音声ブラウザ専用。こちらよりメニューへ移動可能です。クリックしてください。

音声ブラウザ専用。こちらよりメインコンテンツへ移動可能です。クリックしてください。

KOMPAS 慶應義塾大学病院 医療・健康情報サイト
お探しの病名、検査法、手技などを入れて右のボタンを押してください。
慶應義塾
HOME
病気を知る
慶應発サイエンス
あたらしい医療
KOMPASについて

ホーム > 慶應発サイエンス > 肥満に伴う大腸マクロファージによる炎症が糖尿病発症につながる 川野義長(内科学教室(腎・内・代謝)助教)

肥満に伴う大腸マクロファージによる炎症が糖尿病発症につながる 川野義長(内科学教室(腎・内・代謝)助教)

研究の背景

2型糖尿病は、国民の5人に1人が罹患する成人病で、血管障害をきたし神経障害、網膜症や腎症、心筋梗塞や脳梗塞を誘発し、健康寿命が短縮する病気です 。2型糖尿病を発症する主な原因が、肥満や高脂肪食に伴い脂肪組織、肝臓、骨格筋といった全身臓器のインスリンの効きが悪くなる「インスリン抵抗性」とされています。肥満によりインスリン抵抗性が起きる理由については今なお解明されていない点が多く、インスリン抵抗性メカニズムの研究は医学的・社会的に最も重要な課題の1つといえます。

肥満によりインスリン抵抗性が発症する起点として腸管免疫に着目

従来、肥満に伴うインスリン抵抗性発症には「内臓脂肪の炎症」が重要であるとされてきました。一方、近年の研究から、高脂肪食を摂取して肥満が起こる前から、腸管内で腸内細菌叢のバランスが崩れる事が分かってきました。腸管はよく知られている吸収や排泄といった機能だけでなく、外界から身を守るための免疫器官としても重要です。免疫細胞の70%は腸管に集中しているという報告もあり、宿主側と腸内細菌叢がバランスを保ちながら、腸内環境を形成しています(図1)。この事から、高脂肪食による腸内細菌の変化を受けて、体内において腸の免疫環境も大きく変化する事が想定されました。

図1.腸内細菌叢、腸管粘膜、腸内免疫系でつくられる腸内の様子

図1.腸内細菌叢、腸管粘膜、腸内免疫系でつくられる腸内の様子

私たちは、高脂肪食を摂取したマウスの大腸の解析を行ったところ、高脂肪食4週という内臓脂肪の炎症が起きる前の段階から、炎症の指標である大腸の長さが肉眼的に短縮し、炎症性サイトカインTNFαを産生する炎症性マクロファージが増加し、「大腸の慢性炎症」が生じる事を見出しました。

マクロファージのCcr2を欠損すると、腸管の炎症が抑えられ糖代謝が改善した

高脂肪食を摂取したマウスの大腸では、マクロファージを炎症部位へ誘導するのに重要なケモカイン受容体Ccr2(注1)の遺伝子発現が増加します。私たちは腸管の慢性炎症を抑制する目的で、マクロファージ特異的Ccr2欠損マウス(M-Ccr2KO)を作製し解析を行いました。M-Ccr2KOでは、高脂肪食12週で対照群(Ccr2を欠損させていないマウス)と比べてインスリン抵抗性と血糖値が改善しました。同週数では脂肪組織や肝臓の炎症性マクロファージに差はない一方で、大腸の炎症性マクロファージ浸潤が抑制されていました。これより、大腸への炎症性マクロファージ浸潤が、インスリン抵抗性に重要な役割を果たす可能性が示唆されました。

腸管上皮からのCcl2の産生を欠損すると、腸管の炎症が抑えられ糖代謝が改善した

次に腸管だけでマクロファージの集積を抑えるモデルを作製するため、高脂肪食を摂取した大腸の上皮細胞で増加したマクロファージ誘導ケモカインCcl2(注2)に着目し、腸管上皮特異的タモキシフェン誘導型Ccl2欠損マウス(Vil-Ccl2KO)を作製し解析を行いました。Vil-Ccl2KOでは、高脂肪食12週で対照群(Ccl2を欠損させていないマウス)と比較し、大腸の炎症性マクロファージ浸潤が抑制され、インスリン抵抗性と血糖値が改善しました。驚いたことに、Vil-Ccl2KO の脂肪組織では、対照群と比較し重量は同じにも関わらず、炎症性マクロファージの数は減少しており、2次的に脂肪組織の慢性炎症が改善する事を見出しました。これより、腸管マクロファージが脂肪組織の慢性炎症を「リモートコントロール」する可能性が示唆されました。

腸管の炎症が、バリア障害や全身の炎症につながり、糖代謝を悪化させる

高脂肪食を摂取したマウスでは、腸管のバリア機能が破綻し、腸内細菌由来の毒素であるリポポリサッカライド(LPS)や炎症性サイトカイン(IL1β,IL18)が血液中を循環し、インスリン感受性(インスリンの効きやすさ)を決める脂肪組織や肝臓に達し、慢性炎症やインスリン抵抗性を引き起こす事が知られています。一方、M-Ccr2KOVil-Ccl2KOマウスでは、腸管の炎症性マクロファージの集積が低下し、炎症が抑えられることでバリア機能が改善します。これにより血液中のLPSや炎症性サイトカインが低下し、脂肪組織の慢性炎症や全身のインスリン抵抗性が改善したと考えられました。

今後の展望

本研究の結果から、高脂肪食を摂取した肥満マウスにおいて、腸管のマクロファージが脂肪組織の慢性炎症を「リモートコントロール」し、全身のインスリン感受性を調節する事が明らかになりました(図2)。今後は、ヒト、特に肥満症患者さんや糖尿病患者さんの大腸におけるケモカイン、ケモカイン受容体の変化を解析し、腸管のマクロファージ機能を調節しインスリン感受性を制御する新規糖尿病治療薬の開発を目指していきたいと考えています。

図2.大腸炎症性マクロファージによるインスリン感受性調整のしくみ

図2.大腸炎症性マクロファージによるインスリン感受性調整のしくみ

【用語解説】

注1)Ccr2(CC Chemokine receptor 2)
マクロファージの表面上に存在する、ケモカインをセンサーするためのたんぱく質で、マクロファージが炎症の部位に侵入します。

注2)Ccl2(Chemokine C-C motif ligand 2)
循環血液中の白血球を炎症が起きている部位に誘導するたんぱく質(ケモカイン)の1つで、腸管の上皮などから産生され、主にマクロファージの誘導に重要です。

参考文献

Colonic Pro-inflammatory Macrophages Cause Insulin Resistance in an Intestinal Ccl2/Ccr2-Dependent Manner.
Kawano Y, Nakae J, Watanabe N, Kikuchi T, Tateya S, Tamori Y, Kaneko M, Abe T, Onodera M, Itoh H.
Cell Metab. 2016 Aug 9;24(2):295-310.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/?term=27508875

【本研究に先行する参考文献】

  1. C.N. Lumeng, J.L. Bodzin, A.R. Saltiel Obesity induces a phenotypic switch in adipose tissue macrophage polarization. J. Clin. Invest., 117 (2007), pp. 175-184
  2. D.A. Winer, H. Luck, S. Tsai, S. Winer. The intestinal immune system in obesity and insulin resistance Cell Metab., 23 (2016), pp. 413-426
  3. H. Wen, J.P. Ting, L.A. O'Neill. A role for the NLRP3 inflammasome in metabolic diseases--did Warburg miss inflammation? Nat. Immunol., 13 (2012), pp. 352-357
左:中江淳(内科学教室(腎臓・内分泌・代謝)特任准教授)、中央:筆者、右:伊藤裕(内科学教室(腎臓・内分泌・代謝)教授)

左:中江淳(内科学教室(腎臓・内分泌・代謝)特任准教授)、中央:筆者、右:伊藤裕(内科学教室(腎臓・内分泌・代謝)教授)

最終更新日:2017年2月1日
記事作成日:2017年2月1日

▲ページトップへ

慶應発サイエンス

慶應義塾HOME | 慶應義塾大学病院