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多汗症

たかんしょう

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概要

掌(てのひら)、足底、腋窩(えきか)などに温熱や精神的負荷の有無に関わらず、日常生活に支障を来すほどの大量の発汗を生じる状態が原発性局所多汗症と定義されます。局所性の多汗症は、主にエクリン汗腺の分布密度が高い手掌(しゅしょう)、足底、腋窩に生じますが、汗腺の数や分布、大きさ、形態に関しては、異常な所見は認めません。多汗症が発症する要因として、体温調節を司る視床下部(ししょうかぶ)や、情動に関与する扁桃体、前頭葉などの関与を示唆する報告もありますが、詳細はいまなお不明です。

診断

局所多汗症の診断基準としては、明らかな原因がないまま局所的に過剰な発汗が6か月以上認められ、以下の6症状のうち2項目以上があてはまる場合を多汗症と診断します。

  1. 最初に症状が出るのが25歳以下であること
  2. 対称性に発汗がみられること
  3. 睡眠中は発汗が止まっていること
  4. 1週間に1回以上多汗のエピソードがあること
  5. 家族歴がみられること
  6. それらによって日常生活に支障をきたすこと

多汗症の重症度の判定は自覚症状により、以下の4段階に分類したHyperhidrosis disease severity scale(HDSS)を用いています。以下のうち(3)、(4)を重症の指標にしています。

  • (1) まったく気付かない、邪魔にならない。
  • (2) 我慢できる、たまに邪魔になる。
  • (3) どうにか耐えられる、しばしば邪魔になる。
  • (4) 耐えがたい、いつも邪魔になる。

治療

2010年に日本皮膚科学会主導で原発性局所多汗症診療ガイドラインが作成され、包括的な治療指針が示されました(2015年改訂)。原発性局所多汗症診療ガイドラインではエビデンスレベルに基づいて、診療アルゴリズムが作られておりますので、日本皮膚科学会ガイドラインを参照ください。

外用治療薬

20~50%の塩化アルミニウムの外用療法は、手掌・腋窩・足底部位の多汗症に対して第一選択であり、症状の緩和が期待されます。さらに重症度に応じて単純塗布(ただ塗る)から密封療法(ODT:occlusive dressing technique 療法;塗った後ラップなどで密封する)が選択されるよう示されています。「塩化アルミニウム」の処方は保険診療ではなく、自費診療となります。

腋窩の多汗症については2021年に抗コリン薬の外用剤(エクロックゲル®︎)が保険適応となり、治療がより身近になりました。

A型ボツリヌス毒素局所注射

ボツリヌス菌毒素はボツリヌス菌が産生する神経毒素でA~G型の7種があり、この中でA型ボツリヌス毒素は最も効率よく交感神経から発汗の指令を出すアセチルコリンを抑制します。A型ボツリヌス毒素局注療法は、腋窩に対して推奨度の高い治療であり、日本においても2012 年11月より重度腋窩多汗症に対して保険適用となっています。ただ、手掌、足底、頭部顔面に対しては保険適用にはなっていません。その理由として、施術の際の疼痛コントロール法、重症度に応じた投与単位数に決まった見解がまだ十分統一されていないことが挙げられます。

イオントフォレーシス

汗の多い手掌、足底を水道水の入った容器に浸して、直流電流を流す方法です。1回30分の通電を8~12回行うと汗の量が減ってきます。治療効果を維持するためにはその後も1週間に1~2回行ったほうが良いとされます。保険診療が可能ですが、通院困難な方には家庭用イオントフォレーシス機器(ドライオニック)がインターネットで購入できます。

内服治療

多汗症に対して、アセチルコリンを抑制する抗コリン剤が使用されることがありますが、唯一保険適応があるのは臭化プロバンテリン(商品名:プロ・バンサイン)です。ただし、効果の程度にはばらつきがあり、明確なエビデンスを有する内服薬ではないのが現状です。また口の渇きや眠気などの副作用があります。また緑内障を有する方には禁忌となります。

慶應義塾大学病院での取り組み

腋窩多汗症のみの適応となりますが、マイクロ波を利用した腋窩多汗症の治療機器がミラドライ®システムです。全国の大学病院で初めて慶應義塾大学病院が導入しました。

マイクロ波治療機器(ミラドライ®️)は皮膚を切開することなく、皮膚の表面からマイクロ波を照射し、汗腺組織を熱損傷させて永続的に汗腺組織を熱損傷させて永続的に汗腺組織を除去する治療です。ミラドライ®️の効果と安全性はFDA(Food and Drug Administration:アメリカ食品医薬品局、日本の厚生労働省にあたる政府機関)で認められており、腋窩多汗症、腋臭症、減毛の適応で承認を取得しています。日本国内では腋窩多汗症のみ薬事承認を取得しています。

皮膚にマイクロ波を照射すると、細胞内の水分子が振動することで熱が発生します。また、皮下組織が真皮と異なる伝導性・誘電率を持つため、マイクロ波が皮下組織で反射します(図1)。 これにより、汗腺が存在する真皮深層から皮下組織浅層に温度の高いヒートゾーンを形成し、汗腺を焼灼・凝固します(図2)。同時に、皮膚表面を吸引しながら冷却する(図3)ことにより、ヒートゾーンを真皮と皮下組織の境界付近にとどめ、さらには表皮に向かう熱伝導の影響を抑え、表皮や真皮の熱損傷を防ぎます。

汗腺を焼灼・凝固するため、高い効果が得られ、長期的に効果が持続すると考えられています。保険適応はなく自費治療となります。
*図は(株)ジェイメックより許諾を得て転載

治療の方法

ハンドピースを当ててマイクロ波を照射していきます。照射時間にもよりますが、治療時間は片側で30分から45分程度です。治療後の固定などの処置は必要なく、通常の日常生活を送ってください。手術日よりシャワーは可能です。

治療中の様子
*写真は(株)ジェイメックより許諾を得て転載

文責: 皮膚科外部リンク
最終更新日:2021年6月1日

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