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ホーム > 慶應発サイエンス > 重症喘息に効く新しい薬を創る! -オメガ3脂肪酸の抗炎症作用- 宮田 純(呼吸器内科)

重症喘息に効く新しい薬を創る! -オメガ3脂肪酸の抗炎症作用-
宮田 純(呼吸器内科)

気管支喘息:長く続く気道の炎症と好酸球の役割

気管支喘息は、繰り返し起こる咳、ゼーゼーとする喘鳴、息苦しさ等の症状と、空気の通り道である気道が狭くなること、気道が過敏になることを特徴としています。成人(15歳以上)では6-10%の方がかかっている頻度の高い病気であり、患者さんの数は増え続けています。長く続く気道の炎症が原因と考えられており、好酸球・リンパ球・マスト細胞・樹状細胞などの炎症を起こす細胞が気道に集まり、そこで粘液が産生されるとともに、気道表面の上皮が傷害されます。

図1

好酸球が気道に集まることは最も特徴的な所見で、アレルギーの二つのタイプであるアトピー型(特定のアレルゲンが引き金となって発作が起きるタイプ、血清IgE値が高くなります)、非アトピー型(特定のアレルゲンがないタイプ、血清IgE値は正常です)のタイプによらず認められます。好酸球はそこで気道を障害する作用をもつ顆粒を出したり、炎症をおこす物質である脂質メディエーターやサイトカインを産生することで、炎症を強くしています。喀痰の中に好酸球が増えていることは、病気の程度を示す指標としても用いられています。

重症喘息(難治性喘息)とは?

重症喘息は喘息患者さんの約5-10%を占め、吸入ステロイドを含めて現在の医療で用いられる薬が十分に効かないため、治療が難しくなっています。発作を何度も繰り返し、救急外来への受診や入院での加療が必要となるため、患者さんにとっても負担が大きくなっています。原因の一つとしては「気道の好酸球が長く残ってしまっていること」があります。女性、肥満、非アトピー型、病気にかかっている期間が長いこと、気道リモデリング(気管支の平滑筋が大きくなる、上皮の下の部分が固くなる)、タバコ、アスピリンで発作が起きてしまう、などの特徴があると考えられていますが、「何故重症になるのか?」ということは十分にわかっておらず、原因をはっきりとさせて、新しい薬を創ることが求められています。

脂質メディエーター:オメガ3脂肪酸(DHA)由来の「抗炎症性(善玉)」メディエーター

アラキドン酸等のオメガ6脂肪酸、DHA・EPA等のオメガ3脂肪酸という脂肪酸を耳にしたことがある方も多いと思います。これらは多価不飽和脂肪酸に分類され、生体内もしくは食物中に含まれています。これらの脂肪酸はリポキシゲナーゼやシクロオキシゲナーゼ等の酵素の働きにより、様々な作用をもつ分子に変わり、それらは「脂質メディエーター(仲介するもの)」と呼ばれています。肉に多く含まれるアラキドン酸は主に5-リポキシゲナーゼ、シクロオキシゲナーゼ等の酵素によりロイコトリエンやプロスタグランジンと呼ばれる炎症を強くする「炎症性(悪玉)」メディエーターに変わりますが、一方でDHA・EPAは15-リポキシゲナーゼ等の酵素によりプロテクチン、レゾルビンと呼ばれる炎症を抑える「抗炎症性(善玉)」メディエーターに変わることが最近になってわかりました。オメガ3脂肪酸を多く含むいわゆる青い魚やサプリメントを摂ると、気管支喘息等の炎症が長く続いてしまう病気に対して炎症を抑える作用を発揮する可能性があることがわかってきており、前述した「抗炎症性」メディエーターの作用を介していることが考えられています。

重症喘息では抗炎症性脂質メディエーターが少なくなっている

私たちは重症喘息で認められる長く続く気道の炎症の原因を解き明かすために、炎症細胞のリーダー的な役割をしている好酸球が作る「脂質メディエーター」に注目しました。好酸球は主にロイコトリエン等の「炎症性」脂質メディエーターを作っていることが知られていますが、一方で「抗炎症性」脂質メディエーターを作るために必要な15-リポキシゲナーゼも細胞の中にたくさん持っています。しかしながら、「何故15-リポキシゲナーゼを持っているのか?」ということはよくわかっていません。
私たちの研究では、東京大学薬学部の衛生化学教室で研究をされている有田誠准教授と協力して、網羅的脂質解析(リピドミクス解析とも呼ばれます、数百種類の脂質メディエーターを同時に測ることが出来る最新の技術です)という方法により、

  1. 好酸球がオメガ3脂肪酸であるDHAからできる「抗炎症性」脂質メディエーターのプロテクチンD1をたくさん作ること
  2. 重症喘息の患者さんの好酸球は、プロテクチンD1を多く作ることができないこと、15-リポキシゲナーゼの働きが弱まっていること

を明らかにしました。

図2

プロテクチンD1は、動物を用いた実験で気道に好酸球が集まることを抑えることが分かっていますし、さらに私たちは、好酸球が移動したり、血管にくっついたりすることも抑えることを示しました。これらの結果から考えて、重症喘息では、プロテクチンD1に代表される15-リポキシゲナーゼによって作られる脂質メディエーターが「作られなかったり、働かなくなったりしている」可能性があると思われます。

重症喘息に効く新しい薬を創ることを目指して

重症喘息という、治療が上手くいかず、気道の炎症が長く続いてしまう病気では、炎症を強くする悪玉が活躍しているだけではなく、炎症を抑える善玉が少なくなってしまっていることが分かりました。現在は、好酸球の15-リポキシゲナーゼがどうやって働いているのか、気道では15-リポキシゲナーゼによって作られる脂質メディエーターがどんな時に作られて、どんな細胞に働きかけているのか、ということを調べていくことで、【重症喘息に効く新しい薬を創る!】というゴールに向けて、研究を続けています。

参考文献

Dysregulated synthesis of protectin D1 in eosinophils from patients with severe asthma. Miyata J, Fukunaga K, Iwamoto R, Isobe Y, Niimi K, Takamiya R, Takihara T, Tomomatsu K, Suzuki Y, Oguma T, Sayama K, Arai H, Betsuyaku T, Arita M, Asano K. J Allergy Clin Immunol. 2013 Feb;131(2):353-360.e2. doi: 10.1016/j.jaci.2012.07.048. Epub 2012 Sep 21.
http://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S009167491201295X外部リンク

宮田 純(呼吸器内科助教) 右:共著者の福永 興壱(呼吸器内科専任講師)

最終更新日:2013年3月1日
記事作成日:2013年3月1日

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