はじめに
がんは国民の2人に1人が罹患しており、「国民病」ともいえる時代になっています。国立がん研究センターによると、18歳未満の子どもをもつがん患者の全国推定値は年間56,143人で、その子どもたちは87,017人、患者の平均年齢は男性46.6歳、女性43.7 歳、親ががんと診断された子どもの平均年齢は11.2歳で、18歳未満のうち0歳から12歳までが半数を超えることが分かっています。
がんである親は、自分の病気を受け止め、治療に取り組むだけでなく、子どもへの対応に悩み、特に子どもに「病気を伝えること」に悩んでいます。現状では、親は子どもに自分の病気を十分に伝えることができずにいます。一方、子どもは、がんの親の様々な身体的、心理的変化や日常生活の変化などから、「何かただならないことが起こっている」と感じています。そして病気のことを伝えられていない子どもは、自分のせいで悪いことが起きていると思い、ストレスフルな状況に置かれています。そのため、がんと診断された時から、子どもに病気を伝えることはとても大切なことです。
また、医療従事者にとっては、患者である親への支援の機会は多くありますが、その子どもと対面する機会は少ないため、子どもへの支援に難渋しています。がんの親が病気を子どもに伝える意思決定をすることへの支援や、伝えた後に子どもがいろいろな気持ちを感じた時にうまく対処するための支援をすることはとても重要であると考えています。
SKiPチームの活動
がんの親と子どもへの支援として、医師・看護師・MSW(Medical Social Worker:医療ソーシャルワーカー)・看護教員の多職種有志が2013年11月にSupporting Kids of Parents with Cancer(通称:SKiP KEIO)を作りました。活動の目標は「がんの親と子どもが、ともにレジリエンス(回復能力)を取り戻し、がんとともに質の高い生き方ができることを支える」ことです。SKiPチームメンバーの多くは、Hope Tree主催の後述するCLIMB®プログラムのファシリテーター研修を受け活動しています。
- 医療従事者に対する教育
医療従事者が、がんの親が子どもに病気を伝えることの意義を理解し、親の意思決定を支援できるよう、医療者に対して教育・啓発活動をしています。 - がん患者さんとその子どもへの支援
入院・外来という「療養の場」を問わず、がん患者さんとその子どもへの直接的なケアも実施しています。がんである親は、自分の病気を受け入れ、治療を受け、身体的な面だけでなく精神心理的苦痛を抱えながら治療しています。また親ががんであることを伝えられた子どもは、説明を受けて様々な気持ちをもちますが、大切な親の病気のことを人に話してよいものか困惑し、周囲の人に話すことができず、自分の胸のうちにしまって苦しみ、様々な身体的・感情的な反応を示すことが報告されています。そのため子どもたちがその感情にうまく対処できる方法を獲得する必要があります。また、伝えた後の親も、子どもたちがその感情を理解して上手に対応するための方法を学ぶ必要があり、子どもたちがその感情を表現できる場を作る必要があります。アメリカには、がんの親をもつ子どもを支援するプログラムとしてCLIMB®プログラム(Children's Lives Include Moments of Bravery:子どもはいざというとき勇気を示します)があります。日本でも、アメリカでトレーニングを受けたHOPE TREEのメンバーが始め、同時に親のピアサポートの必要性を実感し、これを加えて日本版CLIMB®プログラムとして提供し、慶應義塾大学病院でも実践しています。
CLIMB®プログラム
このプログラムは、親ががんであることを伝えられている学童を対象として週1回6週にわたり行います(注1)。がんやその治療について正しい知識を得ることや、親ががんであることを知った子どもに起こってくる様々な「気持ち」は誰もがもつこと、そしてその「気持ち」に対処していく方法について学びます。目的は「子どものもっている力を引き出し、親の病気に関連するストレスに対処していくための能力を高めていくこと」で、それは「心の健康の増進」という原則に基づいています。目標は「子どもが自分の感情を理解して表現し、周囲の人たちに感情を伝え対処していくこと」です。子どもたちは、同じ境遇のお友達と6回の工作という遊びを通して少しずつ心を開放していくことができるようになります。しかし、このプログラム実施期間に対応できる子どもの年齢や人数には限りがあるため、この考え方を医療従事者に広めていくことが重要であると考えています。
(注1)現在はCOVID-19感染症拡大に伴い、Web開催で4週のプログラムに変更しています。
★CLIMB®活動の写真(点滴や注射針を使用しながら抗がん剤について説明している様子)
★CLIMB®プログラムでの工作
不安や嫌な気持ちを預けておくための「ストロングボックス」
怒りをおさめるための「怒りバイバイサイコロ」
自分の大切ながんの親をイメージして作成したキワニスドール
キッズ探検隊
親だけでなく祖父母や同胞のがんを伝えられている学童に対してのプログラムです。子どもたちは、「がん」という病気や、手術療法・化学療法・放射線療法などの治療について学んだ後、院内を探検します(注2)。具体的には、治療を行っている1)腫瘍・免疫センター(治療室、サテライトファーマシー)、2)手術室、3)放射線治療室、4)リハビリセンターを訪問します。ご家族がどのように治療を受けているのかなど、各部署の職員が説明し、子どもたちからの質問を受けます。
(注2)現在はCOVID-19感染症拡大に伴い、Web開催としています。
★キッズ探検隊
「探検パスポート」(探検した部署にシールを貼っていきます)
探検の様子
以上のような活動によって、SKiPチームは、がん患者さんとその子どもが「がんとともによく生きる」環境を作れるような関わりを目指しています。
★院内の「健康情報ひろば」(1号館2階)で、関連するパンフレットや絵本のコーナーを設けています。
この活動に関するお問い合わせなどは、お気軽にお電話、ご相談ください。
慶應義塾大学病院 がん相談支援センター
電話:03-5363-3285(直通)
関連リンク
- SKiP,KEIO
7-3にSKiP活動が紹介されています。
文責:SKiP KEIO代表 内田智栄
最終更新日:2023年8月31日
記事作成日:2018年10月1日