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百寿者から探る健康長寿の秘訣 新井康通(百寿総合研究センター講師)

研究の背景

日本は世界有数の長寿国です。今世紀の半ばには女性の平均寿命が90歳に到達すると予測されており、まさに人生90年時代を迎えようとしています。一方、介護を必要とせず、自立した生活が送れる生存期間である健康寿命は、平均寿命より男性で約9年、女性で約12年短く、さらなる高齢化に備え、いかにして健康寿命を平均寿命に近づけるかが大きな社会的課題となっています。

百歳以上の高齢者(百寿者)は、人生の大半を自立して生活しており、健康寿命が長いことが知られています。私たちの研究グループでは百寿者の疫学調査を通じて健康長寿の秘訣を探る研究を行っています。これまでの研究成果から、百寿者の中でも105歳に到達する超百寿者は20人に一人の割合で、健康寿命が長く、さらに110歳以上のスーパーセンチナリアンでは100歳の時点でも日常生活が自立していることがわかりました。健康長寿のエリートといえるスーパーセンチナリアンは日本全国でみても非常に数が少ないため(図1)、広瀬信義特別招聘教授を中心として、現在に至るまで全国調査を継続しています。

図1. 百寿者、超百寿者の総人口に対する割合(2010年国勢調査)

図1. 百寿者、超百寿者の総人口に対する割合(2010年国勢調査)

1,554名を対象とする大規模高齢者コホート研究

慶應義塾大学医学部 百寿総合研究センターと英国のニューカッスル大学の共同研究チームは、百寿者684人(そのうち105歳以上407名)とその直系子孫と配偶者、および85-99歳の高齢者からなる計1,554名を対象とする大規模高齢者コホート研究を実施しました。長寿に寄与すると考えられる生物学的領域である、貧血、糖代謝・脂質代謝、臓器予備能(肝機能、腎機能)、炎症、細胞老化(テロメア長)の各領域のバイオマーカー(血液中の生物学的指標)を測定し、健康長寿の指標(余命、日常生活自立度、認知機能、多病)との関連を分析しました(図2)。多病というのは、高血圧、糖尿病、心筋梗塞など複数の病気をもつことをいいます。

図2.老化関連バイオマーカーと健康長寿の関連の検証

図2.老化関連バイオマーカーと健康長寿の関連の検証

炎症マーカーが余命と関連

その結果、炎症とテロメア長という2つの領域が、百寿者とその家族において明らかに優れていることを発見しました。各領域バイオマーカーのうち、炎症だけが85-99歳、100-104歳、105歳以上のすべての年齢群において有意に余命と関連したのです。さらに、どの年代群においても、炎症マーカー値が低いグループは、炎症マーカー値が高いグループに比べ生活機能や認知機能も高いことが判明しました。また、遺伝的に100歳に到達する確率が高いと考えられる百寿者の直系子孫では、炎症マーカーが低く抑えられていることもわかりました。マウスによる研究によって炎症が老化を促進する要因であることが証明されたのはごく最近のことですが、ヒトの老化過程における関連性を証明することができました。

百寿者に特徴的なテロメア長

また、一般の高齢者では加齢に伴って、染色体の末端に位置するテロメア長は徐々に短縮しますが、百寿者や百寿者の直系子孫ではテロメア長がより長く保たれており、実際の年齢が80歳代でも、60歳代の平均値に匹敵する長さを有していることがわかりました。この研究によって、長寿のメカニズムの一端が明らかになりました。

今後の展望

医学の進歩により人類の寿命は延びていますが、健康寿命が伴わなければ多病や要介護により生活の質が低下した期間が増大します。今回の成果を元に、安全に、老化にともなう炎症を抑える薬が開発されれば、高齢者の生活の質を大きく改善する可能性があります。さらに、なぜ老化に伴って炎症が起こるのか、免疫の働きや腸内環境、食事や栄養摂取との関連を解析することにより、新しい健康増進法の開発につながることが期待されます。

参考文献

  1. Physical independence and mortality at the extreme limit of life span: supercentenarians study in Japan.
    Arai Y, Inagaki H, Takayama M, Abe Y, Saito Y, Takebayashi T, Gondo Y, Hirose N.
    J Gerontol A Biol Sci Med Sci. 2014 Apr;69(4):486-94. doi: 10.1093/gerona/glt146. Epub 2013 Nov 13.
    http://biomedgerontology.oxfordjournals.org/content/69/4.toc
  2. Inflammation, But Not Telomere Length, Predicts Successful Ageing at Extreme Old Age: A Longitudinal Study of Semi-supercentenarians.
    Arai Y, Martin-Ruiz CM, Takayama M, Abe Y, Takebayashi T, Koyasu S, Suematsu M, Hirose N, von Zglinicki T.
    EBioMedicine. 2015 Jul 29;2(10):1549-58. doi: 10.1016/j.ebiom.2015.07.029. eCollection 2015 Oct.
    http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4634197/
  3. 新井康通. メディカルジャーナル「解明進む 長寿の秘密」. (NHKきょうの健康12月号). 東京:NHK出版;2015.p.92-95.
新井康通(百寿総合研究センター講師)

新井康通(百寿総合研究センター講師)

最終更新日:2016年4月1日
記事作成日:2016年4月1日

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