肺がんの最新治療
肺がんは、日本人の全がん死因の約5分の1を占め、がん死因の第1位で、毎年7万人以上の方が亡くなっています。最も予後が悪いとされている悪性腫瘍の1つですが、近年の様々な新規薬剤の開発により治療成績の改善が得られつつあります。
肺がんはその進行度(病期)によって治療法が異なります。早期肺がんであれば手術や定位放射線照射(I期のみ)が適応となり、根治する(完全に治る)確率も高くなります。しかし、多くの肺がん患者さんは局所あるいは全身に進行していることが多く、抗がん剤などの化学療法を必要とし、根治することは極めて難しいのが現状です。
ただ最近は抗がん剤の中でも副作用が少なく効果が高いものや、特殊な遺伝子異常を有する患者さんに対してだけ極めて有効な分子標的治療薬や、がんを栄養としている血管を破壊してがんを兵糧攻めにする分子標的治療薬などが次々に開発されています。特に肺がん全体の約6割を占める肺腺がんでは、これまでの2倍あるいはそれ以上の生存期間の延長が得られるようになってきました。
また近年、オプジーボ®、キイトルーダ®などの免疫チェックポイント阻害薬と呼ばれる、新しい治療薬が複数開発され、広く診療で使われるようになりました。これは、がん細胞により抑えられた自己の免疫を再活性化し、がんを攻撃することで効果が現れる薬剤です。最近では、手術が可能な早期の肺がんであっても、手術の前または後に免疫チェックポイント阻害薬を組み合わせた抗がん剤治療を行うことで、治療成績が向上することが明らかになり、保険診療でも実施可能になっています。数多くの薬剤が開発され、治療が複雑化していますが、患者さんから採取したがん組織に対して遺伝子検査や特定のタンパク質の量を確認する検査を行い、どの薬剤の効果が最も期待できるかを判断することで、これらの治療薬を使い分けます(図1)。
図1.肺がんの進行度と治療法
近年、患者さんの遺伝子の状態などを調べて、個々人に合った最適な治療を提供する「がんゲノム医療」と呼ばれる医療が発展してきています。がんゲノム医療では、「がん遺伝子パネル検査」と呼ばれる一度に複数の遺伝子異常を検出できる検査を実施しますが、このがん遺伝子パネル検査は大きく2種類に分けられます。既に特定の薬剤が有効であることが判明している遺伝子異常を検出する検査(コンパニオン検査)と、有効な薬剤は確立されていないものの、治験や臨床試験などへの参加など、次への薬剤治療を探索するきっかけとなる遺伝子異常を広く調べる検査(がんゲノムプロファイリング検査)があります。前者は肺がん診療を行っている病院であればどこでもできる検査ですが、後者は特定の指定された病院のみで実施できる検査になります(図2)。
図2.がん遺伝子パネル検査
慶應義塾大学病院は2019年8月よりがんゲノム医療中核病院として、がんゲノムプロファイリング検査を保険診療で行えるようになりました。この検査は結果によって、薬物治療の選択肢が広がる可能性のある検査です。しかし、高額な検査であるため現状は保険上の制約があり、全ての患者さんに行える検査ではありません。標準治療(一般的な治療)が確立されていない希少がんの患者さんや標準治療が終了してそのほかに有効な薬剤を探索したい患者さんなどが検査適応となります。検査については主治医の先生とご相談ください。
また、当院では、保険適用でない患者さんにも自費診療として、独自のがんゲノムプロファイリング検査 (PleSSision検査)を腫瘍センターがん遺伝子外来で行っています。ご希望される患者さんは担当医にお申し出ください。
肺がん専門外来のご案内
当院の肺がん患者さんの窓口としては、呼吸器内科、呼吸器外科と腫瘍センターがあります。呼吸器内科の肺がん外来では、肺がんの疑いがある初診患者さんの診断から進行期肺がん患者さんの治療までを行っています。呼吸器内科、呼吸器外科、放射線治療科合同の肺がんクラスターカンファレンスを週1回開催し、それぞれの患者さんに最適な診断・治療の検討、迅速なフィードバックが行える体制をとっています。
一方、腫瘍センターでも、外来で抗がん剤治療を行うだけでなく、火曜午後においては呼吸器外科とともに肺がんクラスター診療が行える初診外来も併設し、肺がん初診の患者さんへの対応強化を図っています。患者さん一人一人の状況に応じた、きめ細かな、かつ包括的な診療を行っていますので、肺がんあるいはその疑いのある患者さんは、ぜひ呼吸器内科を受診してご相談ください。
文責:呼吸器内科
最終更新日:2024年1月31日
記事作成日:2013年9月5日