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結核症

けっかくしょう

概要

疫学:結核症は結核菌による感染症です。かつて国民病と言われた結核も我が国では次第に減っていますが、先進国では最も罹患率が高いです。学校や医療機関、高齢者施設などでの集団感染や薬の効かない結核菌の出現など問題はたくさんあります。結核は年間に約2万5千人が発病する我が国では、まだまだ一般的な疾患です。

感染と発病:結核菌は、肺結核の患者さんが咳をするときに発生するしぶきに含まれ、周りに飛び散ります。しぶきの水分が蒸発すると結核菌は空中を漂うようになります(図1)。息を吸い込むときに菌がいっしょに吸い込まれ、肺の一番奥の細胞に入り込みます。これを感染と言います。感染後85~90%の人では結核菌は体内で生き続けますが、生涯にわたり結核菌は増えません。そのため何事もなく経過(潜在感染)します。一方、10~15%の人では、結核菌が増えて病巣がつくられ、症状がでます。これを発病と呼びます。いちばん病巣ができやすいのは肺ですが(肺結核)、肺以外にもリンパ節や骨など体中に病巣を作ります(肺外結核)。

感染対策:肺結核の患者さんは通常のマスク(N95マスクと呼ばれる微粒子の吸入を防ぐことができる高性能のマスクである必要はありません)を付け、しぶきの飛散を防ぐことが重要です。しかし、感染を防ぐには"N95マスク"の着用が必要です。

図1.顕微鏡で見た抗酸菌

図1.顕微鏡で見た抗酸菌

図2

28歳の男性
検診の胸部レントゲン写真で右肺の上に影を指摘されました。受診を勧められましたが、自覚症状はなく、約2か月経過しました。数日前より咳と血痰を認めるようになり、当院を受診しました。右上の影が大きくなっています。大きくなった病巣が気管支とつながり、病巣の中の成分が排出され、空洞になっています。肺結核では肺の上の方に影がでることが多いとされています。喀痰の顕微鏡検査で結核菌を認め、直ちに保健所に発生届けを提出し、まわりに感染させる可能性があるため入院となりました。左側のレントゲン写真の時には咳は無く、通院治療できたかもしれません。

表1.結核発病の危険因子

以下のような病気を合併していたり、治療を受けているひとが結核に感染すると発病しやすくなります。

  • 糖尿病
  • 悪性腫瘍の合併(悪性リンパ腫など)
  • 人工透析
  • 免疫抑制療法(副腎皮質ステロイド、サイクロスポリン、レミケード®などの使用)
  • 胃切除後
  • 塵肺
  • HIV感染

症状

結核症に特徴的な症状はありませんが、全身症状としては、全身倦怠感、発熱、体重減少、寝汗などがあります。肺結核になっても初期には咳や痰もなく、周りにうつすことはありませんが、発見が遅れ咳が出始めると周りに感染させるようになります。現在日本の結核の約半数はこの状態になってから発見されています。発病をしやすい患者さんの背景を(表1)に示します。

診断

感染している(体の中に結核菌がいる)か否かを調べる検査と発病(結核菌が増えて症状を出している)を調べる検査があります。
1)感染診断の検査: インターフェロンγ遊離試験(IGRA)が用いられます。これはツベルクリン反応検査よりも正確に結核感染を調べる方法で、1回の採血で済むため患者さんの負担も減りました。
2)発病の検査:結核菌を見つけることが重要です。肺に一番病巣ができやすいので、胸部レントゲン胸部CTで肺結核を疑う"かげ"があれば、喀痰を調べます。痰が無いときには食塩水を吸入して痰を採取したり(誘発喀痰)、朝食前に胃液を採って(胃液検査)結核菌を探します。場合によっては気管支鏡検査を行います。

肺以外に病変がある時(肺外結核)には局所麻酔や、全身麻酔をして病変部を検査(胸水、脳脊髄液や組織を採取)し結核菌を探します。それには、まず顕微鏡検査で結核菌を探します(塗抹検査:図1)。菌が見えても直ぐに結核菌と特定することはできませんが、遺伝子検査で数日中には結核菌かどうかが分かります。特に顕微鏡検査で痰の中に結核菌が見つかれば、まわりにうつす可能性(感染性)があるので、保健所の判断で入院が勧告されます。次に培養を行い、生きた結核菌を探します。結核菌はゆっくり発育するため2か月間観察します。結核菌が見つかれば、薬が効く菌かどうかを調べます(感受性試験)。適切な治療を行うために大切な検査です。

治療

発病者の治療:結核菌が増えて病巣を作っている場合には治療が必要です。肺結核の場合、喀痰中に顕微鏡で結核菌が見つかれば(図1)周りにうつす可能性があるので入院して治療を始めますが、見つからなければ外来で治療可能です。

治療にはイソニアジド(略してINH)、リファンピシン(略してRFP)、ピラジナミド(略してPZA)の3種類の薬にエタンブトール(略してEB)あるいはストレプトマイシン(略してSM:筋肉注射)を含む4種類の抗結核薬を2か月間投与し、その後はPZAを終了し、INHとRFPを含む治療を4か月間続けます。治療期間を6か月より短くはできませんが、薬が効く菌であれば、服薬を確実に続ければ治ります。また、以前に結核の治療をうけたことがあったり、副作用で治療を中断したり、糖尿病を合併していると治療期間が長くなる場合があります。結核の治療で最も重要なことは薬を指示通り確実に服用することです。WHOは"患者さんが薬を飲み込むことを目で確認すること"を服薬の支援策として世界に広めています。当院でも入院中は看護師が見守る中で服薬を行います。

治療後の経過観察と再発:治療が順調に終了しても1~2%は再発するので、治療後2年間は経過を観察します。主治医や患者さんに保健所から問い合わせがくることがあります。

感染症法下での管理:結核を診断した医師は直ちに最寄りの保健所に届け出る義務があります。保健所が感染性があると判断した場合には入院が勧告されます。結核でなかったり、結核でも感染性がなくなれば退院できます。感染性の結核と診断されれば、保健所が患者さんのまわりに結核の患者さんがいないか、あるいは結核がうつっていないかを調べます。結核医療費には公費負担制度があり、病状と所得に応じて入院や外来医療費の補助を受けられます。療養支援室で申請手続きをお手伝いします。感染性の結核患者さんと接触歴があり、結核感染が明らかな場合には将来の発病を防ぐために抗結核薬の一部(多くはINH単剤)を6~9か月内服することがあります。しっかりと薬をのめば発病を半分に減らすことができます。

生活上の注意

全身状態の悪い急性期を除けば運動をしてもかまいません。かえって安静をとりすぎるとむしろ体力が低下します。規則正しい生活とバランスの良い食事を心がけましょう。飲酒は薬剤の副作用を増す可能性があり、勧められません。糖尿病を合併している場合には、糖尿病の厳重なコントロールが必須です。感染性がなければ就学、就業への制限はありませんが、主治医と相談しながら復学、復職について決めましょう。(表2)に結核症の患者さんに注意いただきたい点をまとめました。

表2.結核症の患者さんの注意点

  • 咳は最も感染性と関係する症状です。必ずマスクを着用します。
  • 法律(感染症法)管理が義務付けられていますので、必ず保健所と連携して治療を進めます。医療機関の判断だけでは治療できません。職場の同僚や家族に感染しているかもしれませんが、その管理、対応も保健所の責任で行います。
  • 治療が開始されたら、薬を指示通り、確実に内服することが重要です。中途半端な治療は薬が効かない結核菌を生み出します。薬の効かない結核菌の治療は大変難しく、痰に菌がいる間は長期入院を要することもあります。
  • 肺結核では治療の効果を評価する最も重要な検査は喀痰検査です。レントゲン写真ではありません。
  • 薬を内服していれば、通常の日常生活を送れますが、副作用が出現した時には、通院の回数が増えたり、治療の期間が伸びます。
  • 治療が無事終了しても2年間は安心できません。主治医から通院終了と告げられるまで必ず通院しましょう。
  • 頻度は少ないですが、経過観察が終了してもまた新たに結核に感染することがあります。

慶應義塾大学病院での取り組み

今後、人口の高齢化や免疫抑制作用を有する新しい治療の普及などにより、結核を発病する患者さんの増加も予想されます。慶應義塾大学病院呼吸器内科外部リンクでは、トレーニングを積んだ専門性をもつ医師が、適切な検査、診断を行える体制を整えています。長引く咳や痰などの呼吸器症状がある患者さんはご相談ください。

さらに詳しく知りたい方へ

参考になるサイト

文責: 呼吸器内科外部リンク
最終更新日:2023年7月4日

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