音声ブラウザ専用。こちらよりメニューへ移動可能です。クリックしてください。

音声ブラウザ専用。こちらよりメインコンテンツへ移動可能です。クリックしてください。

KOMPAS 慶應義塾大学病院 医療・健康情報サイト
お探しの病名、検査法、手技などを入れて右のボタンを押してください。
慶應義塾
HOME
病気を知る
慶應発サイエンス
あたらしい医療
KOMPASについて

ホーム > 慶應発サイエンス > 長島型掌蹠角化症-疾患の発見から原因遺伝子の解明へ- 久保 亮治(皮膚科学教室専任講師)

長島型掌蹠角化症-疾患の発見から原因遺伝子の解明へ-
久保 亮治(皮膚科学教室専任講師)

長島型掌蹠角化症ってどんな病気?

手の平、足の裏の皮膚の角質が分厚く、固くなる疾患を掌蹠角化症と呼びます。掌蹠角化症には、生まれた時から症状があったり、幼少期から生じてくる先天性のものから、大人になってから生じる後天性のものまで、非常にたくさんの種類があります。今回紹介するのは、長島型掌蹠角化症という、生まれてすぐ、または2~3歳までのうちに症状が現れてくる、先天性の疾患です。

図1

図1 長島型掌蹠角化症の典型的臨床像

長島型掌蹠角化症の主な症状は、手の平、足の裏の赤みが強く、角質が分厚いことです(図1)。また、しばしば手足の汗が多く、手足の臭いが強かったり、水虫になりやすかったりします。赤みは生まれてすぐ、多くは1歳までに現れてきます。赤みの範囲は手の指全体、足の甲、アキレス腱部まで至ります。手を水につけると、5~10分で赤みのある範囲の角質が白く変化するのが、この疾患の特徴です(図2)。

図2

図2 水に浸けるとすぐに白くなるのが長島型掌蹠角化症の手足の特徴

この疾患を初めて見つけたのは、慶應義塾大学皮膚科講師であった故・長島正治(ながしままさじ)でした。1977年のことです。その後、弘前大学の橋本功・三橋善比古らにより、長島の功績を讃えて「長島型掌蹠角化症」と命名されました。生まれてすぐから症状が出ること、兄弟姉妹で同じ症状が現れることがあることから、遺伝性の疾患と考えられました。しかし、その原因は長い間不明でした。今回我々は、長島型掌蹠角化症の原因遺伝子を見つけることに成功しました。

長島型掌蹠角化症の原因は遺伝子SERPINB7の変異

我々はまず3名の患者さんの協力を得て、血液からゲノムDNAを取り出し、エクソーム解析をおこないました。エクソーム解析とは、ゲノムDNAのうち、蛋白質の設計図となっているエクソンと呼ばれる領域を、我々が持つ約25000の遺伝子について全て調べる解析方法です。遺伝子の暗号はA, T, C, Gの4文字からできていますが、この解析ではおよそ3000万文字の暗号を解読します。このような解析方法は、次世代シーケンサと呼ばれる技術とコンピュータを用いた解析の発展によって初めて可能になりました。

我々1人1人のゲノムDNAには、あちこちに違いがあります。具体的にはA, T, C, Gの4文字で書かれた暗号文のあちこちで、文字が違っています。親子が似ているのは文字の違いが少ないから、他人とは似ていないのは文字の違いが多いから、という具合です。本研究では、患者さんそれぞれのゲノムDNAを解析して得られた3000万文字の暗号文を、標準配列と呼ばれる基準となる暗号文と比べて文字の違いを探しました。

長島型掌蹠角化症は、常染色体劣性遺伝形式をとる遺伝性疾患です。常染色体に乗っている遺伝子については、我々は同じ遺伝子を2つずつ持っています(2つのアレルがあると言います)。1つは父親から、1つは母親から受け継いだものです。父親と母親がそれぞれ、2つあるアレルのうち1つに疾患を引き起こすような遺伝子変異(標準と異なる文字への変化)を持っていて、両親からそれぞれ変異の入っている方のアレルを受け継いでしまうと、その疾患を発症します(図3)。

図3

図3 長島型掌蹠角化症は常染色体劣性の遺伝形式を示す

まず、遺伝子の暗号文に変化が起こっているような遺伝子を探しました。ただし、例えば日本人の60%はA、40%はCというようなありふれた暗号の違いを探しても仕方がありません。そのようにありふれた違いは原因ではあり得ないからです。そこで、世界中の人々において、アレル頻度が1%以下の珍しい変異(文字の違い)を含んでいる遺伝子を探しました。すると、3名の患者さんそれぞれは、そのような珍しい変化を含んでいる遺伝子を約700個ずつ持っていました。その中から、それぞれの患者さんにおいて2つのアレルの両方に変化を含んでいるような遺伝子をリストアップしました。そのリストの中から、3人の患者さんに共通している遺伝子を探したところ、そのような条件を満たす遺伝子は1つしかありませんでした。それが、SERPINB7という遺伝子でした。(図4)

図4

図4 長島型掌蹠角化症の原因遺伝子発見の経過

さらに別の10名の患者さんにも協力していただき調べたところ、10名全員がSERPINB7の2つのアレルの両方に変異を持っていました。しかも、その変異は、SERPINB7蛋白が機能しなくなるような変化を引き起こすような変異(例えて言うと、製品である蛋白質が機能しなくなるような設計図の変化)でした。こうして、SERPINB7の変異が長島型掌蹠角化症の原因であることが初めて明らかになったのです。

長島型掌蹠角化症が日本人に多い理由

13名の患者さんはそれぞれSERPINB7という遺伝子を2つずつ(2つのアレル)持っています。それぞれのアレルに変異が入っています。つまり13名で合計26の変異の入ったアレルがありました。興味深いことに、26のうち19がc.796C>Tという同じ変異でした。調べてみると、このc.796C>T変異を持つ人は日本人と中国人に多くいることがわかりました(図5)。

図5

図5 長島型掌蹠角化症の原因となる遺伝子変異の世界分布図

一方、欧米人はこの変異を持たないので、欧米には長島型掌蹠角化症の患者さんはほとんどいません。アジア人の先祖の誰かで生じたc.796C>Tという変異が、広く日本人と中国人の間に広まったと考えられます。日本人ではおよそ50人に1人が、中国人ではおよそ30人に1人が、c.796C>T変異を片方のアレルに持っています(片方のアレルだけに変異を持っていても病気にはなりません。こういう人を保因者と呼びます)。保因者と保因者がたまたま出会って結婚する確率は、日本人では1/50かける1/50で1/2500です。2つあるアレルのうち、変異が入っている方のアレルを親から受け継ぐ確率は、父親からと母親からそれぞれ1/2と1/2ですので、両親が保因者の場合、その子供が長島型掌蹠角化症になる確率は1/4になります。つまり、1/2500かける1/4で、日本人では、およそ出生1万人に1人の確率で、長島型掌蹠角化症の赤ちゃんが産まれていると考えられます。日本におよそ1万人、中国には数十万人の患者さんがいることになります。

長島型掌蹠角化症の治療

SERPINB7蛋白は、蛋白分解酵素を阻害する働きがある分子です。すなわち、患者さんの皮膚では、蛋白分解酵素の働きを止めるブレーキの1つが壊れていると考えられます。なぜ、このブレーキが壊れると長島型掌蹠角化症の症状が現れるのか、現在研究を進めています。このブレーキの働きをしてくれる塗り薬を開発すれば、症状を抑えることができるのではないか、と期待しています。

現在はまだそのような薬がないので、治療は対症療法が中心になります。患者さんが感じる困難の1つが手足のにおいです。汗が多いことと、角質が弱くなっていることで、手足の角質で細菌が繁殖しやすくなるため、細菌の代謝産物がにおいを作り出していると考えられます。このにおいを取り除くには、(1)にきび治療に使う抗菌クリームを外用する方法、(2)尿素軟膏などの外用により菌が繁殖しやすいような弱い角層を取り除く方法、があります。

さいごに

長島型掌蹠角化症を含め、生まれた時から続く症状を持つ患者さんの中には、どうせ治らないから、と通院をやめてしまっている方々がおられます。掌蹠角化症には様々なタイプがあり、珍しいタイプには食道がんになるリスクが高いタイプもあります。その他、全身の皮膚に角化や赤みが生じるような疾患にも様々なタイプがあり、早期の診断が合併症の予防につながる場合もありますし、中には新しい治療法がうまれている疾患もあります。正しい診断と適切な治療法の選択が大切です。慶應義塾大学病院皮膚科では、掌蹠角化症を含む様々な皮膚疾患について、遺伝子診断を含めた検査をおこない、正しい診断に基づいた治療法の選択のお手伝いをさせていただいています。

参考文献

Mutations in SERPINB7, encoding a member of the serine protease inhibitor superfamily, cause Nagashima-type palmoplantar keratosis.
Kubo A1, Shiohama A, Sasaki T, Nakabayashi K, Kawasaki H, Atsugi T, Sato S, Shimizu A, Mikami S, Tanizaki H, Uchiyama M, Maeda T, Ito T, Sakabe J, Heike T, Okuyama T, Kosaki R, Kosaki K, Kudoh J, Hata K, Umezawa A, Tokura Y, Ishiko A, Niizeki H, Kabashima K, Mitsuhashi Y, Amagai M.
Am J Hum Genet. 2013 Nov 7;93(5):945-56. doi: 10.1016/j.ajhg.2013.09.015. Epub 2013 Oct 24.
http://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0002929713004552外部リンク

久保 亮治(専任講師)

久保 亮治(専任講師)

最終更新日:2014年6月1日
記事作成日:2014年6月1日

▲ページトップへ

慶應発サイエンス

慶應義塾HOME | 慶應義塾大学病院