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関節リウマチの内科的治療(分子標的治療:生物学的製剤&JAK阻害薬)

かんせつりうまちのないかてきちりょう

関節リウマチの病態

関節リウマチのおおもとの病気の原因は未だに分かっていないことが多いのが実状ですが、長年の研究の成果によって、関節リウマチ患者さんの体の中で、どのようなことが起こっているか、その病態が少しずつ分かってきました。その中でも重要な役割を果たすのが、サイトカインと呼ばれるたんぱく質です。サイトカインはインターロイキン(IL)や腫瘍壊死因子(TNF)などを含めておおよそ200種類ほど知られており、いろいろな細胞から作り出され、免疫や血液に関わる細胞や全身臓器に作用し、複雑なネットワークを作ります。このネットワークの中では、リンパ球や単球と呼ばれる炎症細胞、関節局所では線維芽細胞、破骨細胞、血管内皮細胞などが働いており、それらが相互に作用し、サイトカインを介することで活性化して、炎症や関節破壊がもたらされます。

生物学的製剤とは

これらの炎症における複雑なネットワークをつなぐ特定のサイトカインや、特定の炎症細胞どうしの相互作用を標的とする治療を分子標的療法といいます。その中でも、生物から産生される物質を利用した薬剤で、抗体やその受け手である受容体などのたんぱく質を遺伝工学により作成したものを生物学的製剤といいます。

国内で使用可能な生物学的製剤

関節リウマチに対して、国内で使用可能な生物学的製剤には、大きく3種類の標的分子(TNF、IL-6、T細胞(CTLA-4))があります。また近年では一部薬剤の後発医薬品(バイオシミラー)が発売され、安価で治療を受けることもできるようになりました。有効性安全性は同様という報告が多いです。

TNF阻害薬

  • インフリキシマブ(商品名:レミケード®)*バイオシミラーあり
    関節リウマチに対する生物学的製剤の中で最も歴史のある薬剤です。1993年にTNFに対する最初のモノクローナル抗体製剤として優れた臨床効果が示されました。さらに、関節破壊を抑制する効果が臨床試験(ATTRACT試験)で示された結果、1999年に米国、2000年に欧州、2003年に日本でも関節リウマチ治療薬として承認されました。抗体のTNFに対する結合部分が一部マウスの成分で構成されているため、その部分に対する抗体(中和抗体)が出現し、効果が減弱してしまうのを防ぐために、メトトレキサート(MTX)を併用する必要があります。また、効果不十分なときには投与量を増量もしくは投与間隔を短縮することで効果が得られることが分かっています。

  • エタネルセプト(商品名:エンブレル®)*バイオシミラーあり
    インフリキシマブとほぼ同時期に開発されたエタネルセプトは、TNFに対する受容体と免疫グロブリンの一部の融合蛋白製剤です。この薬剤も関節破壊の進行を抑制することが臨床試験(TEMPO試験)で示されています。2005年に日本で承認されました。週1回もしくは週2回の皮下注射製剤で、半減期が短いことから、安全性を重視しなければならない患者さんに使用されることもあります。

  • アダリムマブ(商品名:ヒュミラ®)*バイオシミラーあり
    エタネルセプトの次に登場した製剤です。2週間に1回の皮下注射である簡便さから欧米では最も使用頻度が高いTNF阻害剤です。日本では関節リウマチに対して2008年に承認されています。十分量のMTXとの併用で有効性が高いといわれています。国内では早期関節リウマチ患者さんにおいて、MTX単剤と比較してアダリムマブを併用した方が、関節破壊の進行が抑制できるという結果が報告されています(HOPEFUL試験)。

  • ゴリムマブ(商品名:シンポニー®)
    2011年7月に4週毎の皮下注射製剤として承認されています。完全ヒト型抗体であるため、TNFに対する結合親和性が高い薬剤です。自己注射は承認されていないため、月に1回受診したときに注射をします。MTXに効果不十分な関節リウマチ患者さんを対象として、ゴリムマブの追加併用を行うと臨床指標が改善したという結果が報告されています(GO-FORWARD試験)。

  • セルトリズマブ・ペゴル(商品名:シムジア®)
    2012年11月に国内で承認されました。この製剤は抗原に結合する一部分のみに遺伝的工夫がなされており、TNFに対する結合親和性を高め、さらにポリエチレングリコール分子を付加しているため、血中半減期が安定し、病変局所への移行がしやすいことが特徴とされています。関節リウマチに対する臨床試験において、関節破壊の抑制や日常生活動作の改善などが確認されています。胎盤通過しないことから、妊娠中の関節リウマチ患者で使用されることもあります。

  • オゾラリズマブ(商品名:ナノゾラ®)
    2022年9月に国内で承認されました。2つの抗TNFαナノボディと抗血清アルブミンナノボディが融合した三量体構造の初のヒト化ナノバディ製剤であり、一般的なIgG抗体と比較して約1/4程度の分子量を有しており、病変局所への作用も期待されています。血中のアルブミンと結合することで血中半減期を延長させ、4週に1回の皮下注射製剤になります。

IL-6阻害薬

  • トシリズマブ(商品名:アクテムラ®)
    日本発のヒト化抗IL-6受容体モノクローナル抗体製剤です。IL-6はTNFと同じく炎症性サイトカインの一つで、関節リウマチの病態のなかでも重要な役割を演じていることが知られています。トシリズマブはIL-6の受容体を阻害する作用があり、多くの臨床研究で関節リウマチに対する有効性が示されています。また、海外で実施された臨床研究(ADACTA試験)では、MTXを併用しなかった場合の直接比較でトシリズマブがアダリムマブよりも有効性が優れていることが示されました。

  • サリルマブ(商品名:ケブザラ®)
    国内2剤目のIL-6受容体阻害薬です。200mg(もしくは150mg)を2週間ごとに皮下注射します。TNF阻害薬のアダリムマブと本剤の単剤投与の比較試験(MONARCH試験)では、サリルマブ群で有効性が優れていることが示されました。

T細胞共刺激阻害薬

  • アバタセプト(商品名:オレンシア®)
    生物学的製剤の中でも唯一、サイトカインではなくT細胞を標的とする薬剤です。T細胞はリンパ球の一つで、関節リウマチの病態において、炎症の促進や破骨細胞の分化にも関与しています。アバタセプトはT細胞の活性化を阻害することで関節リウマチの病態を抑制する薬剤で、数々の臨床試験でその有効性が示されています。また、アダリムマブとの直接比較試験で非劣性が示されています(AMPLE試験)。

生物学的製剤の選択と注意点

生物学的製剤のうち、どの薬剤を使用するかは、標的、症状の程度や進行、合併症の有無など副作用の起こりやすい背景をもっているかどうか、生活スタイル、担当医の使用経験など様々な点を考慮して、患者さんご本人と相談しながら決めていきます。

生物学的製剤は、より狙い撃ちした治療になるので、生体の負担が少ないといわれています。しかしながら、炎症性サイトカインや炎症細胞は、本来自分の体を外敵から守る免疫が活性化したときに必要となるものですので、これらを抑えすぎてしまうと、感染症にかかりやすくなるのに加えて、体に潜んでいた病原体(結核菌、B型肝炎ウイルスなど)が活発化してしまうことがあります。そのため生物学的製剤は、その使用にあたって、専門医による適切な評価と注意が必要な薬剤です。また、生物学的製剤は遺伝工学に基づいて製造されているため、値段が高いという短所があります。

新規分子標的治療薬(JAK阻害薬)

関節リウマチに対する新規の分子標的治療薬として、トファシチニブ(商品名:ゼルヤンツ®)が2013年3月に日本で承認されました。トファシチニブはサイトカインの細胞内シグナル伝達に重要な役割を果たすJAKと呼ばれるキナーゼ蛋白を標的とした低分子化合物です。生物学的製剤と同等の効果を経口薬剤として初めて実現しました。MTXに効果不十分な関節リウマチ患者さんを対象とした臨床試験では臨床指標の改善と関節破壊抑制効果が示されています(ORAL Scan試験)。原則として、十分量のMTXに効果不十分な患者さんへの投与が考慮されます。その後、関節リウマチに対するJAK阻害薬として、バリシチニブ(オルミエント®)、ペフィシチニブ(スマイラフ®)、ウパダシチニブ(リンヴォック®)、フィルゴチニブ(ジセレカ®)が承認され、現在5剤使用が可能になっています。それぞれの薬剤でJAK分子の選択性、代謝(肝臓、腎臓)などが異なり、それぞれの患者さんにあったものを選択します。生物学的製剤と同様に、B型肝炎や結核を含めた感染症に注意する必要があります。また、JAK阻害薬使用者では、帯状疱疹の発症率が上がること、悪性腫瘍や血栓症に注意が必要であることが報告されています。薬価は生物学的製剤と同等です。

社会保障制度、医療福祉制度

分子標的治療はその値段から、経済的な負担が問題の一つです。医療費が一定以上の高額になったときは高額医療のための助成制度があります。高額療養費制度は、1か月で使用した医療費の自己負担額が一定額を超えた場合に金額が支給される制度です。年齢や所得に応じて支払う医療費の上限が定められています。支給を受けるには加入している公的医療保険に申請する必要があります。また、身体活動や日常生活に関しては、身体障害者福祉制度や介護保険制度が利用できる場合があります。少しでも負担を軽くして治療が続けられるような仕組みになっています。

慶應義塾大学病院での取り組み

慶應義塾大学病院では、上記にご紹介した生物学的製剤や分子標的薬のさらなる適切な使用方法や、関節リウマチを含めた膠原病を解明し、患者さんと社会に貢献するために研究を行っています。

さらに詳しく知りたい方へ

文責: リウマチ・膠原病内科外部リンク
最終更新日:2023年3月2日

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