概要
胸郭出口症候群は、上肢を挙上する(肩を上げる)動作を行うと神経や血管が圧迫(牽引)され、手がしびれたり、冷たくなったり、力が入りにくくなったりする疾患です。首から腕にかけて大事な血管と神経が走行していますが、頚部の筋肉(斜角筋)の間、第1肋骨と鎖骨の間といった狭い場所を通過するため、圧迫を受けやすいです。
また頚肋(けいろく)という、頚椎から発生する肋骨や、本来は存在しない骨の奇形や異常な線維によって神経血管を圧迫することもあります。
障害のタイプによる分類
- 圧迫型: 上肢を挙上時に血管神経が圧迫されて症状が出るタイプ。つり革につかまったり、携帯電話を寝ながら頭の上に挙げて見たりすることで症状が出ることもあります。
- 牽引型: なで肩の女性などに多く、上肢の下垂時に神経が牽引されて症状が出現するタイプ。かばんなどの重いものを保持すると症状が出ることがあります。
- 混合型: 上記の混合タイプ
障害を受ける部位による分類
- 血管型: 血管(動脈や静脈)が圧迫され、症状が出るタイプ。進行すると血管内に血栓を生じて、腕の血管が詰まってしまうこともあります。
- 神経型: 神経が圧迫や牽引され、症状が出るタイプ。上肢のしびれが出て、下記のモーレーテストが陽性になることがあります。
- 混合型: 上記の混合タイプ
症状
主な症状は、上肢のしびれ、だるさ、冷感などですが、頚部や肩の痛みや重たい感じといった多彩な訴えもあることから他の病院に行ってもなかなか診断がつかないことが多い疾患です。
上肢を挙上することで、症状が誘発されることが多いですが、下垂して上肢が牽引されると症状が出ることもあります。また首の付け根の鎖骨の上のあたり(鎖骨上窩)に痛みや嫌な感じ、詰まる感じがすると訴える方もいらっしゃいます。
初期の場合には上肢挙上時のみに症状が出ますが、進行すると安静時にも症状が出ることがあります。血管が圧迫され、血栓が血管を閉塞すると指先が白くなったり、冷たくなったり、むくんできたりすることもあります。
診断
多くの場合、以下の2つのテストで胸郭出口症候群を診断します。
- ルーステスト:
肩を挙上し、胸を大きく張って、肘を90度に曲げた状態で、手の開閉(グーパーグーパー)を行います。胸郭出口症候群の方は、この動作を行っている間に手がしびれてきたり、上肢が重だるくなってきたりします。この動作を行って症状が誘発され、上肢を降ろせば症状が楽になるという再現性が、いつも続けば胸郭出口症候群の可能性は高くなります。 - モーレーテスト:
鎖骨の上のくぼみの部分に神経が 走行していますので、そこの部分を叩くと上腕から 腕の方にしびれが放散したり、同じ部位を押すと痛みや 嫌な感じがしたりし、神経の圧迫が示唆されます。 左右差を比べてみるのが大切です。
画像診断では、超音波を用いたりCTを用いたりすることで血管の圧迫や骨の奇形、鎖骨と第1肋骨の間の隙間の狭さを評価して胸郭出口症候群の補助診断とします。
治療
- 保存療法
姿勢や日常生活動作の改善、肩甲骨周囲の筋のストレッチなどのリハビリテーションを行い、症状が強い場合には、薬物療法や神経ブロックを行うこともあります。
- 手術療法
症状が軽度な場合は、保存的に加療することが可能ですが、保存療法を行っても症状が改善しない、症状が強い、血管が圧迫されていて血管内に血栓が生じている、早期スポーツ復帰を希望するなどの場合に手術療法を行います。圧迫型に対する手術成績は良好で、多くの方が、術後比較的早期から症状が改善します。牽引型に対しても圧迫の要素がある場合には手術を行うこともあります。内視鏡を用いて第1肋骨や血管神経周囲の筋肉(斜角筋)を切除する手術を行いますが、個人個人の病態に合わせて手術法は変わります。内視鏡で行う場合は、脇の部分に傷口を作るため、創部は目立ちにくいです。入院期間はおよそ1週間程度です。
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文責:
整形外科
最終更新日:2021年6月1日