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眼球内の不要となった血管を退縮させる仕組み 久保田義顕(坂口光洋記念講座(機能形態学)教授)

硝子体血管とは-胎児のみにみられる眼球内の血管系-

ヒトのからだには、酸素と栄養を全身のすみずみまで送り届けるため、膨大な数の血管が張り巡らされます。この血管ネットワークができあがる過程は、単に血管の枝分かれが増え、広がっていくだけではなく、適宜不要となった部分を退縮させ、その時々のからだの成長に合わせた血管ネットワークへとカスタマイズさせる必要があります。この『血管の取捨選択』で代表的なものが、胎児において使われていた血管(いわゆる胎児循環系)が、出生後に必要となくなり退縮するという現象です。この退縮がうまくいかなかった場合、さまざまな病態を引き起こします。代表的なものの一つとして、眼球における胎児血管である硝子体血管が退縮しないことで発生する「第一次硝子体過形成遺残」(注1)があります。これは先天性の眼科疾患で、重度の場合、眼球内の組織傷害から重篤な視力障害を引き起こします。

特定の時期の特定の血管が自発的に退縮する現象を解明できれば、胎児循環退縮不全による先天性疾患の病態解明のみならず、がんの血管をターゲットとした(がん血管を自発的に退縮させる)がん治療の開発に応用することが可能です。それ故、硝子体血管にフォーカスし、その退縮のメカニズムを解き明かそうとする基礎研究が、世界各国で盛んにおこなわれております。しかしながら、未だそのメカニズムは殆ど解明されていないのが現状でした。

硝子体血管の退縮は神経によってそのタイミングが制御される

前述のように、硝子体血管の退縮を司るメカニズムは、世界的に精力的に解析されているにもかかわらず不明です。その大きな理由の一つとして、硝子体血管を明瞭に可視化し観察する技術が無い、という点が挙げられます。まずわたしたちが取り組んだのは、硝子体血管の高精度な可視化技術の確立でした。さまざまな試行錯誤の結果、硝子体血管が付着する「虹彩」という組織をテンプレートとして、機械的に一塊として網膜から分離し、染色作業をすることで、非常に明瞭に、かつオリジナルの構築を損傷することなく、硝子体血管全体を一視野のもと可視化することに成功しました(図1)。

図1.マウス硝子体血管可視化技術の開発(参考文献Fig1より一部改変)

図1.マウス硝子体血管可視化技術の開発(参考文献Fig1より一部改変)
虹彩に付着させたまま、マウス硝子体血管を一塊として取り出し染色する(A)ことで、硝子体血管の全体像(B)、血管の退縮(C)が明瞭に可視化される。

この技術を駆使し、体の中のあらゆる血管の成長・維持に必須である血管内皮細胞成長因子(VEGF)に関わる種々の遺伝子改変マウスの硝子体血管を観察することで、研究は進められました。まず神経特異的VEGFノックアウトマウス(注2)において、硝子体血管の早期退縮が起こることを見出しました。また、血管内皮細胞における2型VEGF受容体(VEGFR2)を欠失させると、同様に硝子体血管の退縮が促進されることを確認しました。この結果は硝子体血管が、他の血管と同様、VEGF/VEGFR2シグナルに依存して生存していることを示しています。次に、網膜におけるVEGF発現について出生前後で定量を行いましたが、着目すべき変化を認めませんでした。その一方、VEGFR2に関しては出生直後に神経において著明な発現の増加を認めました。これを受けて神経特異的VEGFR2ノックアウトマウスを作製したところ、眼球内のVEGFタンパク量が著明に増加しており、硝子体血管の退縮が著しく阻害されることを見出しました。また、この表現型は神経でVEGFR2とVEGFの双方をノックアウトすることで打ち消されました。以上の結果から、出生直後における硝子体血管の退縮は神経のVEGFR2を介した眼球内のVEGFの希釈を通じて、そのタイミングが精密にコントロールされていると考えられました(図2)。

図2. 神経による硝子体血管退縮の制御

図2. 神経による硝子体血管退縮の制御
胎仔期の神経はVEGFR2が発現せず、VEGFの取り込みが行えないため、眼球内にVEGFが多く存在する。出生後にはVEGFR2が神経に発現し、VEGFの取り込み(エンドサイト-シス)を開始するため、眼球内のVEGFが低くなり、硝子体血管が生存できずに退縮する。

おわりに

本研究は、重篤な視力障害を引き起こす「第一次硝子体過形成遺残」に関し、これまで全く不明であった原因の一端を、マウスモデルを用いて解明したものであり、この疾患の新たな治療法の開発につながるものと考えます。また、今回明らかにしたメカニズムは、硝子体血管にとどまらず、状況が整えば全身のどこの血管であっても起こり得る現象であることを示しています。この機構を人為的に制御する技術が確立できれば、腫瘍の血管を自発的に退縮させ、腫瘍を血行不全に陥らせる新たながん治療の開拓の手掛かりとなることも期待されます。

【用語解説】

注1)第一次硝子体過形成遺残
眼球における胎児特有の血管である硝子体血管が何らかの原因で退縮せずに、出生後まで残存することにより、重篤な視力障害を引き起こす疾患である。70~90%は片眼だけに発症し、遺伝性はないといわれる。異常の存在する部位によって前部型、後部型、混合型に分けられる。重度のものに関しては視力予後が不良であり、原因も不明である。

注2)神経特異的VEGFノックアウトマウス
通常のVEGFノックアウトマウス(全身でVEGF遺伝子が欠失するマウス)と異なり、神経細胞でのみVEGF遺伝子を欠失させるよう遺伝子改変を施したマウス。

参考文献

Developmental regression of hyaloid vasculature is triggered by neurons.
Yoshikawa Y, Yamada T, Tai-Nagara I, Okabe K, Kitagawa Y, Ema M, Kubota Y.
J Exp Med. 2016 Jun 27;213(7):1175-83.

右から4番目:著者 研究室のメンバーと撮影。

右から4番目:著者
研究室のメンバーと撮影。

最終更新日:2017年1月1日
記事作成日:2017年1月1日

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