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原発性硬化性胆管炎(PSC)

げんぱつせいこうかせいたんかんえん

概要

原発性硬化性胆管炎(Primary Sclerosing Cholangitis: PSC)は、肝臓内および肝臓外を走る大小の胆管に炎症が生じ、その結果胆管の狭窄や閉塞を起こし胆汁が流れにくくなる進行性の胆汁うっ滞疾患で、一部の症例においては肝硬変、肝不全に進展します。胆管炎、胆管悪性腫瘍、胆道手術や外傷による胆管狭窄、総胆管結石による胆管炎などは2次性硬化性胆管炎として原発性硬化性胆管炎とは区別されます。また、近年診断基準が確立され、臨床や病態特徴的に異なるIgG4関連硬化性胆管炎(IgG4-SC)も鑑別診断にあがります。

原発性硬化性胆管炎の原因は未だ不明ですが、何らかの自己免疫性機序や腸内細菌を介した腸肝相関が病態に関与していると考えられています。若年や中年の男性に多く、潰瘍性大腸炎などの炎症性腸疾患を合併することが多いことを特徴とします。

2018年の全国疫学調査によると国内の患者の数は2,300名前後、人口10万人あたりの有病率は1.80程度と推測され、2007年に行った調査のおよそ2倍に増加しています。一方、欧米諸国での人口10万人当たりの有病率は日本の約3〜9倍と報告されています。男女比は男性にやや多く(1:0.9)、好発年齢は若年の20〜40歳および高齢層の65〜70歳代にピークがあり、二峰性を呈しています。

症状

初期には無症状であることが多いですが、病状の進行とともに全身倦怠感、疲労感、皮膚のかゆみなどの症状が出現し、黄疸がみられるようになります。発熱、右季肋部痛など、細菌性胆管炎の合併に伴う症状も繰り返しに経験されることがあります。潰瘍性大腸炎などの炎症性腸疾患を合併することが多いことから、下痢、血便、発熱、腹痛といった消化管症状で見つかることもあります。

原発性硬化性胆管炎は高率に潰瘍性大腸炎をはじめとする炎症性腸疾患を合併することが知られています。欧米諸国では70~80%に炎症性腸疾患を合併し、そのほとんどが潰瘍性大腸炎です。一方、日本においては炎症性腸疾患の合併率は約30%前後と欧米諸国より低く、2012年の全国調査では34%と報告されています。また一般的に原発性硬化性胆管炎に合併する潰瘍性大腸炎は症状が軽く、治療によく反応することが知られています。内視鏡の所見(右側結腸優位、回腸炎の合併、直腸病変がみられない)から、典型的な潰瘍性大腸炎と診断されない例も多く、原発性硬化性胆管炎関連腸炎や分類不能型腸炎として診断されることもあります。また、長期間の胆管の炎症に伴い胆道がんを高率に合併することが知られており、2012年の全国調査では7.1%と報告されています。潰瘍性大腸炎に大腸がんの合併にも注意が必要です。なお、肝移植後の原発性硬化性胆管炎の再燃も報告されています。

診断

原発性硬化性胆管炎では、次のような臨床検査値の特徴があります。

  1. ALP、γ-GTPの上昇
    肝機能検査では、ALP、γ-GTPなどの胆道系酵素が上昇します。特にALPは必ず上昇するため、診断基準の項目の一つになっています。現在のところ原発性硬化性胆管炎に特異的な自己抗体は発見されておらず、原発性胆汁性胆管炎に特徴的な抗ミトコンドリア抗体は陰性です。一部の症例においてMPO-ANCAが陽性となることが知られています。
  2. 画像所見
    内視鏡的逆行性胆管造影(ERC)やMRI膵胆管造影(MRCP)検査により、原発性硬化性胆管炎に特徴的な肝内、肝外胆管の炎症に伴うびまん性の壁不整や狭窄がみられます。さらに進行すると胆管全体に狭窄と拡張が混在する、いわゆる数珠状変化がみられるようになります。
  3. 肝臓組織検査
    病気の初期は特徴的な所見がありませんが、進行すると胆管周囲の同心円状の層状線維化(onionskin lesion)がみられます。ただし病変は不均一に存在するため、一部の組織を採取する針生検では特徴的な所見を得られないことがあります。一方、小児発症の症例にはより多くみられる自己免疫性肝炎(autoimmune hepatitis; AIH)との合併が疑われる際に、肝生検がさらに有用になる可能性があります。

厚生労働省難治性肝・胆道疾患に関する調査研究班より提言された原発性硬化性胆管炎診断基準(2016年版)外部リンクは以下のようになります。

(原発性硬化性胆管炎診断基準より一部引用・改変)
IgG4関連硬化性胆管炎(注1)、発症の原因が明らかな2次性の硬化性胆管炎(注2)、胆管癌(注3)などの悪性腫瘍を除外することが必要である。

診断項目

  1. 大項目
    1. 胆管像
      1. PSCに特徴的な胆管像(注4)の所見を認める
      2. PSCに特徴的な胆管像の所見を認めない
    2. アルカリフォスファターゼ値の上昇 (小児症例ではかわりにγ-GTPが用いられる)
  2. 小項目
    1. 炎症性腸疾患の合併
    2. 肝組織像(線維性胆管炎/onion skin lesion)
図1.原発性硬化性胆管炎(PSC)の診断フロー

図1.原発性硬化性胆管炎(PSC)の診断フロー
確診・準確診のみをPSCとして取り扱う。

(注1)文献(Ohara H、et al. J Hepatobiliary Pancreat Sci 2012. 19(5): p536-42.)に沿ってIgG4関連硬化性胆管炎を診断する。
(注2)文献(Nakazawa T et al. World J Gastroenterol 2013. 19(43): p7661-70)を参考に2次性硬化性胆管炎を除外する。
(注3)特にdominant stricture(総胆管では径1.5mm以下、肝管では左右分岐部から2cm以内の径1.0mm以下の狭窄を指す)について鑑別が必要である。
(注4)胆管像として、数珠状(beaded)、剪定状・枯れ枝状(pruned tree)、帯状狭窄(band-like stricture)、毛羽立ち様(shaggy)、憩室様突出(diverticulum-like outpouching)などが特徴である。

重症度・予後

原発性硬化性胆管炎の指定難病による重症度((1) または (2) を指定難病重症の対象とする):
(1) 有症状の患者(黄疸、皮膚掻痒、胆管炎、腹水、消化管出血、肝性脳症、胆管がんなど)
(2) ALPが施設基準値上限の2倍以上の患者

原発性硬化性胆管炎の自然史に不明な点が多く、個別の症例において現時点では十分な信頼性を有する予後予測ツールが確立されていません。厚労省研究班の全国調査によると、5年移植なし生存率は77%、5年全生存率は81%です。一方、診断時若年者・診断時無症状であれば、5年全生存率は91%と上昇します。臨床的に、Revised Mayo risk score(年齢、総ビリルビン、アルブミン、AST、静脈瘤の出血の有無)が最も使われている臨床スコアの一つですが、病態早期においては予後予測能に欠けているとの指摘もあります。その他、慢性肝疾患としての予後予測にはChild-Pugh scoreが用いられており、脳死肝移植の順位決定においてMELD scoreが活用されています。

また、胆嚢がんや胆管細胞がん(10年累積発生率7~9%)と併存する炎症性腸疾患の病勢や大腸がんの合併も生命予後・生活の質に影響するためサーベイランス(調査・監視)が必要です。

治療

現在のところ、原発性硬化性胆管炎に対する根本的な治療は存在せず、薬物による治療法には確立されたものがないのが現状です。ウルソデオキシコール酸(商品名:ウルソ)には胆汁分泌促進作用や肝細胞保護作用があり、様々な胆汁うっ滞性疾患や慢性肝疾患で汎用されています。原発性硬化性胆管炎に対しても第一選択の薬剤となっており、2012年の全国調査でも81%の症例で投与されていました。原発性硬化性胆管炎に対するウルソデオキシコール酸の有効性について、多くの検討において血清ALPの改善効果がみられますが、実際患者さんの予後を改善するかについては意見が分かれています。また保険適用を超えるような高用量のウルソはかえって予後を悪化させることも報告されており、今後のさらなる検討が必要です。一方、自己免疫性肝炎を合併する症例、またIgG4関連硬化性胆管炎の鑑別が考慮される症例においては、副腎皮質ホルモンを用いて治療することもあります。

また脂質異常症の治療薬であるベザフィブラート(商品名:ベザトール)の原発性硬化性胆管炎に対する有効性も報告されています。報告では胆道系酵素の改善のみで、組織学的な改善や画像診断上の改善を促すものではありませんが、ウルソ治療で十分な効果が得られなかった症例でも一定の改善効果がある点が注目されています。現時点ではベザフィブラートの胆汁うっ滞性疾患への保険適用はなく、今後の大規模試験の結果が待たれます。

長期的な炎症の結果みられる大きな胆管の狭窄による胆汁うっ滞に対しては、内視鏡を用いた治療も行われることがあります。原発性胆汁性胆管炎と同様に肝硬変へと進展すると、それぞれの症状に合わせた肝硬変に対する治療が必要になります。さらに肝不全へ進行した場合には、肝移植が唯一の治療法になりますが、肝移植後に原病の再発は他の肝疾患より多いとされており、臨床的にしばしば問題となります。

慶應義塾大学病院での取り組み

前述のとおり原発性硬化性胆管炎の病態は肝臓に限定せず、肝臓専門医のみならず、胆道内視鏡専門家、炎症性腸疾患の専門グループ、放射線診断、病理、腫瘍治療専門チームならびに外科肝移植チームがすべて備わっており、当院は全面において最善な医療を提供できます。

また、原発性硬化性胆管炎は遺伝因子、免疫学的因子、環境因子など複合的な要因が病態の形成に寄与する多因子疾患と考えられていますが、近年その要因の一つとして腸内細菌叢の関与が注目されています。原発性硬化性胆管炎の臨床的特徴として、高率でIBD(炎症性腸疾患)を合併することが広く知られており(欧米60~80%、アジア30~50%)、この事実からも病態に腸肝相関が関与することが予想されます。我々は原発性硬化性胆管炎患者の協力の下、病態形成の鍵となるTh17細胞の活性化を引き起こす3種類の腸内細菌の存在の確認およびマウスモデルでの病態再現に成功し、報告しました(Nature Microbiology.4:492–503,2019外部リンク)。

当院では腸内細菌を標的とした原発性硬化性胆管炎に対する新たな治療法の開発に力を入れております。現在、原発性硬化性胆管炎の患者さんを対象として、腸内細菌叢を標的とした基礎的・臨床的検討を継続的に行っていますのでご興味がある方は消化器内科(研究責任者:中本伸宏准教授)までご連絡ください。

文責: 消化器内科外部リンク
最終更新日:2022年5月2日

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