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ドライアイの病態解明をめざして―臨床と基礎研究をつなぐ― 小川 葉子(眼科学教室特任准教授)

はじめに

現代の情報社会において、全情報の80%が視覚から入ると言われる程、眼は大切な臓器です。眼の所見は全身疾患を診断する決め手となる事もあります。眼科領域は涙腺や瞼を含む外眼部、角膜や結膜の前眼部、視神経や網膜のような後眼部と分かれ、加えて神経系、血管系、リンパ管系、外眼筋などの筋肉系にも密接に関連し、臨床の多くの各科や基礎研究室の分野と関連があります。

眼表面に存在する粘膜は、全身の粘膜所見の初発症状を示している事があります。しかも診察時に直視下でその所見を察知することがあります。眼の粘膜表面は免疫反応が生じやすい部位であり、正常では恒常性を維持するために粘膜免疫応答の防御機構が働いています。眼は大変興味深い臓器であり、神秘的で緻密な仕組みをもった臓器でもあります。

眼表面をさらに詳しく見てみますと、黒目(角膜)、白目(結膜)、涙腺と副涙腺(涙の水の成分をつくるところ)、マイボーム腺(涙の油の成分をつくるところ)などが存在し、涙の層はこれらの眼表面組織を保護してものを鮮明にみるための光学的透光体としての役割や眼表面の健常性を保つ役割をしています。眼表面組織は一体化した粘膜上皮に覆われ、これらのどの部位が障害されても眼表面の恒常性が維持されなくなり、涙が不安定になり、ドライアイ(注1)が生じます。

涙液層と眼表面組織の正常とドライアイの比較

涙液層と眼表面組織の正常とドライアイの比較
3段目は結膜組織の透過型電子顕微鏡像にムチンの分布を示したものです。 高倍率の粘膜所見では粘膜上皮内の分泌型ムチンをつくる杯細胞(ゴブレット細胞)や膜型ムチンをつくる分泌顆粒(上皮内の膜型ムチンを含有するとおもわれる小型円形顆粒の集積)が確認されます。左2000倍、右25000倍。

ドライアイとは

ドライアイは涙液と涙腺・マイボーム腺・角膜・結膜の表面の慢性疾患で目の不快感と視機能異常を伴います。眼の乾きや、まぶしさが主な症状です。細かい点状の傷が眼の表面に広がるため、光が散乱してまぶしさを感じます。そのほか目の疲れ、異物感、充血、痛み、かすんで見える、などの複数の症状を合わせもつのが特徴で、中高年の女性に多く、更年期や老眼がはじまる時期とも重なります。シェーグレン症候群や慢性移植片対宿主病(GVHD)(注2)など免疫応答(注3)が関与するドライアイは粘膜免疫防御機構の障害により涙の成分の製造工場である涙腺、副涙腺、角結膜、マイボーム腺の組織への炎症性細胞浸潤や液性因子の障害により眼表面の機能障害をきたすことにより、ドライアイになりますが発症機序や進展機序には不明な点が多く残されています。

慢性GVHD(移植片対宿主病)とドライアイ

本邦では、造血幹細胞移植は年間5000件程あり、累積で約7万件以上になっています (日本造血細胞移植学会データーセンター)。ドライアイは造血幹細胞移植後の晩期合併症のひとつであるGVHDの合併症の一つであり、眼科領域のGVHDによる合併症で一番多いのがドライアイです。慶應義塾大学病院眼科ドライアイ外来では血液内科との連携のもと、1994年ごろから造血幹細胞移植症例を移植前から拝見し、定期的にフォローアップしています。当院では年間約40件の造血幹細胞移植が行われています。現在までに他院からのご紹介例を含めて約1000例の造血幹細胞移植患者さんを拝見しています。近年は、造血幹細胞移植後の慢性GVHDは移植後の主要な合併症として、生活の質の低下および視覚の質の低下に対する対策の重要性が増しています。GVHDによるドライアイは移植後約180日ごろに多く発症し、その後約半数の方のドライアイが重症化していく経過が明らかとなっています。ドライアイの発症は全身症状に先駆けて生じることもあり眼所見の初期症状を捉え正確に診断することが全身所見の治療方針の決定や予後にも影響を与える可能性があります。また、細隙灯顕微鏡および肉眼的に拝見させていただく眼表面粘膜が全身の類似している粘膜所見を反映している可能性を臨床上実感しております。

私達は、このような慢性GVHDの免疫応答によるドライアイについて、基礎研究で病態解明をすすめています。GVHD の病態は古くから、ドナーリンパ球の同種抗原を標的とする免疫応答と考えられてきました。しかし、私達はこれまでに慢性GVHD涙腺組織病変局所への高度な線維化を明らかにし(文献1, 2)、病変部位の病的線維芽細胞(注3)は、半数近くがドナー由来で免疫応答に関与し活性化することを示しました(文献3, 4)。線維化の一部には涙腺結膜上皮の上皮間葉系転換が関与する事も示しました(文献5)。2010年から2013年の研究で、線維化病態に積極的に関与する線維芽細胞の細胞源はドナー骨髄由来の特殊な幹細胞でありマクロファージ(注4)との関連性が考えられました。GVHD涙腺結膜ではマクロファージの中でも老化している細胞がドナー由来線維芽細胞と協調して、GVHDの病態形成に関わり涙腺、結膜の線維化による機能障害に重要な役割を果たしている可能性を見出しました。

慢性GVHDマウスモデルの涙腺に見られる変化を追う

最近の研究の中のひとつをご紹介します(文献6)。ヒト涙腺の免疫応答と病的な線維化 (注5)を再現する慢性GVHDマウスモデルを用いて特に涙腺や他のGVHD標的臓器に焦点をあてて研究を行っています。まず若年マウス、老齢マウス、慢性GVHDマウスモデル、コントロールマウスの涙腺を調べたところ、慢性GVHDマウスモデルにおいて、老齢マウスと同じように線維化や、炎症細胞浸潤をきたしていました。さらに電子顕微鏡による解析で詳細を検討すると、老齢マウスと同じように慢性GVHDドライアイマウスモデルにおいてミトコンドリア(注6)の形態異常がみとめられ、リポフスチン(注7)という物質が蓄積していることがわかりました。さらに免疫原性ドライアイでは、涙を産生する涙腺に浸潤する炎症細胞に老化 (注8) のマーカーのp16(図1)(注9)や酸化ストレス(注10)の発現が亢進していることを見出しました。炎症や持続的な酸化ストレスはドライアイの所見や症状を悪化、持続させます。涙腺の微小環境下で、特に酸化ストレスマーカーを発現する免疫担当細胞はマクロファージであり、T細胞と接着して何等かの情報交換をしていることがわかりました。老齢マウス、慢性GVHDマウスモデルの涙腺では若年マウスとコントロールマウスの涙腺に比べて、著明に酸化ストレスマーカーのタンパク発現が上昇していました。本研究により、涙腺に浸潤する老化マクロファージが産生するサイトカイン、ケモカインがドライアイをきたす涙腺の病態の発症から病的線維化と慢性炎症へと進展していく過程で何等かの役割を果たしている可能性が考えられ検討をしています。

慢性GVHDによるドライアイの免疫応答と線維化の仮説図

慢性GVHDによるドライアイの免疫応答と線維化の仮説図
涙腺や目の表面への炎症細胞、特に老化したマクロファージ(茶色の細胞)やドナー由来の線維芽細胞の浸潤により眼表面組織に破綻をきたしてドライアイをおこすと考えられます。T細胞はマクロファージと接着して相互作用をし、液性因子を放出し慢性炎症が原因となるドライアイの引き金となると考えられます。

図1 GVHD涙腺におけるP16陽性細胞の浸潤

図1 GVHD涙腺におけるP16陽性細胞の浸潤
導管周囲に多数の小型小円形の茶色に染まるp16陽性単核球浸潤(矢印)が認められる。

基礎研究の更なる展開

免疫応答の関与するドライアイマウスモデルを検討することによりドライアイの発症時期や経時的な変化、進展を正確にとらえられます。そのため、今後免疫応答によるドライアイと過剰な線維化の関係だけでなく、老化のメカニズムを解明する手がかりとなると考えられ、がんや動脈硬化等生命予後にかかわる疾患の病態解明にも役立つ可能性があります。マクロファージの老化は動脈硬化ばかりでなく目の加齢疾患の代表ともいえる加齢黄班変性においても重要性がわかってきており今後、免疫応答の異常と老化のメカニズムの関連性の解明に貢献すると期待されます。

現在はさらに老化マクロファージと相互作用する可能性のある特殊な細胞がGVHDの免疫応答と線維化病態の発症と進展に関わるメカニズムについて検証を重ねたいと考えています。これらは涙腺線維化病態とも深くかかわると考えられるドナー線維芽細胞が何故涙腺に迷入してくるのか解決したいと考えています。本研究は慢性GVHDだけでなく、他疾患の線維化病態の発症進展の機序の解明につながる可能性を秘めています。十分な検証とエビデンスを得たのち臨床での新しい治療開発と造血幹細胞移植治療の成績向上への架け橋になればと考えます。

ドライアイ治療の最前線

ドライアイの研究は当院眼科(坪田一男教授)の中でも研究グループが増加し、免疫応答の側面だけでなく多方面からのアプローチにより解明が加速的に進んでいます。その臨床応用までには時間が必要であり、臨床の現場で安全に使用されるため基礎研究の研究結果を十分に吟味し慎重に臨床への第一歩を踏み出す必要があります。現時点での臨床での治療は対症療法を行っていますが、長年の基礎・臨床試験の成果として新たな治療薬も登場しています。現在利用可能な人工涙液点眼、角膜保護剤、涙点プラグ、重症例への涙点焼灼術、ドライアイ保護用眼鏡を駆使して治療にあたります。マイボーム腺の治療として開口部を清潔に保ち、瞼を温める方法や、少量の眼軟膏塗布も大切です。

近年、新規ドライアイ治療薬として2種のムチン産生促進剤(ジクアス点眼・ムコスタ点眼)が開発され、保険適応となりさらに治療の選択肢が広がりました。さらに新規治療薬の開発が進み患者さんの苦痛が軽減していくことが望まれます。重症ドライアイでは上記既存点眼薬に加えて、免疫抑制剤点眼薬や抗線維化療法としての点眼薬が検討段階であり、重症例に対しては角膜移植術、羊膜移植術のような眼表面再建術も行われます。また生活面では部屋の湿度を保つための清潔な加湿器、パソコンの使用時、一時間に一度は休憩をいれる、生活のリズムを整える、十分な睡眠をとる等の工夫が必要です。

GVHDのような全身疾患を伴うドライアイ症例では標的臓器は口腔、肺、皮膚、肝臓、小腸のように多臓器にわたることもあります。眼科と他科、医師とコ・メディカルが協力して、移植後の後期合併症を防ぎ、患者さんの生活の質と視覚の質の向上を目標としています。血液内科、岡本真一郎教授によれば、当院のこうしたGVHD診療において実践する、診療科や職種を超えた連携プレーによる長期フォローアップの外来や医療チームのあり方は、世界的にみてもモデルケースとして注目されているということです。

眼科的立場として、私達は世界の眼GVHDを専門とする医師とも協調して眼GVHDの世界診断基準の作成に着手しています(文献7)。今後、多施設で世界的に統一された眼GVHDの診断基準のもと適切な診断と治療の効果判定を行い、眼所見の全身疾患に対する診断や治療方針の決定における重要性を提唱できればと考えています。そして一日も早い根本的な病態解明とともに、患者さんに安心していただけるGVHDによるドライアイの根治療法の開発のために努力を積み重ねていく所存です。

【用語解説】

注1) ドライアイ

いくつもの原因による涙、角膜(黒目)、結膜(白目)、マイボーム腺を含む慢性疾患で、眼不快感や視機能異常を伴います。

注2) 慢性移植片対宿主病(GVHD)

血液悪性疾患の根治療法としての造血幹細胞移植のあとに生じる晩期合併症のうちのひとつ。移植後1-2週で出現する急性GVHDとは区別されます。ドナーの移植片とレシピエントの細胞、または組織との間に生じる免疫応答で、眼科領域での最も多い合併症はドライアイです。

注3) 免疫応答

免疫反応の役割をする細胞が体の外因性または内因性の異物を自分とはちがう抗原として認識し、特異的に行なわれる反応です。

注4) マクロファージ

血液を流れる白血球の仲間で、生体内をアメーバのように動いて遊走する貪食細胞で、死細胞や、体内に生じた変性物質などの異物をとりこんで消化し、お掃除役として働きます。免疫担当細胞として、免疫機能の中心的役割を担います。最近は貪食機能だけでなく、免疫を賦活したり抑制したりする多彩な役割を果たす細胞の種類があることがわかってきており、病態形成にも直接かかわる可能性が注目されています。

注5) 線維化

涙腺、肝臓、消化管などの腺管構造の間質を構成している結合組織が異常増殖する現象のこと。たとえば、涙腺に線維化が生じたときには涙腺の働きに異常が起き、涙液分泌機能不全によりドライアイの症状が出ます。その他には、肝臓の線維化による肝硬変の病態なども、結合組織が線維化した例として知られています。

注6) ミトコンドリア

細胞内小器官。2重膜につつまれます。核とは別にミトコンドリアDNAが存在します。老化した細胞ではミトコンドリアの変性が生じて活性酸素種を産生するとされます。

注7) リポフスチン

変性タンパク質、脂質が含まれる高度に酸化された物質です。鉄、亜鉛、マンガン、銅なども含まれていて老化した細胞に増加するとされています。

注8) 老化

加齢に伴い全身的に種々の組織・器官で並行してい進行する複合的な衰退減少です。細胞老化、組織老化、臓器老化、個体老化として区別されています。細胞老化の原因には酸化ストレス、炎症老化、免疫老化、遺伝子変異、テロメア短縮、ミトコンドリアの変異が考えられています。これらの異常は癌や様々な老年性疾患に密接にかかわると考えられます。

注9) p16

正常の細胞では発現が低いが、細胞老化とともに際立った発現の上昇を示す遺伝子です。

注10) 酸化ストレス

酸化物質が過剰に発生した場合は、DNAや脂質、酵素、タンパク質を酸化させます。通常発生した酸化物質は抗酸化物質や抗酸化酵素によって除去されます。

文献

  1. A significant role of stromal fibroblasts in rapidly progressive dry eye in patients with chronic GVHD.外部リンク
    Ogawa Y, Yamazaki K, Kuwana M, Mashima Y, Nakamura Y, Ishida S, Toda I, Oguchi Y, Tsubota K, Okamoto S, Kawakami Y.
    Invest Ophthalmol Vis Sci. 2001 Jan;42(1):111-9.
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  2. Periductal area as the primary site for T-cell activation in lacrimal gland chronic graft-versus-host disease.外部リンク
    Ogawa Y, Kuwana M, Yamazaki K, Mashima Y, Yamada M, Mori T, Okamoto S, Oguchi Y, Kawakami Y.
    Invest Ophthalmol Vis Sci. 2003 May;44(5):1888-96.
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    Invest Ophthalmol Vis Sci. 2005 Dec;46(12):4519-27.
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  4. Role of heat shock protein 47, a collagen-binding chaperone, in lacrimal gland pathology in patients with cGVHD.外部リンク
    Ogawa Y, Razzaque MS, Kameyama K, Hasegawa G, Shimmura S, Kawai M, Okamoto S, Ikeda Y, Tsubota K, Kawakami Y, Kuwana M.
    Invest Ophthalmol Vis Sci. 2007 Mar;48(3):1079-86.
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    Sci Rep. 2013 Dec 5;3:3419. .
    http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3851919/外部リンク
小川葉子(眼科学教室特任准教授)

小川葉子(眼科学教室特任准教授)

最終更新日:2014年9月3日
記事作成日:2014年9月3日

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