病態と原因
腸管機能不全とは、腸が消化や吸収をできなくなった状態を指し、大きく以下のように分類されます。
1. 短腸症候群
血流障害、外傷、腫瘍などの病態によって小腸の大部分が外科的に切除されてしまった状態(中腸軸捻転、腹壁破裂、外傷、壊死性腸炎、腸閉鎖、腫瘍、その他)
2. 腸管運動機能障害
小腸の壁にある筋肉を効果的に動かすことができないために食べ物を効率よく運ぶことができない状態(ヒルシュスプルング病、ヒルシュスプルング病類縁疾患、慢性特発性偽性腸閉塞(CIIP)、巨大膀胱短小腸結腸腸管蠕動不全症(MMIHS))
3. 消化・吸収障害
腸管が存在するにもかかわらず、水分や栄養素を十分に吸収できない状態(クローン病、微絨毛封入体病、吸収不良症候群、難治性下痢、腸管リンパ管拡張症、蛋白漏出性胃腸症)
腸から栄養が摂取できない人は、静脈からの栄養摂取により生存が可能となりますが、長期にわたると栄養障害、骨粗鬆症、カテーテル感染症、腎機能障害、肝機能障害など他の臓器に危険があるばかりでなく、静脈からの血管確保が難しくなり、静脈栄養を継続することができなくなります。また、人間の生きる楽しみの一つである食事を十分にとることができません。慶應義塾大学病院では、長期にわたる静脈栄養を必要とする腸管機能不全患者さんに、栄養・外科的管理・感染症対策・根治的治療である小腸移植までを含む包括的な腸管機能リハビリテーション医療を提供しております。
治療の方法
治療のゴールは、栄養状態の改善と腸管機能の回復となります。
治療の個別化
腸管機能不全患者さんの治療においては、2018年に小腸移植技術が保険収載されたほか、吸収能の改善が期待できる新規薬剤のGLP-2アナログ製剤(レベスティブ®)の登場、栄養学の革新的な進歩、内視鏡治療や再生医療の到来があり、これら専門的な治療をそれぞれの患者さんに適した形で提供するためには、領域横断的な診療体系が必要であると考えております。欧米では、2000年初頭より小腸移植技術の発展とともに、腸管リハビリテーションの概念が登場し、新生児期から成人期に至る広い年齢層の腸管機能不全患者さんの状態改善に寄与していることが報告されております。
子どもから成人まで
何らかの理由による手術で小腸の大部分を切除されてしまったという成人の患者さんから、生まれてすぐに手術が必要となり一生涯人工肛門と点滴からの栄養が運命づけられる子どもの患者さんまで、幼児期・学童期・青年期・成人期の成長過程と社会背景にも配慮し、各々の患者さんに適した治療法を提供します。
小腸移植実施施設
小腸移植が実施可能な施設であり、腸管機能不全患者さんに領域横断的かつ包括的な医療を提供する施設となっています。移植された小腸によって点滴が不要になることが期待されます。
栄養状態改善の取り組み
腸管機能不全の患者さんでは腸管からの栄養吸収が不足していることが多く、点滴による栄養のサポートが重要となります。一方で過剰な栄養投与は肝障害の原因となり、必要栄養量の把握とそれに見合う栄養プランが必須となります。当院では栄養サポートチーム(Nutrition Support Team: NST)と共に適切な栄養アセスメントとプランを議論し、提供しています。アセスメントの手段としては一般計測のほか、血液検査、間接熱量計による基礎代謝量測定、体組成分析による筋肉・脂肪量、骨密度の測定などを用いて総合的にプランニングを行っています。
センターの体制
当院の腸管機能リハビリテーションセンターは、外科(小児外科・消化器外科)、消化器内科、小児科、精神・神経科、Nutritional Support Team、臓器移植センター、内視鏡センター、手術センター、感染制御部、看護部、看護専門領域、薬剤部、医療連携推進部(ソーシャルワーカー)の多職種が協力して腸管機能不全患者さんに最適な治療を提供いたします。
以下のような問題でお悩みの方は、お気軽にご相談ください。
先天性の症状について
- 生まれつき腸の動きが悪いと言われ、人工肛門があります。口から食べられる量はわずかで、お尻からなかなか便が出ません。
- 生まれつき、あるいは生まれてすぐの手術で腸がとても短くなってしまい、毎日点滴が必要な状態です。
- 生まれつき腸の吸収が悪いので下痢がひどく、点滴が手放せない状況です。
術後の症状について
- 手術で小腸の大部分を切除されてしまいました。口から食べることはできますが、腸が短くなってしまったために毎日点滴が必要です。
術後合併症について
- 手術の合併症で腸管皮膚瘻(腸液がお腹から染み出してくる状態)に苦しんでいます。
中心静脈カテーテル関連トラブル
- 点滴の部位から頻繁に細菌が入り込んで熱を出します。
- 点滴を入れる血管が詰まってしまって困っています。
経腸・静脈栄養に関連するトラブル
- 点滴の栄養が原因で、肝臓が悪くなっていると言われました。
- 静脈栄養を続けていますが、成長・発育が遅れていて心配です。
小腸移植について
- 当院は小腸移植実施施設として、これまでに日本および海外で小腸移植を受けられた方を積極的に受け入れております。(KOMPAS病気を知る「小児小腸移植」をご参照ください)
新規治療GLP-2アナログ製剤(レベスティブ®)について
- 2021年から新しい注射薬が使用できるようになりました。このお薬を使用すると、小腸の絨毛が長くなり、吸収能が改善することが期待でき、小腸の長さが短くなってしまった患者さんに有効です。当院では治療効果を判定するための臨床研究を行っております。
関連リンク
文責:腸管機能リハビリテーションセンター
執筆:山田洋平
最終更新日:2022年3月1日
記事作成日:2022年3月1日