音声ブラウザ専用。こちらよりメニューへ移動可能です。クリックしてください。

音声ブラウザ専用。こちらよりメインコンテンツへ移動可能です。クリックしてください。

KOMPAS 慶應義塾大学病院 医療・健康情報サイト
お探しの病名、検査法、手技などを入れて右のボタンを押してください。
慶應義塾
HOME
病気を知る
慶應発サイエンス
あたらしい医療
KOMPASについて

ホーム > 病気を知る > 膠原病と免疫の病気 > 多発血管炎性肉芽腫症(granulomatosis with polyangiitis: GPA)

多発血管炎性肉芽腫症(granulomatosis with polyangiitis: GPA)

たはつけっかんえんせいにくげしゅしょう

概要

この病気は血管に炎症が起こる「血管炎症候群」に属する病気で、その中でも全身の細い血管に炎症が起こる代表的な病気の一つです。2012年の新しい国際分類で病気の名前が変わりました(旧称:Wegener肉芽腫症)。

厚生労働省では、原因が解明されていない難病とされるいくつかの病気について、国の事業として年1回の調査と、医療費補助を行っており、その調査対象になっている病気のことを「特定疾患」と呼んでいます。多発血管炎性肉芽腫症もこの特定疾患の一つであり、令和3年度末での特定疾患医療受給者証所持者数は3,223人でした。関節リウマチが推定70万人であることを考えると、この病気はまれな病気といえます。原因は不明です。

この病気は1)鼻から肺にいたる臓器の炎症(上気道・下気道病変)、2)腎臓の炎症(腎炎)、3)全身の血管の炎症の3つを特徴とする病気で、40~60歳の中高年齢で多いですが、男女でのなりやすさの違いはほとんどありません。1960年台では治療法が確定しませんでしたが、現在は病状に合わせて副腎皮質ステロイド薬に免疫抑制薬を併用することで治療成績が向上した疾患の一つです。

症状

鼻から肺にいたる臓器の炎症(上気道・下気道病変)

初発症状としては鼻出血、鼻水、鼻のへこみ(鞍鼻:図1)、眼の痛み、中耳炎に伴う難聴、ひどい口内炎、かすれ声などが多く、それに伴い咳や血の混じった痰が出ることもあります。重症例では鼻の奥の壁に穴が開いたり(鼻中隔穿孔)、口の中の上の硬い部分に穴が開いたり(口蓋穿孔)、気道が狭くなったり(気道狭窄)、肺の中に球状のおでき(肺結節)が多発したりします。場合によっては息苦しさを感じることもあります。

図1.鞍鼻

図1.鞍鼻

腎臓の炎症(腎炎)

腎炎の症状は初発時には少なく、経過とともに頻度が増加してやがて6割ほどの患者さんに出現します。一般的にこの病気で出現する腎炎は、急速進行性糸球体腎炎と呼ばれ、進行が早く、月単位から週単位で進行するのが特徴です。自覚症状は両足のむくみ、突然出現した高血圧、尿の泡立ち、血尿などです。

全身の血管の炎症

全身の血管に炎症が起こった結果、38度を超すような発熱が続いたり、ご飯をしっかり食べているのに体重が減ったりすることがあります。また、関節の痛み(関節炎)、皮膚に赤い斑点が出たり(紫斑)、手足がしびれたり(多発性単神経炎)することもあります。また様々な臓器の血管に炎症が起こると、その臓器特有な症状が出現します。例えば、心臓の血のめぐりが悪くなったり(心筋梗塞)、腸から出血したり(消化管出血)、肺に水がたまったり(胸膜炎)することがあり、症状は患者さんによって様々です。

診断

多発血管炎性肉芽腫症の診断はある検査所見の異常だけで行うものではなく、上記のような症状や、血液、尿、レントゲン検査などの結果を総合的に判断します。この病気は他の病気がないことを確認することが診断に重要ですので、これらの検査に加えて、全身のCT検査MRI検査ガリウムシンチグラフィーなどのアイソトープを用いた検査などを入念に行う必要がある場合もあります。また、病気の起こっている部分から組織を一部採取(生検)して顕微鏡で精密に検査する必要がある場合もあります。それが肺であれば気管支鏡という検査、腎臓であれば腎臓に針を刺す腎生検などを行うことがあります。血液検査では、血管炎の場合は共通して血沈やCRP値の上昇、白血球数の増加など炎症に伴う異常がみられます。腎臓に障害が起きた場合には、血尿・蛋白尿・腎機能低下などがみられます。また、血管炎症候群の一部の患者さんの血液中に抗好中球細胞質抗体(ANCA)が検出されることが知られており、診断の助けになっています。ANCAには、PR3型やMPO型などの種類が知られています。多発血管炎性肉芽腫症ではPR3-ANCAが高率に検出されますが、国内ではMPO-ANCAが陽性のことも多くみられます。

診断基準

国内では主として旧厚生省診断基準(1998年作成)、EMEAアルゴリズム、ACR/EULAR分類基準(2022年作成)が使用されていますが、すべての症状が起こるわけでなく、一人一人に出現する症状や臓器障害、出現する時期も異なるため、機械的に項目をあてはめて診断するものではなく、専門医による総合的な診断が重要です。

(1)主要症状

  1. 上気道(E)の症状
    鼻(膿性鼻漏、出血、鞍鼻)、眼(眼痛、視力低下、眼球突出)、耳(中耳炎)、口腔・咽頭痛(潰瘍、嗄声、気道閉塞)
  2. 肺(L)の症状
    血痰、咳嗽、呼吸困難
  3. 腎(K)の症状
    血尿、蛋白尿、急速に進行する腎不全、浮腫、高血圧
  4. 血管炎による症状
    • 全身症状:発熱(38度以上、2週間以上)、体重減少(6か月以内に6kg以上)
    • 臓器症状:紫斑、多関節炎(痛)、上強膜炎、多発単神経炎、虚血性心疾患(狭心症、心筋梗塞)、消化管出血(吐血・下血)、胸膜炎など

(2)主要組織所見

  1. 上気道(E)、肺(L)、腎(K)の巨細胞を伴う壊死性肉芽腫性血管炎
  2. 免疫グロブリン沈着を伴わない壊死性半月体形成腎炎
  3. 小・細動脈の壊死性肉芽腫性血管炎

(3)主要検査所見

  • Proteinase 3-ANCA(PR3-ANCA)(蛍光抗体法でcytoplasmic pattern、C-ANCA)が高率に陽性を示す。

(4)判定

  • 確実(definite)
    1. 上気道(E)、肺(L)、腎(K)のそれぞれ1臓器を含め主要症状の3項目以上を示す例
    2. 上気道(E)、肺(L)、腎(K)、血管炎による主要症状の2項目以上および、主要組織所見1~3の1項目以上を示す例
    3. 上気道(E)、肺(L)、腎(K)、血管炎による主要症状の1項目以上および、主要組織所見1~3の1項目以上およびC(PR3)-ANCA陽性の例
  • 疑い(probable)
    1. 上気道(E)、肺(L)、腎(K)、血管炎による主要症状のうち2項目以上の症状を示す例
    2. 上気道(E)、肺(L)、腎(K)、血管炎による主要症状のいずれか1項目および、主要組織所見1~3の1項目を示す例
    3. 上気道(E)、肺(L)、腎(K)、血管炎による主要症状のいずれか1項目とC(PR3)-ANCA陽性を示す例

(5)参考となる検査所見

  1. 白血球、C反応性蛋白(CRP)の上昇
  2. 尿素窒素(BUN)、血清クレアチニンの上昇

(6)識別疾患

  1. E、Lのほかの原因による肉芽腫性疾患(サルコイドーシスなど)
  2. ほかの血管炎症候群(顕微鏡的多発血管炎好酸球性多発血管炎性肉芽腫症結節性多発動脈炎など)

2022年ACR/EULAR分類基準

臨床上、中小型血管炎と診断した際に適応し、5点以上でGPAと分類する。

(1)症候

  • 血性鼻汁、鼻腔内潰瘍・痂皮、鼻粘膜うっ血、鼻閉、鼻中隔穿孔:+3点
  • 鼻・鼻軟骨炎、嗄声、気管支内病変、鞍鼻:+2点
  • 伝導性または感音性難聴:+1点

(2)検査・画像・生検

  • cANCAまたはPR3-ANCA陽性:+5点
  • 胸部画像検査:肺結節、腫瘤、空洞病変:+2点
  • 生検:肉芽腫、血管外肉芽腫性炎症、巨細胞:+2点
  • 鼻・副鼻腔炎、浸潤影、液体貯留、乳突炎:+1点
  • Pauci-immune型糸球体腎炎:+1点
  • pANCAまたはMPO-ANCA陽性:-1点
  • 血液好酸球数≧1000/μL:-4点

治療

治療は大きく2つの段階があります。まず病気の勢いを抑える寛解導入療法と、病気の勢いの落ち着いた状態を保つ寛解維持療法です。使用する治療薬剤は全身の炎症の程度や、腎炎の有無・重症度によって変わります。 炎症を抑える作用のある副腎皮質ステロイド薬や、シクロフォスファミド(商品名:エンドキサン®)やアザチオプリン(商品名:イムラン®、アザニン®)などの免疫抑制薬、そして生物学的製剤(リツキシマブ(商品名:リツキサン®))などが使われます。また、国際共同第III相ADVOCATE試験によってステロイド漸減投与群に対する優越性が示され、アバコパン(商品名:タブネオス®)が承認され、重症例や難治例については併用することも可能になりました。ステロイド用量を検討したPEXIVAS試験・LoVAS試験の結果、診断後速やかに減量する治療プロトコルも推奨されるようになりました。診断後速やかに治療が開始され、症状が改善すれば約3~6か月で寛解に至ることが期待できますが、再度病気の勢いが悪くなる(再燃する)こともあり、維持療法を少なくとも1~2年間は継続します。

生活上の注意

多発血管炎性肉芽腫症で治療されている患者さんはステロイド薬や免疫抑制薬を服用されている場合が多いため、感染症に弱い状態になることが多いです。したがって、手洗い・うがいなどを心掛け、ストレスのかからない生活を送り、風邪などひかぬようにしましょう。また、薬の飲み忘れや、自己判断で中断することは病気の再発につながる可能性もありますので必ず主治医の指示に従ってください。

慶應義塾大学病院での取り組み

慶應義塾大学病院では大学病院という特長を生かし、耳鼻科・眼科・口腔外科・呼吸器内科・呼吸器外科・腎臓内科・神経内科などの他科と密に連携をとりながら診療しています。リウマチ・膠原病内科には本疾患の難治例の治療実績が多くあり、当院では血管炎症候群の早期診断と早期治療を心掛け、病気の寛解を目指しています。

さらに詳しく知りたい方へ

文責: リウマチ・膠原病内科外部リンク
最終更新日:2023年6月7日

▲ページトップへ

膠原病と免疫の病気

慶應義塾HOME | 慶應義塾大学病院