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子宮体がんの手術とセンチネルリンパ節生検(改訂) -婦人科-

子宮体がんの治療

子宮体がんの治療は、まず手術(子宮全摘術と両側付属器摘出術とリンパ節郭清)を行い(図1)、腫瘍の組織型・分化度(いわばがんの性格)と広がりを顕微鏡レベルで確認することからはじまります。そのデータを確認した上で、どの程度の再発リスクがあるのかを今までの治療成績から、高リスク、中リスク、低リスクの3段階に分けて、術後の再発予防の治療の必要性を検討することになります。

図1.子宮体がんの基本術式と骨盤リンパ節と傍大動脈リンパ節

図1.子宮体がんの基本術式と骨盤リンパ節と傍大動脈リンパ節

転移が早期に生じる可能性があるリンパ節の範囲を所属リンパ節と言いますが、子宮体がんの所属リンパ節には、骨盤リンパ節と傍大動脈リンパ節が含まれます(図1)。子宮体がんの標準手術療法としてのリンパ節郭清の範囲は、この2つの領域のリンパ節のうち、より子宮に近い骨盤リンパ節が対象とされていますが、より転移リスクが高いと判断される場合は傍大動脈リンパ節も併せて郭清する施設が多く見られます。慶應義塾大学病院で傍大動脈リンパ節も併せて郭清するのは以下のような場合です。1)手術前の子宮内膜組織診または手術中の迅速病理診断にて組織型が漿液性腺がんなど予後が不良のタイプであるか、または分化度がグレード3(低分化)であると確認される、2)迅速病理診断にて卵巣・卵管に転移が確認される、3)筋層浸潤の深さが半分以上の深い浸潤であることが迅速病理診断にて確認される、4)迅速病理診断にて所属リンパ節転移が確認される。

しかしながら、子宮体がんは、比較的早期がん症例が多く、所属リンパ節転移がみられない手術進行期I~II期(子宮内限局)症例が全体の約70%を占めており、実際にはリンパ節郭清が不要であるケースが相当数含まれています。現在は画像診断(CT、MRI、PET+CT)技術が向上していますが、小さなリンパ節転移を事前に正確に予測する方法は、まだ残念ながら開発されていません。また、骨盤リンパ節郭清後は、下肢や会陰部の浮腫を生じQOL(生活の質)が低下したり、骨盤内リンパ嚢胞や膿瘍などの合併症が生じたりすることがあります。また傍大動脈リンパ節郭清も併せて行うと長時間の手術となり、術後腸閉塞などの合併症が生じる頻度も増加する傾向があります。

センチネルリンパ節ナビゲーション手術

近年、このような合併症を回避するために、最初に転移が生じると考えられるリンパ節(リンパ節の場所は患者さんごとに異なります)を手術中に迅速病理診断で検索し、転移がない場合は、より転移の可能性が低いと考えられるその他の所属リンパ節は摘出せずにおくというセンチネルリンパ節ナビゲーション手術が、乳がんをはじめ様々ながん腫において試みられるようになってきました。センチネル(sentinel)という語源は『見張り』という意味です。乳がんと悪性黒色腫については、平成22年4月から保険診療として承認されていますし、胃がん、食道がん、頭頸部がん、肺がんなどの診療でも臨床研究として行われています。婦人科領域では、外陰がん、子宮頸がんについて臨床研究が広く行われていますが、子宮体がんでは、まだ少数の検討しか報告されていません。

子宮体がんにおいてセンチネルリンパ節ナビゲーション手術が確立されれば、多くの患者さんで縮小手術が可能となります。センチネルリンパ節に転移を認めなければリンパ節郭清が省略できることになり、将来的に患者さんにとっては合併症リスクの低下、医療者側にとっては手術時の負担が軽減し、さらには入院期間の短縮など医療費削減にも寄与すると期待されます。また通常のリンパ節の病理検索では確認しにくい2mm以下のサイズの微小な転移を効率的に確認できることが期待されます。

このような利点が期待されるにもかかわらず、子宮体がんにおいてセンチネルリンパ節ナビゲーション手術の臨床研究が進みにくい理由には、センチネルリンパ節を特定する方法が未確立であること、またセンチネルリンパ節が存在すると考えられる範囲が広く(図1)、短時間で確実に検索することが容易ではないこと、が挙げられます。また、乳がん治療ガイドラインにも『手技に習熟したチーム(外科医、病理医、放射線科医)が行ったセンチネルリンパ節生検で転移陰性であると確認された場合は......』と明記されており、習熟した病理医、放射線科医の協力が欠かせません。当院では、外科領域において世界的に最先端のレベルのセンチネルリンパ節ナビゲーション手術研究が行われております。そこで婦人科では、当院の倫理委員会に臨床研究として申請し承認を受け、放射線科、病理診断部、消化器外科のご協力のもと、子宮体がんのセンチネルリンパ節ナビゲーション手術を目指した臨床試験を2009年3月より開始しました。対象となる患者さんは、手術前検査にて子宮体がんと診断された方のうち、画像検査などにて手術進行期I~II期が推定され、明らかなリンパ節転移がなく、リンパ節郭清を含む手術が予定される20才以上の方です。もちろん臨床試験へのご参加は、患者さんの自由意志によります。2015年12月までに約100名の患者さんにご協力いただき、研究を進めて参りました。

図2.SPECT-CT画像で描出されたセンチネルリンパ節(矢印)

図2.SPECT-CT画像で描出されたセンチネルリンパ節(矢印)

臨床研究の概要

センチネルリンパ節の同定法としては、他のがん腫と同様にラジオアイソトープ(RI)法と色素法を原則として併用して行っています。RI法に関しては、手術前日に子宮鏡を用いて、子宮体がんの周囲にラジオアイソトープ(99mTc-フィチン酸)を局所注射し、手術当日の朝にSPECT-CTの撮像を行います(図2)。手術中には、γプローブによる検索も行い、センチネルリンパ節を同定します。色素法にはインドシアニングリーン(ICG)という検査用の色素を手術中に子宮漿膜下に局所注射し、その後どのリンパ節に色素が流れ込んでいくかを複数の医師の眼で確認します。

また、このICGという色素には、赤外線カメラを通して観察すると蛍光を発する性質があり、蛍光観察でのセンチネルリンパ節の同定についても検討を進めています(図3)。なお、ラジオアイソトープの量は、骨シンチ検査で使用される放射線量の約50-100分の1であり、人体に悪影響をおよぼす被爆量ではなく、色素についても人体に悪影響をおよぼすようなことは極めて稀です。両者の方法にて確認されたセンチネルリンパ節の主な3個を術中迅速病理診断に提出し、また術後の詳細な免疫組織化学的検索も含めて、微小な転移も可及的に見逃さないようにしています。

図3.ICGを用いたセンチネルリンパ節検出の実際

図3.ICGを用いたセンチネルリンパ節検出の実際

現段階では標準的なリンパ節郭清を全ての患者さんに実施しております。この臨床研究では、子宮体がんにおけるセンチネルリンパ節の個数や部位、最適なセンチネルリンパ節の検出方法、センチネルリンパ節の検出率、リンパ節転移陽性例におけるセンチネルリンパ節転移率(感度)、センチネルリンパ節が転移陰性である場合で他の所属リンパ節が転移陰性である確率(陰性的中率)を検討し、子宮体がんにおいてもセンチネルリンパ節の概念が成立し、センチネルリンパ節ナビゲーション手術が可能か否かを明らかにしたいと考えています。

臨床研究の成果(2009~2015年)

まず、センチネルリンパ節の概念が成立するためには、1)センチネルリンパ節が確認できる患者さんの割合(検出率)と2)センチネルリンパ節に転移がない場合に他のリンパ節には転移していない確率(陰性的中率)が、いずれも90%以上であることが必要であると考えられています。2015年末までの研究結果としては、センチネルリンパ節を98.9%の患者さんで検出することが可能でした。また、陰性的中率は100%という良好な結果が得られていますので、子宮体がんにおいてもセンチネルリンパ節の概念が成り立つことが明らかになりました。

センチネルリンパ節の個数に関しては、患者さん1人あたり平均5.3個が検出されました。標準的なリンパ節郭清を行った場合、摘出されるリンパ節の個数は平均約60個(当院データ)ですので、将来的にセンチネルリンパ節ナビゲーション手術が導入された場合には、摘出するリンパ節の個数を10分の1以下にまで抑えることが可能であると考えています。

また、これまで早期がんでは傍大動脈リンパ節への転移が起こることは稀であると考えられてきましたが、これを覆すデータが得られてきました。センチネルリンパ節の研究を通して、センチネルリンパ節は骨盤リンパ節だけでなく傍大動脈リンパ節にも広く存在していることがわかってきました(図4)。そしてセンチネルリンパ節の臨床試験に参加していただいた患者さんの中でリンパ節に転移があった方の転移部位を解析してみると、傍大動脈リンパ節への転移を認めた方は67%にも及んでいました。このことから、傍大動脈リンパ節への転移を見逃さないことも重要であると考えています。

図4.センチネルリンパ節の検出部位とリンパ節転移部位

図4.センチネルリンパ節の検出部位とリンパ節転移部位
図中の円の大小は、センチネルリンパ節として検出される確率や転移のあったリンパ節の個数を視覚化したもの

センチネルリンパ節には、転移の可能性が高いリンパ節をピックアップして、集中的に詳細な病理学的検索を行うために、通常の病理検査では診断が困難な微小な転移を確認することが可能であるという側面もあります。
このセンチネルリンパ節の臨床試験に参加していただいた患者さん(94名)の中でリンパ節に転移があった方が21名いらっしゃいましたが、そのうち12名(57%)は、転移リンパ節の中の転移病巣が直径2mm未満という微小な転移でした。このような微小な転移は、従来の病理検査では検出できないケースが存在した可能性があります。つまり、微小な転移を効率的に確認することが期待できるセンチネルリンパ節の手法を用いて、手術後の再発リスクに関するより正確な情報を患者さんに提供できると考えています。

現在、当科ではセンチネルリンパ節ナビゲーション手術(センチネルリンパ節に転移がない場合は、その他のリンパ節の摘出を実施しない手術)の導入を検討中です。センチネルリンパ節ナビゲーション手術は、子宮体がんの患者さんの治療後の予後改善やリンパ浮腫などの合併症軽減につながることが期待されます。

左から進 伸幸(産婦人科学(婦人科)教室准教授)、片岡史夫、山上 亘

左から進 伸幸(産婦人科学(婦人科)教室准教授)、片岡史夫、山上 亘

文責:婦人科外部リンク

最終更新日:2016年10月1日
記事作成日:2011年2月1日

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