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膀胱がん

ぼうこうがん

概要

図

膀胱とは

膀胱は下腹部に位置する臓器で、尿を貯めることと尿を排出する役割があります。腎臓でつくられた尿が腎盂(じんう)、尿管を通って膀胱に貯められます。膀胱の壁は筋肉組織でできていて、それが膀胱を大きくしたり小さくしたりすることを可能にしています。尿がある一定以上に貯まると尿意が生じ、膀胱の筋肉が収縮することにより排尿します。

膀胱がんとは

膀胱の内側は尿路上皮という細胞で被われており、この細胞から生じる悪性腫瘍を膀胱がんといいます。膀胱の内側にとどまっているがんは筋層非浸潤性膀胱がんと呼ばれます(後述)。尿路上皮細胞から発生するがんは膀胱の内側から拡がり、膀胱の筋層や周囲の脂肪組織、または隣接した器官、リンパ節まで浸潤することもあります。 これらは浸潤性膀胱がんと呼ばれます。

膀胱がんの疫学

膀胱がんは人口10万人あたり毎年6~8人発生しますが、年々若干増加傾向にあります。50歳以上の方に好発し、男性が女性の2~3倍の頻度で発生します。尿路上皮の遺伝子の変化によりがん化すると考えられています。また喫煙者は非喫煙者に比べて4倍程度発生率が高いことが知られています。特殊な例として、ある種の染料や化学薬品、寄生虫により誘発されることも報告されています。

症状

血尿が膀胱がんの初発症状としては、一番多くみられる症状です。定期健康診断で行う尿の顕微鏡検査で赤血球が検出され、尿に血が混じっていることがわかる場合もありますが、肉眼でわかるほど尿が赤くなることもあります。また頻回の排尿や排尿痛を生じることもありますが、かなり進行するまで症状がないこともあります。膀胱がんが拡がり尿管口(尿管と膀胱の移行部)を塞ぐことで、腎臓でつくられた尿が膀胱に流れてこなくなり、尿管、腎盂が拡張して背部に痛みや違和感を覚えることもあります。これらの症状が一つでもみられた際には医師の診察を勧めます。

診断

症状、状況に応じて以下の検査を組み合わせて診断します。

問診

血尿や排尿症状の有無について調べます。また患者さんの生活習慣や職業、過去の疾患、治療等の病歴についても調べます。

尿検査

尿の色を確認し、糖、蛋白、赤血球、白血球といった成分を調べる検査です。

尿細胞診

尿中に異常な細胞があるかどうか顕微鏡下に尿を調べます。

超音波検査(US)

体表より超音波にて内臓(腎、膀胱)に異常がないかを調べます。この検査は、膀胱に尿を溜めた状態で行います。器具をお腹にあてるだけですので、痛みを伴う検査ではありません。

コンピューター断層撮影法(CT)

体内の詳細な像を連続的に撮影し、体の断面像を得ます。像はX線撮影装置と連動したコンピューターにより作られます。造影剤を静脈内に注入すると、臓器や組織がよりはっきり示され、他の臓器への転移の有無も診断することができます。当院ではマルチスライスCTというより精度の高いCT画像検査を実施しています。

膀胱鏡検査

膀胱内の病変の有無を確認するために、膀胱鏡を尿道より挿入して直接膀胱内を観察します。膀胱鏡は細くライトの付いたチューブのような器具で観察できるカメラも付いています。当院では軟性膀胱鏡を用いて検査を行います。軟性膀胱鏡は従来の硬性膀胱鏡と比べ柔らかく細いため、検査中の疼痛、検査後の血尿が少ないなど患者さんから好評をいただいております。

核磁気共鳴イメージング(MRI)

磁石、電波、コンピューターを用いて体内の詳細な像を連続的に撮影します。術前に膀胱腫瘍の浸潤の程度を診断するのに役立てています。当院では MR urographyというより精度の高い検査を実施しています。

膀胱がんの場合、同じ尿路上皮で被われている腎盂、尿管にも同様のがんが同時に見つかることがありますので、造影剤を使用したCT検査において尿路に造影剤が排泄されるタイミングで撮影することにより腎盂・尿管の病変の有無をチェックする必要があります。

経尿道的膀胱腫瘍切除術(TUR-BT):確定診断を兼ねて

膀胱内にできる腫瘍の9割以上はがん(悪性腫瘍)です。膀胱内に腫瘍がみられる場合には入院の上、経尿道的膀胱腫瘍切除術(TUR-BT)という手術を行います。麻酔下に膀胱鏡を尿道から膀胱内に挿入し、先端に小さな輪のついた器具で腫瘍を切除します。この手術は治療手段であると同時に、確定診断・腫瘍の根の深さを確認する意味でも重要です。

図

切除した腫瘍を顕微鏡で調べ、組織構築(がんの種類)、異型度(がん細胞の顔つき、悪性度)、深達度(根の深さ)が判明します。組織構築から尿路上皮がん(このがんが大部分)、扁平上皮がん、腺がんなどに分類されます。異型度(grading)はlow gradeとhigh gradeの2段階もしくは、G1からG3までの3段階で評価され、high gradeないしG3が最も細胞異型が強く、いわゆる悪性度が高い所見です。深達度はTa(腫瘍が粘膜にとどまっているもの)、T1(粘膜の下の層、粘膜固有層に達しているもの)、T2(筋層に及んでいるもの)、T3(膀胱の周囲の脂肪にまで及んでいるもの)、T4(隣の臓器に腫瘍が及んでいるもの)に分けられます(図1)。Ta、T1を筋層非浸潤性膀胱がん、T2以上を浸潤性膀胱がんと二つに分けることができます。

図1.膀胱がんの病期 (日本化薬株式会社 目で見る膀胱の病気 より)

図1.膀胱がんの病期 (日本化薬株式会社 目で見る膀胱の病気 より)

治療

筋層非浸潤性膀胱がん(TaまたはT1)の場合

筋層非浸潤性膀胱がん(Ta又はT1)の場合はTUR-BTでがんを完全に取り除くことができます。しかし、術後新たにがんが発生することが比較的よくあり、まれに再発時に病期進展(腫瘍がより深くに浸潤してしまうこと)をおこすこともあります。TUR-BTでがんを完全に取り除いた後で、化学療法薬またはBCG(体の免疫系を活性化させる物質)を繰り返し膀胱に注入することにより、再発率を減少させることができます。膀胱内注入療法は週1回6~8週続けて行われます。再発のリスクが高い場合はその後も維持療法として3~6ヶ月毎に3週程度BCG注入を行うこともあります。またBCG注入は膀胱上皮内がん(CIS)という特殊な病態の治療にも有効であることが知られています。

膀胱上皮内がん(CIS)とは膀胱の表面をはうように発育するタイプで隆起した病変は生じませんが、がん細胞の悪性度は高いがんです。他臓器の上皮内がんと異なり、膀胱の上皮内がんは放置すると早期に浸潤がんとなり転移することがあります。

筋層浸潤性膀胱がん(T2以上)の場合

筋層まで広がったがんは、TUR-BTで完全に取り除くことはできません。この場合には、膀胱および骨盤内のリンパ節を取り除く根治的膀胱全摘術を行う必要があります。この手術は筋層非浸潤性膀胱がんでも再発を頻回に繰り返す場合や、膀胱上皮内がん(CIS)でBCGの治療が効果を示さないものにも行われます。男性では、前立腺と精嚢も摘出し、女性では、場合により子宮、卵巣および腟の一部が摘出されます。男性では術後に勃起障害になりますが、術式によってはそれをある程度防ぐことは可能です。ただし、前立腺、精嚢をとってしまうため射精はできなくなります。また、がんを完全に摘出することができない場合でも、がんにより生じる激しい血尿や痛み等の泌尿器系症状を緩和するために膀胱のみを摘出する手術が行われることもあります。手術の効果を向上させるため、手術前後に化学療法を併用することもあります。

尿路変向術

膀胱を取り除く場合は、尿を排出する手段(尿路変向)が必要です。回腸導管という方法では、腸管で形成された回腸ループという通路を経て、腹壁に設けた開口部から尿を排出させる方法を取ります。この方法は古くから行われているオーソドックスな方法で標準的な尿路変向術です。尿は開口部より絶えず流出するため、体の外に集尿袋を装着する必要があります。尿管皮膚瘻という方法では、腎臓と膀胱の間の尿の通り道である尿管を、直接皮膚に開口させます。腸管を切って利用するという操作がないため、腸管合併症を含めた体への負担は少なくなります。しかし、尿管だけでは腹壁を貫く部分で外から圧排されやすく、尿の通過性を維持するために尿管ステントという管を留置し定期的に交換する必要が生じる場合があります。体の外に集尿袋を装着する必要がある点は回腸導管と同様です。その他、自排尿型代用膀胱形成術もあります。こちらは尿をためる膀胱の代わりになる袋(パウチ)を腸管(主に回腸)でつくり、そのパウチを尿管と尿道につなぎます。この術式の場合、尿道を残すことになるため、尿道にがんが再発する危険性が高い場合は行いません。患者さんは、骨盤の筋肉をゆるめて腹圧をかけることによって排尿するやり方を練習します。この方法をマスターすれば、通常とほぼ同等な排尿が可能となります。日中は尿を漏らすことはほとんどありませんが、夜間は失禁が起こることもあります。これらの術式のうちどの方法を選択するかは、がんの状態、患者さんの体力や希望によって十分検討する必要があります。

これら尿路変向術に際し、当院では皮膚・排泄・ケア認定看護師が重要な働きを担います。皮膚・排泄・ケア認定看護師とは人工肛門や排尿状態の管理、教育を専門的に行う看護師のことです。当院には専門看護師がいますので、外来受診の際に同時に診療受診可能です。

放射線療法

患者さんの希望、年齢および全身状態によっては、放射線療法や、放射線療法と化学療法を組み合わせた治療法も選択肢としてあります。放射線治療はがんを治療するため、またはがんにより生じる症状を和らげるために行われます。副作用を抑え、効果を最大限発揮するために、少量の放射線を2ヶ月程毎日照射する方法が一般的です。放射線の副作用で膀胱萎縮や出血、直腸出血、皮膚のただれなどが生じることがあります。

化学療法

膀胱がんが他の臓器に転移している場合には手術での完全な治癒は不可能です。膀胱がんはリンパ節、肺、肝、骨などに転移します。他の臓器に転移したがんは、化学療法で治療します。化学療法では複数の薬を組み合わせて用いる多剤併用療法が行われます。治療中の副作用として、吐き気、食欲不振、白血球減少、血小板減少、貧血、口内炎などがおきます。近年、パクリタキセルやジェムシタビンといった抗がん剤を含む治療メニューを用いることにより、従来の抗がん剤の組合せより副作用を抑えつつ転移巣の治療が行えるようになってきております。

進行が遅い筋層非浸潤性膀胱がんの場合は、膀胱がんで死亡するリスクは5%未満ですが、がんが筋肉に浸潤した場合の5年生存率はやや悪く、死亡のリスクは20~40%になるとされています。このような場合、化学療法で生存率が上がることもあります。がんが筋層を越えて広がっている場合、5年生存率は25~60%です。また、がんがリンパ節やその他の部位に転移している場合、5年生存率は20~45%です。ただしこれらの数値はたくさんの患者さんの平均的な統計値ですので、あくまで参考程度になるもので、個々の患者さんにあてはまるものではありません。

文責: 泌尿器科外部リンク
最終更新日:2017年3月17日

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