画像解析の一つで、眼底に弱い赤外線を当て、反射して戻ってきた波を解析して、網膜の断層を描出する装置のことです。数分で検査ができるうえに造影剤も使用しないため、負担はほとんどありません。黄斑浮腫の経過観察において有益な情報をもたらしてくれます。

慶應義塾大学病院での取り組み

慶應義塾大学病院眼科では、月曜日午後の網膜硝子体外来を中心に糖尿病網膜症の治療にあたっています。患者さん一人一人の眼の状態に最も適した治療を、前述の治療法から選択して行っています。

さらに詳しく知りたい方へ

目と健康シリーズ 特集 「糖尿病網膜症」外部リンク
日本眼科学会 「糖尿病網膜症」外部リンク
糖尿病ネットワーク 糖尿病セミナー 「糖尿病による失明・網膜症」 外部リンク

文責: 眼科外部リンク
最終更新日:2024年2月29日

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