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新規筋萎縮性側索硬化症(ALS)モデルマウスの樹立に成功 椎橋 元(内科学教室(神経)・博士課程大学院生)

筋萎縮性側索硬化症(ALS)とは

人間が体を動かす時、脳からの指令が運動神経を介して筋肉に伝わり、体を動かす事が出来ます。筋萎縮性側索硬化症(Amyotrophic Lateral Sclerosis: ALS)は、この運動神経がゆっくりとしかし確実に障害を受ける神経難病です。運動神経が障害を受ける事で、ALSの患者さんは立つ、歩く等の運動動作に加えて、しゃべる、食べる等の基本的な日常動作が困難となり、発症数年の内に生命に必須の呼吸運動も障害されてしまいます。ALSはアルツハイマー病、パーキンソン病に次いで多い神経変性疾患であり、全世界で毎年14万人が新たにALSと診断され、日本では約9,000人の患者さんがいらっしゃいます。ALSを発症する原因は未だ不明であり、進行を数ヶ月ほど遅くする薬剤は存在するものの、根本的な治療薬はありません。

筋萎縮性側索硬化症(ALS)とは

FUSがALS発症を導くメカニズムの謎

生命の設計図である遺伝子は、細胞の中の核という場所に存在しています。この遺伝子がRNAという物質を経て蛋白質へと変換されます。蛋白質が様々な働きを行うことで細胞は生きていくことが出来ます。一部の蛋白質はRNAに結合し、RNAの形成、輸送またRNAから蛋白質への変換に関与しており、RNA結合蛋白質と呼ばれています。近年の分子遺伝学の進歩により、ALSの発症に複数のRNA結合蛋白質が関与している事が明らかとなりつつあります。

このALS発症に関連するRNA結合蛋白質の一つとしてFUS(fused in sarcoma)が挙げられます。FUSに特定の遺伝子変異(遺伝子の変化)が生じることでALSを発症するということが2009年に初めて報告されました(文献1)。日本の全ALS患者さん(遺伝的なものも、そうでないものも含む)のうちの約1%が、FUS遺伝子の異常によりALSを発症しているとされていますが、このFUS遺伝子による病気のメカニズムが分かれば他の多くのALSの理解につながると考えられています。

FUSがどのようにALSの発症を導くのかという事に関してですが、FUSのALS発症に関連する遺伝子変異は、FUSの核内移行シグナルの位置に集積しています。従って、核内移行シグナルが障害され、FUSが核内に移動出来なくなる事がALS発症に関与していると考えられます。ただ、これには二つの可能性が考えられます。つまり、核内のFUSが減少する事がALS発症に関係しているという可能性(機能欠損;loss of function)と核内に入れなくなったFUSが細胞質(核の周囲の空間を細胞質と呼んでいます)に蓄積し、毒性を発揮する事がALS発症に関係しているという可能性(毒性獲得;gain of toxic function)の二つの可能性が考えられます。機能欠損の場合にはFUSを補う事が治療となる一方、毒性獲得の場合には、蓄積したFUSを取り除く事が治療となる為、治療戦略を考えるに当たり、両者の区別は重要ですが、未だ結論が出されていない状況でした(図1)。

図1.FUSがALS発症を導くメカニズムに関する二つの仮説

図1.FUSがALS発症を導くメカニズムに関する二つの仮説
(注)RRM:RNA結合部位(RNA recognition motif)、NLS:核内移行シグナル(nuclear localization signal)

ALSモデルマウス(FUSトランスジェニックマウス)の作成に成功

そこで、当研究室では若年発症のALS患者さんに見られる核内移行シグナルを欠損したFUSを導入した遺伝子改変マウス(トランスジェニックマウス)を作成致しました(以降、FUSトランスジェニックマウスと呼びます)。

FUSトランスジェニックマウスは、生後20週齢より顕著な運動機能の低下を生じ(図2)、生存率の低下も示しました。ALSに罹患したマウスに特徴的な後ろ足の異常反射も確認しました(図3)。脳の病理学的解析にて、核内移行シグナル欠損FUSは細胞質に蓄積しており、ALSの特徴的な変化とされるユビキチン陽性の封入体(ゴミの塊)の形成がみられ(図4)、更に運動神経の減少を確認できました。従って、運動機能低下、ALSに特徴的な病理所見を再現でき、ALSのモデルマウスの作成に成功したと考えられました。一方で、マウス自身が有するFUSの量、分布、機能に変化は無く、FUSの機能低下が無くとも細胞質に異常FUSが蓄積する事のみでALSが発症すると考えられ、FUSが引き起こす「毒性獲得」がALS発症の十分条件であると考えられました。

また、遺伝子がRNA、蛋白質へ変換される事を発現と呼んでいますが、FUSトランスジェニックマウスの全ての遺伝子発現を解析した所、著明に増加あるいは減少している遺伝子群がありました。一部の遺伝子は実際のALS患者さんと同様に変化しており、この遺伝子の発現変化がALS発症に深く関与している可能性が考慮されるとともに、ALSの診断のマーカーとして利用できる可能性が考えられました。

図2.マウスに実施した懸垂試験のグラフ

図2.マウスに実施した懸垂試験のグラフ(参考文献より一部改変)
マウスに金網を用いて懸垂を行わせ、落下するまでの時間を測定した。FUSトランスジェニックマウスはより短期間で落下し、握力の低下を確認した。

図3.異常反射

図3.異常反射
野生型マウスでは脚を広げるが、FUSトランスジェニックマウスでは脚を収縮させる異常反射がみられる。

図4.ユビキチン陽性封入体(ゴミの塊)(参考文献より一部改変)

図4.ユビキチン陽性封入体(ゴミの塊)(参考文献より一部改変)
FUSトランスジェニックマウスの運動神経内にユビキチン陽性の封入体(赤矢印)がみられた。 スケールバー:10μm

今後の展望

本FUSトランスジェニックマウスを更に解析し、ALSの病態解明をすすめていきます。この病態解析に基づきALSに対する新規の治療方法を検討します。そして本マウスを用いて新規治療薬の有効性、安全性を検討し、最終的にはALS患者さんの治療へと発展していきたいと考えております。

今後の展望

参考文献

Mislocated FUS is sufficient for gain-of-toxic-function amyotrophic lateral sclerosis phenotypes in mice.
Shiihashi G, Ito D, Yagi T, Nihei Y, Ebine T, Suzuki N.
Brain. 2016 Jun 30. pii: aww161. [Epub ahead of print]
http://brain.oxfordjournals.org/content/brain/early/2016/06/29/brain.aww161.full.pdf

【本研究に先行する参考文献】

1. Vance C, Rogelj B, Hortobagyi T, De Vos KJ, Nishimura AL, Sreedharan J, et al. Mutations in FUS, an RNA processing protein, cause familial amyotrophic lateral sclerosis type 6. Science 2009; 323(5918): 1208-11.

左:伊東大介(内科学(神経) 教室専任講師)、右:筆者

左:伊東大介(内科学(神経) 教室専任講師)、右:筆者

最終更新日:2016年9月1日
記事作成日:2016年9月1日

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