
再発性多発軟骨炎(relapsing polychondritis: RP)
概要
再発性多発軟骨炎(relapsing polychondritis: RP)は全身の軟骨組織に炎症がおこる疾患です。耳、鼻、目、関節、気管、心臓、血管などの軟骨組織やコラーゲンを多く含む組織に様々な症状がおこります。それぞれの患者さんで臨床的特徴と経過が異なるため、発症早期の診断が難しく、軟骨の破壊が進んで耳介軟骨の変形や鞍鼻(鼻の付け根がへこむ状態)になってから診断されることも多いです。原因はまだよくわかっていませんが、コラーゲンに対する自己免疫的機序が考えられています。炎症は再燃(再び病状が悪化すること)と軽快を繰り返し、しだいに進行します。進行すると命にかかわる臓器障害を残すため定期的な評価とコントロールが重要です。特に気道病変のコントロールが命にかかわる重要な要素といえます。
稀な疾患で、アメリカでは100万人に3.5人と報告されています。全年齢におこりますが、40歳~50歳に好発します。性差はありません。全人種におこるといわれていますが白人に多いとされます。2010年の日本の調査では400~500例。3歳~80歳とあらゆる年齢層に分布していましたが、50代、60代に好発し、やや男性が多い傾向にありました。1998年の報告では8年生存率は94%と報告されています。
また、国により指定難病(病気の原因が明らかでない希少な疾患で年に1回調査される)に指定されているため、申請を行うことにより一定の重症度に応じて医療費助成を受けることができる場合があります。
症状
耳介軟骨は最も侵されやすい部位ですが、肋軟骨、目、鼻、気道、心臓、血管、皮膚、関節、腎臓、神経などあらゆる部位が障害されます。血管に炎症がある場合は、全身倦怠感、発熱などの症状が初発症状として現れます。
耳
片側、もしくは両側の耳介軟骨の炎症(図1)が最もよくみられる(43%)症状です。経過中80~90%の人が経験するといわれています。紫色や赤色に腫れ、痛みを伴い、数日で治ったり何週間も続いたりします。何度も再発すると軟骨の形が崩れ、「カエル耳」や「カリフラワー様」になります。また、内耳軟骨や聴覚神経、前庭神経を栄養する血管に炎症がおこると感音性難聴や耳鳴り、めまいが出現します。

図1.耳介軟骨の炎症
目
目の病変は患者さんの20%に起こるといわれていますが、経過中60%の人が経験するともいわれます。上強膜炎は他の臓器障害が目立っているときに起こります。強膜炎、潰瘍性角膜炎、ブドウ膜炎などもみられます。強膜炎が起こった場合に壊死性の炎症性角膜炎に急速に進行し、失明に至ることがあり注意が必要です。また、眼球後部や眼球周囲の炎症により眼球突出が起こり、多発血管炎性肉芽腫症(granulomatosis with polyangiits; GPA)との鑑別が必要になります。
鼻
鼻閉、鼻汁、鼻出血が鼻軟骨の炎症とともに出現します。嗅覚が障害されることもあり結果的に味覚がわからなくなったりします。炎症の続き、何度も再発することにより軟骨は破壊され鞍鼻(図2)となります。

図2. 鞍鼻(あんび)
気道病変
症状としては嗄声、失声、喘鳴、空咳、息切れがあります。咽頭・喉頭などの上気道、声門部、気管、主気管支、区域支など下気道の軟骨の炎症によって生じます。肺胞病変はなく、末梢の気道病変も稀です。初期は炎症による気道粘膜の腫脹によって気道が狭窄します。その後線維化により瘢痕となり、進行すると気道軟骨が破壊され、気道が虚脱します。瘢痕部位の線毛円柱上皮の減少や、気道の閉塞、虚脱によりクリアランスは低下し、肺炎や、気管支炎を繰り返すようになります。気道病変を速やかに診断し、不可逆的な障害にいたる前に治療することが生命予後の改善につながります。
関節炎
RPに特徴的な関節炎がおこる部位は胸鎖関節、肋軟骨など胸骨周囲ですが、指の関節、膝の関節にもおこります。他の軟骨病変と異なり、関節は変形しません。腫れるだけのことも、痛みだけのこともあります。通常は痛み止め(NSAIDs)がよく効き、数日から数週間で改善します。
心臓病変
稀ですが、命に関わる病変です。進行性の弁輪の拡張により大動脈弁閉鎖不全症や、僧帽弁閉鎖不全症などがおこり、心雑音が聞こえるようになります。また、冠動脈の炎症により心外膜炎、心ブロック、心筋梗塞が起こることもあります。
腎臓病変
稀に合併することがあり、将来の見通しに関わる重要な病変です。組織学的にはメサンギウム増殖性腎炎、巣状壊死性糸球体腎炎がみられますが、他の膠原病などの原因がないことを確認する必要があります。
神経病変
神経病変は血管炎により生じます。第II、VI、VII、VIII脳神経がよく障害される神経です。その他にも片麻痺、けいれん、脳血管障害、器質的脳症候群、痴呆、脊髄炎、末梢神経障害、無菌性髄膜炎、リンパ球性髄膜脳炎などの多彩な病変を呈します。
皮膚病変
特有の皮疹はありません。血管炎により、アフタ性潰瘍、紫斑、丘疹、結節、膿疱、潰瘍、血栓性静脈炎、リベドー疹など様々な皮膚病変がみられます。組織学的には血管炎、皮膚の静脈血栓、脂肪織炎、好中球性皮膚炎があります。
消化管病変
食道内圧の異常の結果、嚥下困難が生じますが、RP単独の消化管病変はめったにおこりません。したがって、血管炎、潰瘍性大腸炎、クローン病、全身性強皮症の併存を考えます。
関連疾患:
RPの1/3の症例で血管炎、他の膠原病、感染症、がんが併存しています。これら併存疾患はRPより前に発症することも、同時に起こることも、後から発症することもあります。
血管炎は皮膚のみに限局する白血球破砕性血管炎から重篤な臓器障害をともなう全身性の多発性動脈炎まであり、後者は予後(病気の見通し)不良となります。多発血管炎性肉芽腫症との併存は鑑別が難しくなりますが、特徴的な自己抗体(ANCA)の有無が決め手となります。ベーチェット病との併存はMAGIC 症候群(Mouth And Genital ulcers with Inflamed Cartilage syndrome:炎症性軟骨をともなう口腔と陰部の潰瘍)とよばれます。その他、関節リウマチ、全身性エリテマトーデス、橋本病、潰瘍性大腸炎、クローン病などとの併存も報告があります。
また、C型肝炎ウイルス感染が併存する場合、インターフェロン治療によるC型肝炎ウイルスの消失に伴いRPも改善したという報告があります。骨髄異形成症候群(MDS)との併存の報告も多く、高齢男性で皮疹をみる場合には注意が必要です。
診断・検査
CRP上昇や血沈亢進など炎症所見がありますが、RPに特徴的な検査所見はありません。臨床症状、血液検査、CTやMRI、ガリウムシンチグラフィー、骨シンチグラフィー画像所見、組織学的所見などより総合的に診断します。McAdamらの診断基準(表1)が通常使用されますが、発症早期は臨床症状が揃わず診断基準を満たさないこともあるため、この診断基準の一つ以上の項目を満たし組織学的に証明できた場合、もしくは少なくとも2か所の軟骨炎で診断できるとするものもあります。
気道病変の経過を評価する場合はCT検査や呼吸機能検査を使用します。気管支鏡検査も正確な病態把握に重要な検査ですが、体に負担がかかることから、検査の実施は慎重に判断されます。
表1.再発性多発軟骨炎 診断基準
(Medicine(Baltimore).55(3):193-215,1976の表を引用)

治療
内科的治療
炎症が軽度で、耳介、鼻根部に限局していたり、軟骨炎や関節炎のみの場合は非ステロイド抗炎症薬(NSAIDs)を使います。しかし、大部分の症例ではステロイドを使用します。急性期はプレドニゾロン(PSL)0.5-1.0mg/体重kg/日による治療が必要ですが、気道病変、心病変、眼病変、聴力障害などの臓器病変がある場合や血管炎を合併する場合は高用量のステロイド(PSL 1mg/体重kg/日)による治療が必要です。気道閉塞や重篤な機能障害、命にかかわる場合はステロイドパルス療法を行います。効果を得ればステロイドは漸減しますが、漸減困難な場合はメトトレキサート(商品名:リウマトレックス®)、シクロホスファミド(商品名:エンドキサン®)、アザチオプリン(商品名:イムラン®)、シクロスポリン(商品名:ネオーラル®)などの免疫抑制薬を併用します。
近年、従来の治療法で効果が得られない場合、インフリキシマブ(商品名:レミケード®)、エタネルセプト(商品名:エンブレル®)、アダリブマブ(商品名:ヒュミラ®)などのTNF阻害薬、インターロイキン-6阻害薬であるトシリズマブ(商品名:アクテムラ®)などの生物学的製剤が有効であったという報告が増えてきています。これらの生物学的製剤は、保険適用外であることに加え、有効性と安全性について確立されていないことがあり、安易には選択できませんが、今後の症例の集積や解析で新たな治療法の確立が期待されます。
外科的治療
急性の気道閉塞時には気管切開を緊急的に行い、気道狭窄や虚脱に際してはステント留置を行います。全国疫学調査では気道病変に対して、気管切開18%、気管内ステント留置が9%に行われていました。
心・血管系病変に対しても外科的治療が必要となる場合があります。心臓の弁閉鎖不全に対しては弁置換術、動脈瘤に対してはステントや人工血管形成術が必要となります。
生活上の注意
免疫を抑える治療が中心で、気道のクリアランスが低下しているため、ちょっとした風邪をきっかけに重症肺炎になりえます。手洗い、うがい、人混みをさけるなどの基本的な感染症予防が重要です。
慶應義塾大学病院での取り組み
耳鼻咽喉科や呼吸器内科などとも連携し包括的な診療を行っています。
さらに詳しく知りたい方へ
文責:
リウマチ・膠原病内科
最終更新日:2017年2月23日

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