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椎間板変性に対する新規治療薬の開発 藤田順之(整形外科学教室助教)

椎間板変性とは

日本の超高齢化に伴い、脊椎の変性疾患の患者数は増加し続けています。全国推定患者数が3800万人といわれる変形性腰椎症では、ほぼ全例で椎間板変性を伴っています。椎間板変性とは、軟骨組織である椎間板が「傷む」ことを言います(図1)。正常の椎間板は水分を多く含み、クッションと同じような役割があり、腰の柔軟な動きを維持するのに役立っていますが、変性すると水分が失われ、その機能が破綻します。

図1.左:正常椎間板、右:変性椎間板

図1.左:正常椎間板、右:変性椎間板

椎間板変性は、日本人の最も多い愁訴の一つである腰痛症の原因にも挙げられます(図2)。 椎間板変性の原因としては、これまでに加齢、労働、喫煙、遺伝などが関係していることが知られています。また、椎間板変性において、炎症性サイトカインが関与していることや、椎間板の細胞外に存在する構造体である細胞外マトリックスの分解が産生を上回ること等が知られています。しかし現在のところ、椎間板変性を抑制する有効な治療薬は見つかっていませんでした。

図2.椎間板変性は腰痛の原因の一つ

図2.椎間板変性は腰痛の原因の一つ

一方、加齢に伴い、各臓器や各組織に対して酸化ストレスが増えることが知られています。アルツハイマー病やパーキンソン病などの神経疾患、肺気腫などの慢性呼吸器疾患も酸化ストレスが関係していることは報告されていますが、椎間板変性と酸化ストレスの関係についてはあまり知られていませんでした。

椎間板変性における酸化ストレスの増加

今回、我々の研究チームでは、椎間板変性において酸化ストレスが関わっているか否かを検証しました。まず、椎間板変性モデルラットの椎間板において、酸化ストレスの指標であるニトロタイロシンや炎症性サイトカインの発現が増加していることが判明しました。次に、慶應義塾大学医学部倫理委員会承認の下、患者さんから同意を得て、手術時に採取された変性椎間板サンプルを用いて、ニトロタイロシンの発現を検討しました。すると、変性していない椎間板では、ほとんどニトロタイロシンの発現が認められないにもかかわらず、変性が進行するとともに、それらの発現が増加していました(図3)。このことより、実験動物だけでなく、実際のヒトにおいても椎間板変性とともに酸化ストレスが上昇していることが分かりました。

図3.変性の進行とともに、ニトロタイロシンの発現が上昇する

図3.変性の進行とともに、ニトロタイロシンの発現が上昇する
(参考文献のFig.1の一部を翻訳改変)

炎症性サイトカインと酸化ストレスの関係

ラットの椎間板細胞を取り出し、酸化ストレス誘導剤を加えて培養したところ、その濃度に比例して、炎症性サイトカインだけでなく、細胞外マトリックスを分解する酵素などの発現も増加しました。逆に、ラットの椎間板細胞に炎症性サイトカインを加えて培養すると、ニトロタイロシンの発現が増加しました。これらのことから椎間板においては炎症性サイトカインと酸化ストレスが互いに作用しあって、変性を惹起する可能性が示唆されました。

椎間板変性に対する抗酸化剤の効果

さらに、これらの培養系に抗酸化剤であるN-アセチルシステイン(N-Acetylcysteine:NAC)やビタミンEを加えると、椎間板細胞内の活性酸素だけでなく、炎症性サイトカインや細胞外マトリックス分解酵素の発現も抑えられ、抗酸化剤に椎間板変性を抑制する効果があることが分かりました。

さらに、これらの抗酸化剤の効果を実験動物を用いて検証しました。ラット椎間板変性モデルにNACを経口投与したところ、椎間板で発現が増加する炎症性サイトカインや細胞外マトリックス分解酵素、ニトロタイロシンの発現は抑制されていました。椎間板組織の評価では、NAC投与により明らかに椎間板変性は抑制されており、MRIによる画像評価でも、変性によるT2強調画像の輝度低下がNAC投与により有意に抑制されていました(図4)。さらに、これらの実験により、椎間板において、酸化ストレスはP38という下流シグナルを介して変性に関与していることも判明しました。

図4.ラット椎間板変性モデルのMRI画像

図4.ラット椎間板変性モデルのMRI画像(参考文献のFig.7の一部を翻訳改変)
NAC投与群では椎間板変性が抑制されている。

今後の展開

もともとNACは抗加齢のサプリメントとして服用されていることが多い薬剤です。本研究におけるラットへのNAC投与量はヒトに換算しても、他の疾患やサプリメントとしての内服量とほとんど変わりないことから、副作用の心配はほとんどありません。現在、本研究結果は特許出願中ですが、今後慶應義塾大学病院では、実際の臨床において、椎間板変性に対するNACの有効性を検証していく予定です(図5)。本治療薬の椎間板変性、さらには腰痛症の新たな治療薬としての可能性が期待されています。

図5.抗酸化剤は椎間板の過剰な酸化ストレスを減らすことで、椎間板変性の抑制に役立つかもしれない

図5.抗酸化剤は椎間板の過剰な酸化ストレスを減らすことで、椎間板変性の抑制に役立つかもしれない

おわりに

慶應義塾大学整形外科の椎間板研究グループでは現在、NACの他にも、椎間板変性に対する新規治療法の開発を行っています。慶應義塾大学病院では日々、脊椎の変性疾患に対する手術治療を積極的に行っています。その一方で、将来これらの患者さんができるだけ手術を受けずに済むように、さらには腰痛に苦しむ患者さんができるだけ楽になれるよう、日々研究を続けています。

参考文献

Excessive reactive oxygen species are therapeutic targets for intervertebral disc degeneration. Suzuki S, Fujita N, Hosogane N, Watanabe K, Ishii K, Toyama Y, Takubo K, Horiuchi K, Miyamoto T, Nakamura M, Matsumoto M.
Arthritis Res Ther. 2015 Nov 5;17:316. doi: 10.1186/s13075-015-0834-8.
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4635526/

左:筆者、右:鈴木悟士(整形外科学教室助教、本研究論文の筆頭著者)

左:筆者、右:鈴木悟士(整形外科学教室助教、本研究論文の筆頭著者)

最終更新日:2016年7月1日
記事作成日:2016年7月1日

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