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再生医学でヒトの細胞から毛をつくる 大山 学(皮膚科学教室専任講師)

はじめに

みなさんの通われた学校には髪の毛のスタイルに関する規則はあったでしょうか。どの街であっても少し歩き回れば「ヘアーサロン」や「理髪店」はすぐ見つかります。我々にとって毛髪の状態は大きな関心事であり、そのスタイルは個人の印象を大きく作用し、時には職業やライフスタイルをあらわすといった社会的意味をもっています。髪の毛の病気、特に脱毛症は生命を左右するものではありませんが、ある意味では内臓の病気以上に患者さんの社会生活に影響し、精神的苦痛を与えるのです。毛が生えかわることは皆さんご存知でしょう。皮膚の下にある毛を作り出す小器官を毛包と呼びますが、私たちの毛が生涯にわたって伸び続けるのは毛包が自分で再生する力を持っているからなのです。しかし、ヤケドや外傷あるいは長く続く炎症やホルモンの影響などにより毛包の再生する能力が奪われると髪の毛がずっと失われてしまうことになるのです。

再生医学で毛をつくる意味とは

では、再生医学の技術を使って毛を作り出すことにはどのような意味があるのでしょうか。まず考えられるのは、外傷や病気で失われた毛を補うことです。実験的にヒトの細胞を使って毛を再生し、それを毛包が失われた皮膚に移植することによって再び取り戻すことが期待されます。再生した毛を使って、毛を伸ばす効能をもった薬剤を見つけることも可能かも知れません。例えば、遺伝的に薄毛になりやすい人の細胞だけを使って毛包を再生すれば、その毛包は薄毛になりやすい性質を受け継いでいます。それを使って薬剤を開発すれば、より薄毛に有効な薬剤を開発することができるようになることが予想されます。毛包は複雑な形をした小器官ですから、その立体的な構造を再現する技術は、たとえば爪や汗腺(汗を作る小器官)などの再生に応用することができる可能性もあります。また、こうした技術をさらに発展させれば、より大きな臓器を作ることに応用できる可能性もあるのです。

図1

図1 再生医療によるヒト毛包の再生とその応用のイメージ

毛ができる仕組みとは

毛を作り出す毛包は、中心に髪の毛があり、それをケラチノサイトと呼ばれる細胞が重なり合って鞘のように取り囲んだ構造をしています。その鞘状の構造の根元には毛乳頭と呼ばれる細胞の塊があります。毛の根元(毛根)では丁度鞘が毛乳頭を取り囲むような構造をとっています。直接毛乳頭を取り囲むケラチノサイトは毛母細胞と呼ばれます。毛乳頭から、細胞の分裂を促す物質が分泌され、毛母細胞が増殖することによって毛が伸びていきます。

図2

図2 ヒトの毛包の構造
頭皮の下に毛をつくる小器官である毛包が存在する。真ん中にあるのは顕微鏡下操作で頭皮から取り出したヒトの毛包。毛根で毛乳頭からの刺激により毛母細胞が分裂し毛が伸びる。

ヒトの毛包の細胞を使って毛をつくる

単純に考えれば毛包の大元となる幹細胞と毛乳頭細胞を増やして立体的に組み合わせれば毛包が再生できるような気がしますが、簡単ではありません。まず、ヒトから採取できる毛包の細胞の数は限られています。従って、例えば脱毛症の治療に必要な毛包を作ろうとすると当然数が不足します。そこで数を増やすために細胞を培養するのですが、ヒトの細胞は培養するともとの性質を失ってしまうことが多いのです。私たちの研究室では、培養操作で失われるヒト毛乳頭細胞の性質を実験的に回復させる技術を開発しました。一度に多くの遺伝子の発現を調べることのできるマイクロアレイという手法で特性を維持するために必要なWNT、BMP、FGFといった活性物質を突き止め、それを培養液に加えて毛乳頭細胞を培養することで、まだ完全ではありませんが、ある程度特性を回復させることができるようになりました。ただし、こうした方法でも広い範囲の脱毛を回復させるために十分な毛包を再生させるための細胞を準備することはやはり難しいのです。

図3

図3 ヒト毛包から分離した毛乳頭と培養ヒト毛乳頭細胞から実験的に再生した毛乳頭細胞の塊(再生毛乳頭)

ヒトiPS細胞を使って毛をつくる

山中伸弥教授のノーベル賞受賞で話題となっているiPS細胞は、理論的には無限の増殖能をもち、どのような細胞にもなる力をもっています。iPS細胞を使って毛を再生させることができれば、細胞の数の不足などの問題は解決できます。また、iPS細胞の段階で薄毛になりやすい遺伝子などを打ち消すことができれば薄毛になりにくい特徴をもった自前の毛包ができるかも知れません。私たちはヒトiPS細胞にレチノイン酸とBMP4を作用させることで、少し未熟なケラチノサイトを作り出し、それを毛乳頭と同じ役割をはたす生まれたばかりのマウスの細胞と混ぜ合わせヌードマウスの皮下に移植してみました。すると、毛包の構造が再現されたのです。再現された毛包の一部にはヒトの細胞であることを示す信号が確認され、ヒトiPS細胞から毛をつくることができる可能性を示すことができました。今後、上で述べた毛乳頭細胞の特性を維持する技術などを活用し、ヒトiPS細胞を使って毛乳頭細胞などを作ることなどにもチャレンジしたいと考えています。

図4

図4 ヒトiPS細胞を用いた毛包の部分再生
(慶應義塾大学プレスリリースより改変)

まとめ

ヒトの細胞を使って毛をつくることは現時点ではまだ技術的に解決することが多く困難です。しかし、この技術が確立されれば、脱毛症の病気の状態の研究や治療が大きく進むと思われます。特にヒトiPS細胞に関する新しい知識・技術も日進月歩で進む今、私たちもそれを最大限に活用しヒト毛包の再生技術の開発に貢献したいと思います。そして、これらの研究で得たものを少しでも毛髪外来の患者さん方に還元していきたいと願っています。

参考文献

Restoration of the intrinsic properties of human dermal papilla in vitro.
Ohyama M, Kobayashi T, Sasaki T, Shimizu A, Amagai M.
J Cell Sci. 2012 Sep 1;125(Pt 17):4114-25. doi: 10.1242/jcs.105700. Epub 2012 May 23.
http://jcs.biologists.org/content/125/17/4114.long外部リンク

Human induced pluripotent stem cell-derived ectodermal precursor cells contribute to hair follicle morphogenesis in vivo.
Veraitch O, Kobayashi T, Imaizumi Y, Akamatsu W, Sasaki T, Yamanaka S, Amagai M, Okano H, Ohyama M.
J Invest Dermatol. 2013 Jun;133(6):1479-88. doi: 10.1038/jid.2013.7. Epub 2013 Jan 15.
http://www.nature.com/jid/journal/vaop/naam/abs/jid20137a.html外部リンク

大山 学(皮膚科学教室専任講師)

大山 学(皮膚科学教室専任講師)

最終更新日:2014年1月1日
記事作成日:2014年1月1日

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