
気管支喘息の最新の治療 -呼吸器内科-
あなたの喘息はコントロールできていますか?
喘息とは気管支が発作的に狭くなり、ゼーゼーする、咳が出る、息苦しくなる、などの症状をきたす病気です。特に乳幼児期から学童期のお子さんに多く、その年齢層の6~10%が、おとなでも日本人の約3%が喘息だといわれています。つまり、日本国内には喘息患者さんが数百万人いると推定されています。
幸いに、良い治療法(吸入ステロイド薬)が開発されて、きちんと治療を受けていただければ、90%以上の方では医学的な基準からみても良くコントロールすることが可能です。しかし現実には、喘息と診断されていてもご自分ではそれほど病状が悪くないと判断し、治療が不十分になっているうちに、病気が進行していく場合も少なくないのが実情です。困ったことに一定期間以上にわたって適切な喘息の治療が行われなかった場合には、たとえ後から強力な治療をしてもコントロールが難しくなります。喘息で治療中の方、あるいは過去に喘息といわれたことがあるが現在は治療を受けていない方も、下記のチェックシートに答えてみてください。
- この1週間で3回以上、喘息の症状(ゼーゼー、ヒューヒュー、息切れ)がありましたか?
- この1週間で家庭、職場や学校での活動が制限されるほどの呼吸障害がありましたか?
- この1週間で風邪以外の咳、息切れ、胸の苦しさで眠れないことがありましたか?
- この1週間で3回以上、発作止めを使いましたか。
この1~4の中の一つでもあてはまれば、あなたの喘息はコントロール不十分ですので、なるべく早く、主治医の先生と相談して治療を見直してください。
現在は上記のような症状がなくても、過去1年間に喘息発作のために救急外来を受診したり、入院したことがある方、ステロイドの内服薬(プレドニン、リンデロン、デカドロン、セレスタミン)による治療を受けたことがある方は、治療の見直しによってより良い喘息のコントロールが得られる場合もありますので、主治医の先生と相談した上で専門医の診察を受けてみると良いでしょう。
喘息治療の第一選択薬:吸入ステロイド薬
喘息の一番有効な治療薬は、気道の粘膜のただれ(炎症)を抑える吸入ステロイド薬という薬剤です。この薬が使われるようになってから、喘息発作で救急外来を受診したり、入院したり、命を落とす人は激減しました。喘息と診断されている方は、(1)下記のいずれかをもらっているか、(2)医師の指示通り使っているか、の2点をもう一度確認してみてください。
同じ吸入ステロイド薬でも、現在はいろいろな特徴をもった薬剤があり、病状によって使い分けることが可能になりました。声がかれるといった、のどへの副作用が少ない薬、1日1回の吸入で効果がある薬、末梢の気管支まで届くように改良された薬、気管支を拡げて速やかに呼吸を楽にする作用を併せ持つ薬などがあります。今まで吸入ステロイド薬を使ってもあまり効果がなかった、あるいは副作用のために使えなかった、という方も、専門医であれば、あなたに合った適切な薬を選んで喘息のコントロールを改善できることがしばしばありますので、一度ご相談ください。

重症喘息の新しい治療薬:オマリズマブ
吸入ステロイド薬を含む強力な治療を行っても、5~10%の喘息患者さんでは頻回な発作を繰り返したり、息切れが取り切れないなど、日常生活に支障をきたしています。このような患者さんの喘息を「重症喘息」もしくは「難治性喘息」と呼び、ステロイド薬の内服薬や注射薬を使えば一時的に症状が改善しても副作用が大きく、新しい治療法の開発が待ち望まれていました。
そのような中、2009年3月にオマリズマブ(商品名:ゾレア®)が発売されました。これは喘息の発症や増悪に重要な免疫グロブリンE(IgE)という分子に体内で結合して、治療効果を発揮する薬(分子標的薬)です。ゾレア®を2~4週おきに皮下注射で使用しはじめた途端に、今まで軽い風邪をひいただけでひどい喘息発作をおこして外来で点滴を受けたり、年に何度も入院をしていたのが、ほとんど喘息発作を生じず普通の方と同じように日常生活を過ごすことが可能となり、長年続けていたステロイド薬の内服も完全に中止できるといった、劇的な効果を経験した患者さんも何人かいらっしゃいます。

ただし、この薬はアレルゲン(ほこり、ダニ、ネコなど)に対するアレルギー反応があることが検査で証明されているタイプの喘息患者さんにしか効果がありません。また、治療をやめてしまうと効果がなくなるため、2~4週毎に外来で注射を受ける必要があります。注射する薬の量や回数は体重と血液検査の結果によって決まります。
副作用としては注射した部位が一時的に腫れたりすること、数日程度続く倦怠感などが頻度としては比較的多いようです。薬に対するアレルギー反応で呼吸困難になったり血圧が下がるアナフィラキシーという副作用が心配され、最初の注射後2時間は病院内で異常が起きないか様子を見させていただいていますが、日本人でのそのような重大な副作用はごくまれにしかないようです。
薬の値段が非常に高額(1本が7万円)で、月に1本、2本、4本、6本使う場合、3割負担だとゾレアの薬剤費だけでそれぞれ約2万円、4万円、8万円、12万円かかることになります。ただし、健康保険では一定額以上の高額療養費に対しては自己負担の限度額があり、さらに高額の医療費負担が4ヶ月以上続く場合にはさらにその限度額が引き下げられる制度があります。下記の自己負担限度額の表をご参照ください。

注) 70歳未満でも、長寿医療制度に加入されている方は<70歳以上>の表をご参照ください |

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上記の表は、「ご存知ですか高額療養費制度」(ノバルティスファーマ(株) 2010.10月発 行)より許可を得て転載しています。なお、2011年11月以降の給付改訂は、社会保険庁の サイトでご確認ください。
【社会保険庁ホームページ】
どのような給付があるのか(保険給付):高額療養費
http://www.sia.go.jp/seido/iryo/kyufu/kyufu06.htm
さらに、東京都に1年以上在住されている喘息の方は、「大気汚染医療費助成制度」という医療費の助成制度があり、各区市町村で申請するとゾレア®も含めて喘息治療費の全額助成を受けることができます。下記のホームページをご覧になるか、病院で手続きについてお尋ねください。
東京都福祉保健局 大気汚染医療費助成制度のご案内
重症喘息に対する当科の取り組み
慶應義塾大学病院呼吸器内科では前述のゾレア®を使用し、多くの重症喘息患者さんの治療を行っております。また、ゾレア®を使うことができないタイプの重症喘息の患者さんの方には、喘息が重症化する原因を詳しく調査した上で、その方個人にとって最善の治療を行ってます。私どもは喘息がなぜ重症化するのかという疑問を解明し、新しい治療法を開発すべく日夜努力しています。喘息で苦しんでおられる方がおりましたら、是非当科外来までご相談下さい。

呼吸器内科喘息グループと外来スタッフ
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最終更新日:2011年11月14日
記事作成日:2011年11月14日

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