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ホーム > 病気を知る > 脳・脊髄・神経の病気 > 脳血管障害 > 脳動脈瘤

脳動脈瘤

のうどうみゃくりゅう

概要

脳動脈瘤(のうどうみゃくりゅう)とは、脳動脈の中でも脳底部を走行する直径1~6mm程度の血管にできた、コブのように、あるいは紡錘形にふくれた部分のことをいいます。代表的な発生部位として中大脳動脈、内頚動脈、前交通動脈、脳底動脈などがあり、血管が枝分かれする場所によく出来ます。2mm程度の小さいものから25mm以上の大きなものまで様々ですが、大部分は10mm未満です。脳動脈瘤ができる原因は明らかではありませんが、高血圧、喫煙、動脈硬化、加齢といった後天的要因や、家族性といった先天的な要因が関わっているようです。また動静脈シャント疾患(動脈と静脈が正常の毛細血管を介さず直接接続する疾患)やもやもや病や脳腫瘍など頭蓋内の血行動態に影響を与える病気において血流の増加により動脈瘤が形成されることもあります。外傷や感染により血管壁が損傷することで動脈瘤が形成されることもあります。

図1

症状

脳動脈瘤は、人口の2~6%に見つかりますが、無症状のことが多く、脳ドックなどでMRI検査を受けて初めて見つかる場合がほとんどです。しかし、脳動脈瘤で最も問題になるのは、動脈瘤が破裂し、出血を起こす可能性があることです。この状態をくも膜下出血といいますが、約半数は即死あるいは昏睡状態におちいり、辛うじて病院に搬入されて最善の治療を受けたとしても、病前の状態で社会復帰可能なのは、約25 %に過ぎない恐ろしい病気です。破裂脳動脈瘤については、くも膜下出血の箇所で解説します。

まれに未破裂脳動脈瘤が脳神経を圧迫して脳神経麻痺を来すこともあります。内頸動脈瘤が動眼神経を圧迫すると、物が二重に見える、まぶたが閉じて開かない、といった症状が出ますし、視神経を圧迫すれば、視力や視野障害が生じます。神経症状を伴う脳動脈瘤は、サイズも大きいものが多く、破裂の前兆であると考えて、くも膜下出血に準じた治療が必要になります。

診断

脳ドックで行われるのは主にMR 血管撮影(MRA:エムアールエー)です。造影剤やカテーテルを使わずに脳血管を観察できる検査法です。ただし、次に解説する脳血管撮影や CT 血管撮影に比べると描出能がやや劣る場合があり、脳動脈瘤の有無(スクリーニング)や経過観察に用いられることが主な目的になります。

CT 血管撮影(CTA:シーティーエー)は、静脈内に造影剤を急速注入しながら通常の CT検査を行うものです。静脈内に注入された造影剤が心臓を通って脳の動脈へ到達するので、カテーテルを動脈内に挿入しなくても、脳動脈の情報を集めて画像にできる方法です。造影剤によって正確な血管の形を知ることが出来るため、動脈瘤のサイズや形の変化を細かく捉えることが可能です。また、病変と頭蓋骨の関係も分かるため、手術に必要な情報も得られます(図2)。

脳血管撮影は、カテーテルを太ももの動脈から脳動脈の近くまで誘導して造影剤を注入し、脳血管の状態を調べる検査です。脳血管の中を流れていく造影剤を動脈から静脈まで連続して観察することが出来るので、血管の形だけではなく、血液の流れ方の情報も得られる大変に有用な検査方法です。ただし、造影剤による副作用の可能性に加え、カテーテルによって血管の壁が傷ついたり閉塞したりした場合には脳梗塞を生じる可能性があり、検査後の経過を観察するためにも、当院では入院していただいた上で検査を行っています。

図2

治療

脳動脈瘤が発見された場合、治療可能な薬剤はないので、治療方針として経過観察を行うか、手術的治療(開頭手術あるいはカテーテル治療)を行うか、どちらかを選ぶ必要があります。手術的治療を行わなければならない脳動脈瘤は、破裂脳動脈瘤とすでに圧迫などによって神経症状が出てしまっている脳動脈瘤です。

一方、明らかな症状がない未破裂脳動脈瘤の治療方針は、一概に論じることが出来ません。脳動脈瘤が破裂した場合は死亡したり、重い後遺症が生じたりする可能性は決して低くはなく無視できません。しかし一方、どのような治療にも合併症の危険性がありますから、まだ症状が出ていない、あるいは破裂していない脳動脈瘤の治療方針は、慎重に決めざるを得ません。すべての脳動脈瘤が破裂するわけではありません。偶然発見された脳動脈瘤を放置したならばどうなるのかを知ることが重要なのです。

図3

1998年に北米から、小型未破裂脳動脈瘤の年間破裂率は0.05%という報告がなされました。この数字は当時マスコミなどでセンセーショナルに扱われましたが、日本脳神経外科学会が厚生労働省の研究事業として行った日本未破裂脳動脈瘤悉皆(しっかい)調査の中間報告では、年間破裂率は1%弱と前出の数字よりも高い数字が出ています。

破裂の危険が高いと考えられる脳動脈瘤の性質は、 1) 動脈瘤による症状がすでに出ている、2) くも膜下出血の既往がある、3) 経時的な画像診断により動脈瘤の形状や大きさが変化している、4) 最大径が大きい(10ミリ以上)、5) 動脈瘤の壁が不整に突出している(ブレブがある)、6) 前交通動脈瘤、7) 内頸動脈後交通動脈分岐部瘤、8)脳底動脈先端部動脈瘤、などです。患者さん側の要因としては  1) 女性、2) 70歳以上、3) 喫煙、4) 高血圧症、5) 家族性、などが関連するといわれています。

日本脳ドック学会では、70歳以下で動脈瘤の最大径が5mm前後よりも大きく、かつ外科的治療の妨げになる条件がない場合には、開頭手術あるいはカテーテル治療を勧めています。ことに10mm前後よりも大きい病変には外科的治療を強く勧めますが、3~4mmの病変、また70歳以上の場合にも動脈瘤の大きさ、形、部位、手術の危険性、患者さんの平均余命などを考慮して、個別に判断することを勧めています。(脳ドックのガイドライン外部リンク参照)

(1) 経過観察

  • 脳動脈瘤発見から約6か月以内に画像による脳動脈瘤の大きさ、形の変化などの形態的な観察を行います。
  • 画像検査で形態的な変化がある場合は手術的治療が考慮されます。変化がない場合は、その後少なくとも1年間隔で経過観察を行います。
  • 脳動脈瘤破裂の危険因子である高血圧の治療と禁煙を徹底していただきます。

(2) 開頭クリッピング術

  • 全身麻酔で頭の皮膚を切り、頭蓋骨を開き、手術顕微鏡を使って脳動脈瘤に到達し、正常な血管と脳動脈瘤の境界を、金属製の動脈瘤クリップで挟み込んで、脳動脈瘤に血流が入らないようにする手術です。
  • 脳動脈瘤治療の一般的な治療法のひとつです。
  • 病変を直接眼で見て治療が出来るので、確実性が高いと言われています。
  • 合併症として、脳内出血、血管閉塞による脳梗塞、手術中の脳・脳神経の損傷、感染症、痙攣や美容上の問題などがあります。個々の症例で異なりますが、重い合併症は5~10 %程度、死亡する可能性は1 %程度です。

(3) 血管内手術

  • 局所麻酔で細いカテーテル(マイクロカテーテル)を脳動脈瘤の中まで誘導し、白金製のコイルと呼ばれる細いひものようなものを瘤内部に充填し脳動脈瘤の内側から詰めてしまうことで、脳動脈瘤に血液が入らないようにする手術です。
  • クリッピング手術に比べて患者さんへの負担は少ない治療法なので、高齢者や全身合併症のある患者さんにも行える場合があります。
  • 脳動脈瘤の部位が、開頭手術では到達しにくい場合には対象となります。
  • 動脈瘤の入口部分が非常に広い場合には、そのままコイルを瘤内に入れると親動脈にコイルが逸脱し、親動脈が閉塞・狭窄する危険性があります。その場合にはバルーンと呼ばれる風船を使用したり、金属でできたステントと呼ばれるデバイスを親動脈に留置しコイルの逸脱を防ぎながらコイルを充填します。
  • 動脈瘤の完全閉塞率は80~95 %であり、治療後も定期的な経過観察が必要です。
  • 合併症として、動脈瘤破裂、血管閉塞による脳梗塞、出血性合併症の問題などがあります。重い合併症の発生率は、開頭手術と大きく変わりません。
  • 通常の血管内手術では治療が難しい巨大動脈瘤などに対してフロー大バーターステント(Flow diverter stent)と呼ばれる特殊なステントを親動脈に留置し瘤内へ血流を減少させ、動脈瘤の血栓化を促すことで治療が最近始まりました。治療法が導入されてから日が浅いため既存の開頭クリッピング術やコイル塞栓術などの治療法と十分な比較・検討が必要です。
  • 上記のように血管内治療には様々な方法がありますが、動脈瘤の形やサイズによってはいずれの方法でも血管内治療が適さず、開頭クリッピング術など他の治療法が優れている場合があります。
脳血管内治療の様子

脳血管内治療の様子

慶應義塾大学病院での取り組み

  • クリッピング手術、血管内治療それぞれの手術に対して経験豊富な脳外科医がいますので、難易度の高い動脈瘤に対してもそれぞれの動脈瘤に対して最も適した治療を行うことができます。
  • 手術の安全性と確実性を向上させるため、手術中に脳機能を確認するモニター、超音波ドップラーや術中血管撮影を用いた脳血流および動脈瘤消失の確認、神経内視鏡による動脈瘤の奥や裏など顕微鏡では見えない部位の確認、などを行っています。
  • 動脈瘤を処置するために頭蓋骨底部の骨を削る必要がある症例では、頭蓋底外科手術と血管内治療の技術を駆使して、安全かつ的確な手術を行っています。
  • 巨大脳動脈瘤など、治療が困難な動脈瘤に対しても、バイパス手術を併用した手術的治療法を行っています。

さらに詳しく知りたい方へ

文責: 脳神経外科外部リンク
最終更新日:2021年11月17日

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