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変形性股関節症

へんけいせいこかんせつしょう

概要

股関節の軟骨が擦り減ることにより、疼痛、可動域の低下、跛行(はこう:足をひきずること)、日常生活動作の制限が生じる疾患です。原因によって、一次性と二次性に大別されます。一次性とは、原因不明の関節症で、加齢変化、体重増加、肉体労働、スポーツなどによる過負荷が要因と考えられています。

二次性は、先天異常や後天的な疾患に引き続いて発症する関節症で、日本では発育性股関節形成不全(大腿骨の骨頭を覆う屋根の作りが不足している状態)に起因するものが大部分を占めています。その他の二次性変形性股関節症を生じうる疾患としては、大腿骨頭壊死症、化膿性股関節炎、ペルテス病(小児期に起こる大腿骨への血流障害)、大腿骨頭すべり症(大腿骨頭の成長軟骨でずれが生じる病態)、骨系統疾患、股関節脱臼骨折などの外傷、そして寛骨臼(かんこつきゅう)大腿骨インピンジメント(Femoroacetabular impingement)などがあります。

症状

症状の多くは疼痛で、起き上がる時や歩行時に鼠径部痛(そけいぶつう)や大腿部痛を自覚します。跛行は早期にはほとんど認められませんが、進行例では疼痛、脚長差、筋力低下により徐々に顕著になってきます。

診断

診断は、上記の症状がある患者さんに対して、単純X線写真(両股関節正面およびラウエンシュタイン像(側面から見た像))を撮影して確定します。単純X線写真では、寛骨臼形成不全や亜脱臼の有無、関節裂隙(かんせつれつげき:関節のすきま)の狭小化、軟骨下骨の硬化像、骨嚢胞(こつのうほう:骨の中に孔が空いた状態)、骨棘(こつきょく:生体反応で骨が増生した状態)形成の程度、そして寛骨臼と骨頭(こっとう)の適合性を評価します。

CE 角(骨頭の中心から臼蓋の辺縁がどの程度張り出しているかの指標:正常では25°以上)が10~12°以下の寛骨臼形成不全の症例では、関節症性変化が進行しやすいとされています。変形性股関節症の病期分類は、前期・初期・進行期・末期の4段階で評価します。前期は寛骨臼・骨頭の形態変化は認めますが関節裂隙の狭小がある段階で、初期は寛骨臼の骨硬化や軽度の骨棘形成があり、関節裂隙の部分的な狭小が認められる段階です。進行期になると、臼蓋の骨硬化、骨棘形成、臼底の増殖性変化、骨頭や臼蓋の骨嚢胞を認め、関節裂隙の狭小が進行して部分的に軟骨が消失し、軟骨下骨が接触します(図1)。さらに末期になると、著明な骨棘形成、臼底の肥厚、広範な骨硬化、巨大な骨嚢胞、関節裂隙の広範な消失を認めるようになります。

図1

図1.変形性股関節症の単純X線像

両側の股関節で関節の隙間が消失しており、特に右側では寛骨臼側の関節面と骨頭が接触しています。

治療

治療は、保存療法と手術療法に大きく分けられます。後者の手術療法には骨切り手術、人工股関節置換術(人工関節に置き換えることによって痛みを取る手術)があります。治療方針の決定の際には、患者さんの年齢や関節症の病期などを考慮する必要があります。

  1. 保存療法
    まず、股関節にかかる負荷を減らす生活指導を行います。飛び跳ねる運動を避け、体重を減らしたり、痛みのある方と反対側に杖をついたりします。さらに片脚起立の際に骨盤を支える外転筋や大腿四頭筋の筋力訓練を指導します。
    プール歩行は、浮力が働くため股関節への負荷を減らしながら筋力訓練ができるので、特に推奨しています。疼痛が高度な場合は、非ステロイド性消炎鎮痛剤の内服や外用を処方します。定期的にX線評価を行い、病期の進行がみられれば手術療法を考慮します。進行期になると関節温存手術の適応が限られてきますので、手術時期を逸することのないようにすることが大切です。
  2. 手術療法
    骨切り術: 骨盤骨切り術(寛骨臼回転骨切り術(RAO)、キアリ骨盤骨切り術、臼蓋形成術、寛骨臼回転移動術(CPO)と大腿骨骨切り術(内反骨切り術、外反骨切り術など)があります。当科では、これまで個々の症例に応じて、寛骨臼形成不全に伴う荷重面積の減少などを改善させる目的で、寛骨臼回転骨切り術(骨盤の骨を関節ごと丸くくり抜き、関節の向きを変える方法)やキアリ骨盤骨切り術(骨盤を切って下の骨を押し込んでずらすことによって新しい屋根を作る方法)を行い、良好な成績が得られたことを報告してきました。寛骨臼回転骨切り術は、前期・初期股関節症で股関節外転位での撮影で関節の適合性が良好な50歳以下の症例に適しています。この手術の優れた点は、術後も大腿骨頭の荷重部が関節軟骨で覆われていることですが、社会復帰までに時間がかかるのが短所です。キアリ骨盤骨切り術は、進行期・末期股関節症で大腿骨頭の形状が扁平である症例に適しています。キアリ骨盤骨切り術の後に骨頭の内方化が得られること、適合性の改善が得られる点が優れていますが、新しい寛骨臼と骨頭の間に介在するのが関節包から軟骨化生した線維軟骨であることが短所です。進行期・末期に対する関節温存手術は、人工関節をするまでの時間かせぎの意味合いが強いといえます。
    人工股関節置換術: 50歳以上の進行期・末期の症例に対して行われる関節を取り替える手術です(図2)。人工関節置換術の後療法は術翌日か2日目に全荷重を開始しますので、早期の社会復帰が可能です。
    人工股関節の耐用年数は、表面コーティングの改良、人工の軟骨の役割を果たすポリエチレンの機械特性の向上(ガンマー照射によるクロスリンクなど)により以前に比べると、著明に長くなってきています。それでも再置換術の可能性があること、人工物なので細菌感染を生じたときには再手術を受ける必要性があること、脱臼(関節がはずれること)や血栓症の発生リスクがあることなどを十分に認識する必要があります。
図2

図2.人工股関節置換術後の単純X線

大腿骨の中に人工物(ステム)が挿入され、寛骨臼には受け皿となる部品(ソケット)が固定されている

慶應義塾大学病院での取り組み

  • 当院では患者さんの体への負担を最小限に抑える目的でMIS (minimally invasive surgery)人工股関節置換術を、仰臥位で行っています。この手術では、手術創は約8~10cmで、筋肉の間を分けて股関節に進入するため、筋肉は一切切り離しません。このMIS手術の長所は、筋肉を傷めないため、術後の痛みが少なく、筋力の回復が早期に期待でき、リハビリ・入院期間の短縮、早期社会復帰が可能なことです。
  • 両側とも高度に進行した変形性股関節症の患者さんには、両側同時人工股関節全置換術を行う場合があります。この手術は両側とも早期の股関節機能の回復が期待でき、1度の入院・手術で治療可能であることが長所です。
  • 人工股関節置換術において、臼蓋ソケットの設置角度が不良であることは、人工の軟骨の役割を果たすポリエチレンの磨耗を増やすだけでなく、人工関節がはずれること(脱臼)のリスクが高くなります。そこでそれぞれの患者さんの股関節の形態を術前に評価したうえで、より正確なインプラント設置を目指して手術を行っています。
  • 人工股関節置換術の合併症の対策として、70歳未満の患者さんには希望に応じて自己血貯血を行い、同種血輸血を回避しています。
  • 静脈血栓塞栓症に対しては弾性ストッキング着用、間欠的静脈圧迫装置を装着すること、さらにD-ダイマーや可溶性フィブリン(SF)などの血栓マーカーをスクリーニングすることや造影剤を用いたCTを行うことにより血栓の有無を確認してからリハビリを開始しています。さらに予防的抗凝固療法を行い、リスクの軽減に努めています。
  • 高度先進医療を行う特定機能病院である慶應義塾大学病院では、多くの人工股関節置換術を行っております。具体的な手術件数については整形外科学教室のWebサイト 外部リンクをご参照ください。合併症を有する患者さんの手術の場合には、他の診療科との綿密な連携により周術期の合併症のリスクを減らして、より安全に最新の方法で手術が行える環境を提供しています。

文責: 整形外科外部リンク
最終更新日:2019年1月31日

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