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免疫機能がコレステロール調節機構を利用し炎症を収束させる仕組みを解明  高橋勇人、天谷雅行(皮膚科)

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研究の概要

私たちの体は、脳や神経を使って腕を動かしたり痛み・痒みを感じたりする神経系や、細胞が栄養素を利用したり、調節する代謝系、体を病原体など外敵から守る免疫系、血液が適切に体中に行き渡るための循環系など、様々なシステムから成り立っています。従来の生命科学研究はそれぞれのシステムの中で、詳細な仕組みが別々に研究されてきました。本研究では、別々のシステムをまたいで、免疫系が代謝系の中の脂質を代謝調節する機能を利用して、炎症を収束させる仕組みがあることを明らかにしました。

免疫細胞を含む全ての細胞において、脂質の一種であるコレステロールは細胞の活動に必須な物質です。細胞内のコレステロールが不足すると、コレステロールの合成が活発になり、濃度が適切に維持される仕組みがあります(図1)。この仕組みに重要な役割を果たす物質として、コレステロールとコレステロールが酸化されてできるオキシステロール(注1)があります。同じ仕組みは免疫細胞にもあると考えられています。

今回、私たちは免疫細胞の一つであるCD4陽性T細胞(注2)が、25-水酸化コレステロール(25OHC、注3)を分泌することを見つけました(図2)。25OHCはオキシステロールの一種です。分泌された25OHCは周囲の免疫細胞に作用し、コレステロールの濃度調節機構を介してコレステロール合成機能を弱め、コレステロールの枯渇状態を引き起こしました(図2)。その結果、炎症を引き起こす免疫細胞がその活動に必要なコレステロールを確保することができず、細胞死に陥ることで、炎症が収束することを明らかにしました(図3)。この基礎研究の成果は、炎症を伴う疾患の新しい治療法の開発につながる成果です。

図1 図2

図1
コレステロール合成能力は細胞内のコレステロールとオキシステロールの濃度によって調整がされており、細胞内コレステロールの濃度が適切に保たれている。

図2
(上)オキシステロールが細胞に作用するとオキシステロールが過剰であると判断され、コレステロール合成が止まる。オキシステロールが過剰であり続け得るため、コレステロール合成が開始されず、コレステロールが不足する結果、細胞が死滅する。(下)IL-27が作用したT細胞(ピンク色)はCh25h(緑)を作る。Ch25hは細胞内のコレステロールを25-水酸化コレステロール(25OHC、水色)に変換し、25OHCは細胞外に分泌される。25OHCの作用を受けた細胞(青色)はコレステロールが不足し死滅する。

図3

図3
(下)リンパ節から来たT細胞は、IL-27の作用を受けると皮膚の中でCh25hを作り、25OHCを分泌する。周囲にいる活性化したT細胞は死滅する一方で、活性化していないT細胞は死滅しない。(上)皮膚炎を起こしているT細胞は活性化しているが、25OHCの作用で死滅し、その結果、炎症が収束する。炎症と無関係のT細胞は、影響を受けずに残ると考えられる。

研究の背景

コレステロールは私達の細胞の活動に必要な構成要素です。コレステロールは体内の酵素によりオキシステロールに代謝されます。細胞内のコレステロールとオキシステロールの量が増えると、コレステロールの合成が止まり、細胞内コレステロール濃度が適正に保たれる仕組みが知られています(図1)。

一方、体内で生じた炎症は様々な仕組みで適切に収束されることで、組織に余計な損傷を与えることなく消えていきます。例えば感染症では、ウイルスや細菌などの病原体を排除するために炎症が生じますが、炎症を収束する適切な仕組みが存在するため、病原体をきちんと排除しながらも、適切なタイミングで炎症が落ち着き、組織は正常な状態に戻ります。インターロイキン-27(IL-27、注4)は、この炎症を収束させる機構の一つとして重要なサイトカインです。例えば、IL-27を欠失したマウスでは、感染症の際に、病原体を排除するために炎症が必要以上に生じて、その結果組織が不必要に損傷を受けることが知られています。しかし、このIL-27が炎症を収束させる仕組みは、完全には理解されていませんでした。

研究成果

本研究では、まず、IL-27がCD4陽性T細胞に作用すると、T細胞がコレステロール25-水酸化酵素(Ch25h)という酵素を作り、その代謝物である25-水酸化コレステロール(25OHC、オキシステロールの一種)を分泌することを示しました(図2)。次に、25OHCを活性化したCD4陽性T細胞に作用させると細胞が死滅しました。炎症と直接関係するT細胞は一般的に活性化しています。一方、活性化していないT細胞(すなわち炎症と無関係)ではこの作用は観察されませんでした(図3)。

次に、25OHCの作用を受け、死滅していくT細胞を調べると、細胞のコレステロール合成機能が著しく低下しており、T細胞がコレステロールを作り出すことができない状態にあることが分かりました。そこで、コレステロールを外から補充すると細胞の死滅を回避できたことから、25OHCによるT細胞の死滅は、細胞内のコレステロールが不足するために生じていることが分かりました。

次に、皮膚の表皮細胞を攻撃する自己反応性CD4陽性T細胞が皮膚炎を起こす動物モデルを用いて、生体内でのCh25hの機能を検証しました。この皮膚炎モデルでは皮膚に入り込んだT細胞がCh25hを作ることが確認されましたが、皮膚の所属リンパ節にいるT細胞では確認されませんでした。つまり、皮膚炎を起こしている場所にいるT細胞にCh25hが誘導されると考えられました(図3)。次に、このT細胞からCh25hを欠失させると、皮膚炎が増悪しました。

以上より、IL-27はCh25hを作るCD4陽性T細胞を炎症の場に誘導し、25OHCの分泌を促します。そして、分泌された25OHCは周囲の炎症に直接関連する活性化した免疫細胞に作用し、免疫細胞のコレステロールを不足させることで細胞を死滅させ、その結果、組織の炎症が収束していく仕組みが存在すると考えられました(図3)。

本研究の意義・今後の展開

これまでの研究では、免疫系や代謝系に関して、別々に研究がなされ、それぞれの役割が別々に理解されてきました。代謝系の従来の研究において、オキシステロールを介した細胞内コレステロール濃度の調節機構は、多くの細胞で機能している脂質代謝調節の仕組みとして以前から知られてきましたが、コレステロールの濃度を調節する本来の目的以外の役割は知られていませんでした。今回の研究成果は、炎症を収束させるためにコレステロール調節機構を免疫機能が利用しているという新しい仕組みを見つけ、免疫系と代謝系の接点を明らかにした点で、私たちの体の仕組みを理解するうえで大きな前進と考えられました。

また、25OHCによる細胞を死滅させる作用が、活性化したT細胞のみに観察される理由として、活性化したT細胞は細胞分裂が盛んで、その細胞機能を維持するためにコレステロールの需要が高い状態にあることが考えられます。25OHCの作用により自らコレステロールが作れなくなった状態では、この高い需要を満たせなくなるために、細胞機能が維持できずに死滅すると考えられます。一方、活性化していないT細胞はコレステロールの需要は高くないため、25OHCによる影響を受けにくく、細胞が死滅しにくい状況にあると考えられます。炎症の病態に直接関与している免疫細胞は活性化状態にあると考えられます。したがって、本研究で発見した仕組みをうまく利用できれば、病気を起こしている免疫細胞のみをうまく死滅させる治療法が開発できるかもしれません。炎症性疾患などに対して、従来の免疫に作用する治療法の多くは、病気と無関係な細胞にも作用することで、様々な副作用を引き起こします。そのような副作用の少ない治療法の開発が、本研究成果の利用により将来的に期待されます。

【用語解説】

(注1)オキシステロール
コレステロールに水酸基(-OH)が付き酸化された化合物の総称。

(注2)CD4陽性T細胞
T細胞は免疫機能の中心的役割を果たす免疫細胞の一種で、そのうちCD4分子を表面にもつT細胞のこと。抗体を作るB細胞に働きかけて、抗体の産生を促すほか、多様なサイトカインや生理活性物質を放出し、感染防御や自己免疫疾患などの様々な病態に関与する。

(注3)25水酸化コレステロール
オキシステロールの一種。コレステロールの25番目の炭素にOH基が付加されたもの(下図の赤下線部分)。

(注4)インターロイキン-27(IL-27)
サイトカインの一種。サイトカインは主に免疫細胞などが分泌する可溶性のタンパク質で、細胞外に放出された後に別の細胞に作用し、様々な生理活性を発揮する。

参考文献

Cholesterol 25-hydroxylase is a metabolic switch to constrain T cell-mediated inflammation in the skin
Takahashi H, Nomura H, Iriki H, Kubo A, Isami K, Mikami Y, Mukai M, Sasaki T, Yamagami J, Kudoh J, Ito H, Kamata A, Kurebayashi Y, Yoshida H, Yoshimura A, Sun HW, Suematsu M, O'Shea JJ, Kanno Y, Amagai M.
Sci Immunol. 2021 Oct 15;6(64):eabb6444. doi: 10.1126/sciimmunol.abb6444. Epub 2021 Oct 8.


左より:天谷雅行(皮膚科学教室教授)、高橋勇人(同准教授)

最終更新日:2022年2月1日
記事作成日:2022年2月1日

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