漢方医学について
漢方医学は2000年以上の長い歴史と豊富な経験に裏付けされた治療方法で、西洋医学では対応しきれない症状を補うことができる医学です。漢方医学では個人個人の体質を重要視しているので、患者さんの身体全体を総合的に判断し、治療をします。そのため漢方医は、患者さんの様子を観察し、質問しながら、その人の抵抗力・体力等も併せて漢方医学的な診断を行います。診断後に患者さんに最も適した漢方薬を処方します。その際に用いられる漢方薬には天然の生薬を使用しています。1つの方剤は数種類の生薬で構成されているので、多くの成分を含んでいます。そのため漢方薬には様々な効果が期待でき、1つの方剤で複数の症状に対応できるという利点があります。
「症状が長く続いている」、「たくさんの薬を内服していて・・・」などで悩んでいることがあれば、漢方薬で改善できるかもしれません。症状が改善した後も、漢方薬を長期に内服することで、体質の改善や健康寿命の延長に役立ちます。
漢方医学センターについて
漢方医学センターの漢方医は、内科、産婦人科、精神神経科や皮膚科などの各科の専門医が毎日診察を行っております。担当しているほとんどの医師が漢方専門医を取得していますので、自分の専門領域以外の症状に対しても常時診察可能です。
漢方治療の対象症状は表1の通りです。現在西洋薬を内服していても、併用できる漢方薬はあります。漢方医学は患者さん自身を診る診療なので、表に載っていない症状や症状の再発予防や未病といった病気にならない体質改善にも対応は可能です。漢方外来での治療は保険診療で行っております。内服が簡便なエキス製剤、自分で1日分の生薬を煎じる自己煎じ、薬局で代理に煎じたもの、と内服方法も患者さんに合わせて選択できます。
漢方医学センターでは、2018年6月より鍼外来も開始しました。漢方治療と並行して鍼治療(自費診療)を受けることで、治療の相乗効果が得られることがあります。漢方医からお勧めさせていただくこともありますが、患者さん自身で電話予約も可能です。
表1. 漢方治療の対象症状
- 胃腸障害(腹痛、下痢、便秘)、慢性肝炎
- アレルギー疾患(アトピー性皮膚炎、喘息、花粉症、蕁麻疹など)
- 不妊症、習慣性流産などの産科疾患
- 月経不順、月経痛、冷え症、更年期障害などの婦人科疾患
- 心身症、自律神経障害、神経症、不眠症など
- 高齢者の老化に伴う種々の症状(前立腺肥大、しびれ、膝痛など)
- 高血圧、糖尿病など生活習慣病
- 風邪をひきやすい、おなかを痛がるなどの虚弱児童
- 癌や膠原病などに伴う様々な体の不調や体力低下
実際の漢方治療例
1)慢性的な症状が改善した例
★46歳男性 アトピー性皮膚炎
問診:
・幼少期にアトピー性皮膚炎と診断
・ステロイドの使用を止めると症状が悪化する
処方:
柴胡清肝湯
経過:
1ヶ月後かゆみと赤味が軽減
2)多愁訴が改善した例
★28歳女性 月経前のイライラ、便秘、肌荒れ、ニキビ、冷え症、むくみ
問診:
・症状がたくさんあって困っている
・月経前後は特に症状が悪化する
処方:
桃核承気湯
経過:
内服直後から便秘は改善 1ヶ月後肌荒れ、ニキビが改善
3ヶ月後冷え症、むくみが改善
3)西洋薬を廃薬できた例
★71歳男性 不眠症
・眠りが浅くて夜中に何度も目が覚める
・睡眠導入剤を飲むと翌朝頭重感、だるさがあって起きづらくなる
処方:
酸棗仁湯
経過:
1ヶ月後眠りが深くなって、翌日活動しやすくなった。睡眠導入剤は中止した。
4)西洋薬が無効だった例
★63歳女性 げっぷ
問診:
10年以上げっぷに悩んでいるが、西洋薬では効果がない
処方:
茯苓飲
経過:
内服直後からすぐにげっぷがなくなった
※ここで挙げた症例はほんの一例です。患者さんを診察して漢方製剤を決定していますので、同じ症状でも違う漢方薬が処方されることもあります。
漢方自動問診について
現在我々は、患者さんの問診データを蓄積・解析し、自動問診システムを開発しています。これは漢方専門医でなくても漢方医学診断をした上で、患者さんに的確な漢方薬を処方できるシステムです。将来は漢方専門医のいない地域でも漢方薬が処方できるシステムの開発を目指しております。初診時、再来時には患者さんに症状の変化をデータに入力していただいております。
おわりに
「漢方薬って効くの?」、「どこで処方してもらえるの?」といった質問をよく聞きます。漢方医学センターでは日々患者さんの訴えや症状に真摯に向き合い、患者さんとともに漢方治療による症状の改善のお手伝いを行っております。「こんな症状でもいいのかしら?」、「漢方でよくなるのかな?」などの疑問をお持ちでしたら、一度外来でお気軽にご相談ください。長年悩んでいた症状が漢方薬で改善する可能性があるかもしれません。
関連リンク
医局のスタッフと秘書さん
文責:漢方医学センター
執筆:堀場裕子
最終更新日:2020年5月1日
記事作成日:2020年5月1日