はじめに
「ロボット支援手術」は、最近、テレビ番組や雑誌などでも取り上げられることが多くなり、皆さんも耳にされたことがあるのではないでしょうか。
国内では高齢男性に多い前立腺がんの治療として始まったこの新しい手術技術、そろそろお子さんへの治療にも応用される時代が迫ってきているようです。
*前立腺がんに対するロボット支援腹腔鏡下前立腺全摘除術についてはKOMPAS別項「最新ロボット(ダヴィンチXi)を用いた腹腔鏡下前立腺全摘術 -泌尿器科-」をご覧ください。
ロボット支援手術の特徴
以前はお腹を大きく切開して行っていた手術(開放手術)が、1980年代後半以降、お腹に開けた数か所の小さな孔から内視鏡や手術器具を体内に入れて行われるようになりました(腹腔鏡下手術)。腹腔鏡下手術は患者さんの身体への負担や手術後の痛みを軽減させ、手術療法の大きな進歩となりました。さらに、この腹腔鏡下手術に医療用ロボットを利用することにより、術者は拡大された鮮明な3次元画像の下で両手の動きを体内にある手術器具の細かな動きとして反映させることができ、より精緻な治療が可能となりました。特に、細かな縫合が必要な手術に適しています。ロボット支援手術は専門の研修を修了したプロクター認定医の資格を取得した医師のみが施行できることになっています。
この手術支援ロボットは戦場での手術を遠隔操作できるシステムを目指して開発された経緯があり、米国Intuitive Surgical社の「da Vinci」が世界で最も普及しています。さらに、2020年末には国内Medicaroid社から国産初の「Hinotori」が開発・発表され大きな話題となりました。
国内でのロボット支援手術の現状
国内でのロボット支援手術は、2012年に初めて前立腺がんへの保険診療として認められ、急速に普及するようになりました。慶應義塾大学病院泌尿器科でも年間約100例のロボット支援腹腔鏡下前立腺全摘除術が行われています。その後も泌尿器科領域を中心に腎がん、膀胱がんへと適用が拡大され、一般外科や婦人科領域でも行われるようになってきました。
今まで悪性腫瘍がロボット支援手術の対象でしたが、2020年からは水腎症や女性の骨盤臓器脱も保険診療の対象として認められるようになりました。
水腎症とは
水腎症とは、腎盂と尿管の境界部が狭く、尿の流れが悪くなり腎臓が腫れてくる疾患です。腎盂と尿管の境界部そのものが狭い場合や周囲の血管などが境界部を圧迫して尿の流れを妨げていることがあります(図1)。お腹(脇腹から背中)が発作的に痛くなる、尿路感染症を発症して高熱が出る、尿路結石ができる、そして腎臓の機能が悪くなるなど様々な症状の要因となります。
図1.水腎症
A:腎盂と尿管の境界部そのものが狭いタイプ
B:腎臓への血管(交差血管)が腎盂と尿管の境界部を圧迫するタイプ
多くは生まれつきの先天性疾患ですので、小児期、さらには出生前の妊婦さんの胎児超音波検査で診断されることも増えています(胎児約500人に1名の割合で検出)。一方、成人になってから症状が出て診断されることも少なくありません。新生児・乳児期の先天性水腎症は体の成長にともない自然に治ることもありますが、腎臓の腫れが強くなった場合や、腎機能が悪くなる兆候が出てきた場合、腹痛や感染症を発症した場合は手術(腎盂形成術)が必要となります。
水腎症に対する腎盂形成術
腎盂形成術は、腎盂と尿管の境界の狭い部位を切除して、腎盂と尿管の口径を合わせて新たに吻合する手術法です(図2)。細径の吸収糸を用いた精緻な縫合が要求されますが、乳児を対象としても手術後に再び狭くなるなどの合併症はほとんどなく、治療成績は良好です。この腎盂形成術は、現在、側腹部を切開する開放手術、4か所程度の孔から行う通常の腹腔鏡下手術、さらにロボット支援手術で行われています。
図2.腎盂形成術
お子さんへの治療として
小児の水腎症は、お子さんの年齢や体格が様々なためそれぞれに合った治療方法が選択されます。通常の腹腔鏡下手術の手術器具は小児専用の小さな器具がある程度揃っていますが、ロボット支援手術の手術器具はまだ成人用のものが主体であり小児専用の器具はありません。ロボット支援腹腔鏡下腎盂形成術では、お腹に1cm程度の孔が5か所必要で、お腹全体をガスで膨らませながら行います。一方、乳幼児の場合では、開放手術なら3cm程度の創1つで、筋肉の切開も要さずに腎臓周囲に限定した手術操作で治療が可能なため、かえって身体への負担は少なくなります。
今後、細径のロボット機器が開発され、小児にもこのロボット支援手術が普及してくることが予想されます。当科では、対象となるお子さんの年齢、体格、病状に合わせて各治療方法の利点・欠点をよく検討し、ご家族の皆さんとご相談しながら診療にあたっています。
小児泌尿器診療スタッフ
文責:泌尿器科
執筆:浅沼宏
最終更新日:2021年5月6日
記事作成日:2021年5月6日