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抗リン脂質抗体症候群(antiphospholipid syndrome: APS)

こうりんししつこうたいしょうこうぐん

概要

抗リン脂質抗体症候群(antiphospholipid syndrome:APS)は1980年代に提唱された概念です。抗リン脂質抗体と呼ばれる自己抗体が検出される例の中で、動静脈血栓症および不育症を含む妊娠合併症を特徴とする疾患です。静脈系だけでなく動脈系をおかす点が特徴的です。全身性エリテマトーデス(systemic erythematousus:SLE)をはじめとした自己免疫疾患を基礎疾患としてもつ二次性と、原疾患のない原発性とに分類されます。
<頻度>
日本においては全国的な疫学調査がなされておらず、正確な頻度は不明です。後天性血栓性疾患の中では最も頻度が高いとされます。平均発症年齢は30~40歳前後です。若い女性に多いとされています(男女比1:4~5)が、男性にも発症します。

症状

抗リン脂質抗体と関連する臨床症状は多彩であり、海外の1,000名のコホートをもとにした調査では、各臨床症状の頻度は以下のように報告されています。

  • 下肢深部静脈血栓症(32%)
  • 血小板減少(22%)
  • 網状皮斑(20%)
  • 脳梗塞(13%)
  • 血栓性静脈炎(9%)
  • 肺塞栓症(9%)
  • 不育症(8%)
  • 一過性脳虚血発作(7%)
  • 溶血性貧血(7%)
  • 心筋梗塞、狭心症(5%)
  • そのほかの動脈血栓症(腸間膜、腎臓など)(5%以下)

多くは、動脈と静脈の微小血栓形成に伴う病態として把握できます。動脈系では脳梗塞、静脈系では下肢深部静脈血栓症が最も多いです。APSに特徴的な妊娠合併症は妊娠中期(10週)以降の子宮内胎児死亡による習慣流産であり、胎盤の血流障害による胎盤機能不全が原因と報告されています。胎盤機能不全は胎児のみならず母体にも影響を与え、妊娠中毒症、子癇との関連も報告されています。

以下に示す分類基準には含まれないものの、APSと関連する臨床症状として心臓弁膜症・神経症状・皮膚症状・腎症状・血小板減少症が有名です。脳梗塞に比べ虚血性心疾患の頻度は少ないですが、心臓弁膜症として無症状の弁肥厚(>3mm)を伴う僧帽弁・大動脈弁閉鎖不全は高率にみられます。神経症状として舞踏病、てんかん、認知障害などの報告がありますが、はっきりとした原因は不明です。腎症状としては微小血栓による腎機能障害や腎静脈血栓症によるネフローゼ症候群をきたします。皮膚症状として網状皮斑と呼ばれる下肢を中心とした網目状の皮疹がみられることがあります。APSに伴う血小板減少は通常は出血傾向を呈することは稀です。

他にも、稀ですが劇症型APS(catastrophic APS: CAPS)という多発性の微小血栓症による多臓器不全や重症の血小板減少症を呈する致死率の高い特殊な病型もあります。重症感染症や外科手術、抗凝固薬の中止をきっかけに発症することが多いと報告されています。

診断

APSとは抗リン脂質抗体が直接あるいは間接的に血栓症や不育症などを誘発する病態に基づく疾患であり、単に血栓症と抗リン脂質抗体陽性の併存で診断されるわけではありません(抗リン脂質抗体は健常人でも高率に陽性となり、その頻度は10~40%と報告されています。年齢と共に陽性率が上昇し、80歳以上では40%が陽性です)。診断に際しては、1998年に札幌で開催された国際シンポジウムで提唱された分類基準をもとに、2004年にシドニーで改訂された国際分類基準案(札幌基準シドニー改変)が広く用いられます。この基準には、特徴的な臨床基準と、現状で普及している抗リン脂質抗体検出法の中で臨床症状と強く関連する検査基準が含まれ、両者を1項目以上満たせばAPSと診断します。

APSの分類基準案(札幌基準シドニー改変)

臨床基準

  1. 血栓症
    画像検査や組織学的検査で確認された動脈、静脈、小血管での血栓症
  2. 妊娠に伴う所見
    1. 妊娠第10週以降の形態学的な正常な胎児の原因不明の死亡
    2. 重症の子癇前症・子癇または高度の胎盤機能不全による妊娠第34週以前の形態学的な正常な児の早産
    3. 母体の解剖学的・内分泌学的異常、染色体異常を除外した、妊娠第10週以前の3回以上連続した自然流産

検査基準(12週間以上5年未満の間隔で2回以上陽性となる)

  1. ループス抗凝固因子陽性
  2. ELISAで測定したIgG/IgM抗カルジオリピン抗体中等度以上陽性(40U/ml以上)
  3. ELISAで測定したIgG/IgM抗β2-グリコプロテインI抗体陽性(>99パーセンタイル)

臨床基準と検査基準の両方で、それぞれ1項目以上陽性のものをAPSと診断する。

治療

APSの治療の基本は、血栓症に対する急性期治療および二次予防と妊娠合併症に対する治療です。ステロイドや免疫抑制剤の有効性は証明されておらず、集中治療が必要な劇症型APSなどの特殊な病態を除いて使用しません。治療は以下のA、B、C、に大別されます。

  1. これまで血栓症がなく、抗リン脂質抗体陽性だけの場合(一次予防)
    妊娠合併症の既往がない限り、抗体陽性のみでは薬物による一次予防は不要です。

  2. 血栓症の既往を有するがAPSの診断には至らない抗リン脂質抗体陽性者
    低用量アスピリン(商品名: バイアスピリン®など)などの抗血小板薬のみの使用で十分です。

  3. 血栓症の既往を有するAPS診断例(二次予防)
    1. 静脈血栓症の既往を有する例
      INR 2~3のワルファリン(商品名: ワーファリン®)による抗凝固療法
    2. 動脈血栓症の既往を有する例
      • 脳梗塞、虚血性心疾患(塞栓症を除く)の場合:
        低用量アスピリン または クロピドグレル(プラビックス) または ワルファリン(INR 3~4)
      • 塞栓症、脳梗塞虚血性心疾患以外の血栓症の場合:
        INR 2~3のワルファリン
    3. 治療下での血栓症の再発
      INR 3~4のワルファリン、 または 低用量アスピリンとワルファリン(INR 2~3)の併用,または 未分画もしくは低分子ヘパリン皮下注

いずれも治療に伴う出血性合併症に注意する必要があります。なお、ステロイドや免疫抑制剤による血栓症の予防効果は示されていません。また、喫煙、糖尿病、脂質異常症、高血圧、肥満などの血栓症のリスクは極力減らすようにします。

APSの血栓再発率は年間10%以上とされているため、長期に渡る予防治療が重要です。この疾患は日々の内服が重要であるため、飲み忘れのないよう服薬管理も必要です。

妊娠合併症は無治療では約7割で再燃(再び病状が悪化する)しますが、低用量アスピリンおよびヘパリン治療によりAPS合併妊婦の約8割が出産に至ります。また習慣性流産は精神的なケアも必要ですので、リウマチ内科医、産科医、精神科医と連携して包括的にサポートする場合があります。

劇症型APSの治療では、強力な抗凝固療法に加え、パルス療法を含むステロイド大量療法を行い、血漿交換療法や免疫グロブリン静注療法も併用されることがあります。

慶應義塾大学病院での取り組み

当院には多くのAPSの患者さんが通院しています。APSの患者さんの適切な診断・治療を心掛けております。

さらに詳しく知りたい方へ

文責: リウマチ・膠原病内科外部リンク
最終更新日:2017年2月23日

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