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オスラー病 (遺伝性出血性毛細血管拡張症)

おすらーびょう いでんせいしゅっけつせいもうさいけっかんかくちょうしょう

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概要

オスラー病は、遺伝性出血性毛細血管拡張症(末梢血管拡張症)またはHHT(hereditary hemorrhagic telangiectacia)とも呼ばれ、全身的に血管の異常を生じ、鼻出血をはじめとする出血症状が起こりやすくなる遺伝性疾患です。

成人では90%以上の割合で繰り返す鼻出血を生じ、口、指、鼻などに毛細血管拡張、肺・脳・肝臓・消化管などに動静脈奇形を生じることがあり、本疾患の特徴となっています。遺伝形式は常染色体優性遺伝であり、50%の確率で親から子に遺伝します。原因遺伝子としてENG(エンドクリン)、ACVRL1(ALK1)、SMAD4が知られており、それぞれHHT1(1型)、 HHT2(2型)、若年性ポリポーシスとの関連がわかっています。

人口における頻度としては報告によりばらつきがありますが、8,000~10,000人に1人程度の割合で遺伝学的な異常を持っているといわれます(なお遺伝子異常を持っていても問題となるような症状を発症しない人もいますので、実際に治療が必要な患者さんは上記頻度より少ないものと思われます)。男女差はありません。

オスラー病の診断基準

オスラー病には症状・検査結果に基づく診断基準というものがあります。

  1. 鼻出血(自然かつ反復性であること)
  2. 皮膚粘膜の毛細血管拡張症 (口唇、口腔、手指、鼻など)
  3. 内臓の血管病変 (胃腸の毛細血管拡張、肺・脳・肝臓・脊髄などの動静脈奇形)
  4. 家族歴 (親子兄弟にオスラー病と診断された人がいる)

これらの項目のうち3つ以上が当てはまれば「確実」、2つ当てはまれば「疑い」、1つの場合は「可能性が低い」となります。成人の患者さんについては診察を受け、この4つの基準を満たすかどうかを確認することで、ほぼ診断が可能です。しかし子どもの患者さんについては年齢によりまだ症状が出現しないこともあるので4つの基準だけで診断できないこともあります。

オスラー病は指定難病に認定されています。認定されるためには上記診断基準で「確実」であることが基本で、さらに重症度分類で一定以上(重症度3以上)である必要があります。難病情報センターのWebサイト上の「オスラー病」のページ外部リンクに基準、分類が記載されています。

臓器別の症状・検査方法

  1. 鼻出血
    オスラー病患者さんの90%以上で認められます。年齢としては10歳までに30~40%、20歳までには80%で出現します。鼻腔の粘膜に毛細血管拡張が生じ、これが空気の流れやごく軽い刺激により出血を起こします。正常のお子さんでも鼻出血は生じますので子どもの頃は軽度で回数の少ない鼻出血では診断が難しいこともあります。出血の程度、頻度は様々ですが、重度のものでは通常の止血処置では難しく、特殊な治療や輸血が必要なほどの貧血になることもあります。

  2. 皮膚粘膜の毛細血管拡張
    鼻、指先、手、唇、口腔内などに生じます。多くは40歳以前に出現します。点状、網状、クモの巣状などの形状をし、圧迫により赤色が消えることが特徴です。 典型的な患者さんでは視診により診察室で容易に診断が可能です。

    多くのオスラー病患者さんに共通の症状として上記の鼻出血、毛細血管拡張の2つが認められます。それ以外の内臓の病変としては下記のものが挙げられます。

  3. 内臓の血管病変
    1. 消化管(胃腸)の毛細血管拡張
      消化管(主に胃や十二指腸)の毛細血管拡張が原因で出血することがあります。拡張した血管は外力に弱く容易に出血します。ほとんど問題になることはありませんが、オスラー病患者さんの30%程度に繰り返す消化管からの出血が認められる、という報告もあります。稀に慢性的な貧血の原因となることや急激な出血を来すことがあります。急激な出血をきたした場合は黒い便が出ることがありますが、出血していることが目に見えなくても気づかないうちに出血をしている場合があります。貧血になった場合、疲れやすいなどの症状を認めることがあります。
      検査としては貧血の有無を見るために血液検査を行います。貧血や黒い便が出る場合には、内視鏡検査で出血源の検索を行います。

    2. 肺動静脈瘻
      肺動脈と静脈がつながる肺動静脈瘻を生じます。オスラー病患者さんの15~30%程度に発生するといわれます。
      肺動静脈瘻があると静脈に入った細菌や血栓などが動静脈瘻を介して動脈系に入り、脳膿瘍・感染性心内膜炎や脳梗塞・心筋梗塞などの塞栓症を起こすことがあります。このため肺動静脈瘻があり、塞栓術などの治療を行っていない場合には静脈内に菌や血栓などが入り込まないよう細心の注意が必要です。抜歯の際には予防的な抗生物質の使用がすすめられています。また肺動静脈瘻により、低酸 素血症、喀血などを生じる可能性もあります。
      肺動静脈瘻の検査法は以下の通りです。胸部単純レントゲン写真(や胸部単純CT)に異常な像として写ることで肺動静脈瘻の存在が疑われます。その後、造影剤を用いてCT検査や血管造影を用いることで診断を確定します。肺の動静脈瘻の有無の検査で、もっとも感受性が高いのが、bubbleを使った心臓の超音波検査(コントラスト心エコー検査)です。肺の動静脈瘻があれば、このコントラスト心エコー検査は100%陽性になります。経過中に低酸素血症や脳梗塞、脳膿瘍なども合併する可能性もあるため、
      血液検査により酸素の状態や炎症の状況を評価したり、頭部CTやMRIを用いて脳の病変評価を行ったりすることもあります。

    3. 肝臓血管奇形
      肝臓には動脈、静脈以外に門脈という血管が走っており、動脈と静脈がつながってしまうだけでなく、門脈も他の血管と交通を作ってしまう場合があります。症状が出現することはほとんどありませんが、異常な血管の交通が多くなってしまった場合、腸から吸収された物質が肝臓を経由することなく全身に回ってしまう、特定の血管に多量の血液が流れ込む、などの不具合を起こします。具体的には、肝臓で処理されるはずのアンモニアという毒素が直接脳に流れ込んでしまい意識障害を起こしてしまう(肝性脳症)、心臓に想定外の多くの血液が流れ込んで機能不全になってしまう(心不全)、門脈に多くの血液が流れ込んで門脈内の圧力が上がってしまう(門脈圧亢進症)、などが生じます。症状を有する場合には診断や治療の必要性があるかを判断するために超音波検査、造影CT・MRI検査、カテーテルによる血管造影検査などが行われます。

    4. 脳血管奇形
      脳内や脳の表面に血管奇形を生じることがあります。オスラー病に特有の脳血管奇形には 動静脈奇形、動静脈瘻、毛細血管奇形の3種類のタイプがあります。これらのうち、脳動静脈奇形、動静脈瘻は脳内出血、くも膜下出血といった重篤な頭蓋内出血を引き起こすことがあります。オスラー病の血管奇形の特徴はサイズが1cm以下の比較的小さいサイズの血管奇形が多いこと、しばしば多発性(2ケ所以上病変があること)であること、一般の動静脈奇形と比べて出血率が低めであること(出血率:オスラー病 平均年1%、一般の脳動静脈奇形 年間2~3%)などがいわれています。大きなサイズの脳動静脈奇形、動静脈瘻ではけいれんなどの症状を伴うことがありますが、通常は出血を起こさない限り無症状の ことが多く、診断には画像検査が必要です。
      脳血管奇形の正確な診断にはカテーテルによる脳血管造影が必要ですが、スクリーニングとしてはMRアンギオグラフィー、造影MRI、造影CTアンギオなどが行われます。

    5. 脊髄血管奇形
      脊髄の表面や脊髄内に血管奇形を生じることがあります。発生頻度としては0.5~1%と非常にまれですが、小児に多いことや、静脈瘤を伴う脊髄表面の動静脈瘻の度が高いのがオスラー病の特徴です。脊髄動静脈奇形や動静脈瘻は出血、脊髄還流障害、圧迫による脊髄障害を起こしえます。病変の部位によりますが、上肢、下肢の運動障害(歩行障害、手指の動きのぎこちなさ)、感覚障害(しびれ)、膀胱直腸障害(排尿困難、排便困難)などの症状が出ることがあります。正確な診断をつけるには脊髄血管造影が必要ですが、脊髄血管異常の有無についてはMRIまたは造影CTによって多くの場合判断できます。

遺伝子診断

上記に述べた診察結果(臨床症候・画像検査)に基づく診断ではっきりとした診断がつかず、患者さんの生活上必要であると判断される場合には、遺伝子診断が行われることがあります。2019年現在我が国においてオスラー病の遺伝子診断は保険収載されていません。つまり日本国民が受ける通常の保険診療にはいまだ含まれておらず、一般的な検査ではないという位置づけになります。

遺伝子検査は遺伝カウンセリングを受け、そのメリット、デメリットを理解したうえで行われます。血液を採取して遺伝子検査を行います。遺伝子検査の結果、ENG(エンドグリン)、 ALK-1、 SMAD4といった遺伝子異常が見つかった際には、上記の臨床的な診断基準を満たしていなくてもオスラー病と確定診断されます。ただしオスラー病と考えられても3割の患者さんでは遺伝子異常が見つからないことがあります。

治療

オスラー病に対する治療は、遺伝子異常によって出現した血管病変(鼻血は鼻粘膜の血管異常、胃腸出血は胃腸粘膜の血管異常、内臓動静脈奇形は各種臓器の血管異常です)が、生活および寿命に影響を与えると判断された場合にその対象の病変に対して行われます。遺伝子そのものへの治療はありません。

  1. 鼻出血に対する治療
    軽度の鼻出血に対しては圧迫による止血が基本となります。通常の止血法で鼻出血が止まらない場合にはレーザーによる焼灼などを行うことがあります。 

  2. 消化管病変に対する治療
    鼻出血では赤血球の原料となる鉄分が不足することがあるため、鉄分の補充を行うことがありますが、消化管病変に対しては治療を要さないことがほとんどです。まれに急激な出血が起こることがあります。急激な出血が起きた場合には、内視鏡による処置、カテーテルによる血管内治療、外科的な手術による止血を要することがあります。急激な出血はSAMD4という遺伝子の変異があるタイプの患者さんに多いという報告もあります。

  3. 肺動静脈瘻に対する治療 (図1)
    肺動静脈瘻の治療は、奇異性塞栓による脳膿瘍や脳梗塞等の重篤な合併症を予防するために行います。また巨大な肺動静脈瘻や多数の肺動静脈瘻がある場合にはシャント率を減らす目的でも塞栓が行われます。治療は大きく血管内治療と手術に分けられます。オスラー病の患者さんのように病変が多発する場合は、多くの病変を治療しつつ、肺機能を温存する必要があります、このため通常低侵襲かつ肺実質を温存できるカテーテル治療が選択されることが多くなっています。
     肺動静脈瘻の治療適応(治療が必要な場合)としては動静脈瘻に関与する肺動脈の太さが、3mm以上という報告があります。なぜなら大きな瘻孔(穴)があると、そこを血栓や細菌が通り抜ける確率が高くなるため閉塞した方が良いとされているからです。ただし最近では3mm以下の血管でもカテーテルの技術が進んだため、塞栓を行う場合もあります。
    【手術】
    病変が肺の辺縁にある場合や、単発の場合は手術のよい対象となりえます。全身麻酔が必要になりますが、最近では侵襲が低い胸腔鏡での手術も可能になっています。また手術の利点は病変を切除するため、再発がない点です。
    【血管内治療】
    局所麻酔のみで施行可能です。足の付け根に局所麻酔をして、大腿静脈からカテーテルを肺動静脈瘻まで進めます。その後、瘤状に拡張した部分から近位の血管まで塞栓(詰めること)を行います。塞栓物質としてはプラチナ製の柔らかい金属コイルやナイチノールを編み込んで作成されている血管プラグという塞栓物質で塞栓を行います。最近では新しい離脱式コイルを用いて、コイルの逸脱を心配せずに安全な塞栓が可能となっています。

    最近の画像診断の進歩により、塞栓後の再開通がまれではないことも明らかになってきました。塞栓術は施設にもよっても技術の差がありますので、ある程度経験が豊富な施設で治療を行うことが勧められます。オスラー病では、流入血管が複数ある複雑型の病変の頻度も高く、治療にはより経験が必要です。

    塞栓後には、血流の流れを評価する特殊なMR−DSAや4D-CT、あるいは通常の肺動脈造影を用いて、再発(コイルの再開通や他の血管からの側副路の発達)を評価する必要があります。もし塞栓後に再発などがあれば、再治療が可能です。

    図1.

  4. 肝臓血管奇形に対する治療
    肝臓血管奇形の多くは無症状でその場合治療の必要はありませんが、5-10%程度の頻度で症状を呈することが報告されています症状はシャントの存在とシャント量に依存すると考えられ、基本的には心不全や門脈圧亢進症に対する内科的治療が行われます。シャント量の減少を目指す肝動脈塞栓術や肝臓ごと取り替える肝移植の有効性が報告されていますが合併症の報告も多く、その適応と時期に関してはまだ一定の見解が得られていません。

  5. 脳血管奇形に対する治療
    オスラー病で認められる脳の血管奇形のうち毛細血管奇形は血流の流れが遅く、一般的に大きな出血を生じにくいとされています。このためこれらを原因とする明らかな症状がない限り、通常は治療せず、経過を見ることとなります。
    一方、脳動静脈奇形や脳動静脈瘻は出血の可能性があり、いったん出血すると致命的になりえ、重度の後遺症を残す可能性があることから治療が検討されます。治療の方法には、直達(開頭)手術、血管内治療、放射線治療の3つがあります。直達手術では頭皮及び頭蓋骨を開き、血管奇形を摘出します。完全摘出をすることにより出血しうる部位を含めた病変が消失しますので最も確実な治療法ですが、体への負担が大きい治療法です。血管内治療では太ももの付け根から挿入した細いマイクロカテーテルを奇形の直前まで運び、液体塞栓物質で病変を閉塞させます。体への負担は少なく、効果的に塞栓されれば出血率は確実に低減しますが、カテーテルの到達が困難な場合があることや直達手術に比べて完治率が低いことなどの欠点があります。放射線治療はガンマナイフ・サイバーナイフなどにより、血管奇形に放射線を集中的に照射し、閉塞させます。他の二つの治療法と比べ治療直後の合併症は少ない傾向にありますが、手術よりは完治率は低く、また病変が閉塞するまでに2-3年を要することがあり、その間の出血の危険が残るという欠点があります。
    脳神経外科の専門医の間では、脳動静脈奇形を持つ患者さんに対しては、1人1人を詳しく診察し、年齢、病変の部位、過去の出血の有無、治療の難易度、治療に伴う合併症のリスクなどを総合的に判断して、どの治療を行うかどうか決定すべきであるという意見が一般的となっています。

慶應義塾大学病院での取り組み

オスラー病は遺伝子が関与する全身的な血管病ですので、臓器ごとに専門医が分かれる我が国の通常の診療体制では、患者さんの全身の状態に目を届かせる診療ができない可能性があります。一方、同じ血管病変といっても臓器によって最も安全で効果的な治療法というのは異なりますし、常に最先端の知識と治療を提供できるのはその臓器の専門家だけです。

したがって、オスラー病を理解し、幅広く最新の情報を有している医師の診察を受けたうえで、各臓器の最先端の技術を持つ専門家に適切に相談できる仕組みが重要と考えられます。

慶應義塾大学病院の特徴は、それぞれの診療科において専門的で高度な医療を提供するだけでなく、異なる科同士でも緊密に連絡を取り、適切な対応を行っていることにあります。2018年には慶應義塾大学病院に母斑症センターが設立され、オスラー病を含む遺伝性疾患に関し、診療科の垣根を超えた包括的な診断、治療を行えるようになりました。まずオスラー病の疑いがあれば、どの臓器に異常があるかにかかわらず、オスラー病の知識を持った医師が診察をいたします。そして、患者さんの全身的な問題点を判断したうえで、各臓器の専門治療を必要とする患者さんにはその臓器の専門家を紹介いたします。また、ある時点においては一つの臓器の問題であったとしても、長い経過の中で全身の問題に立ち返って相談を行う必要がある際には再度総合的な判断をいたします。新たな診断・治療法が開発される際にはその情報に触れられる環境も提供いたします。

オスラー病の遺伝子診断は2019年現在保険診療の枠に入っておりません。したがってオスラー病の患者さん全員に遺伝子診断をするというのは難しい状況です。慶應義塾大学病院では、遺伝病に対してどのように考え、対応していけばよいかのカウンセリングを行うとともに、必要と考えられる患者さんには遺伝子診断ができるような枠組みを設けています。

さらに詳しく知りたい方へ

文責: 脳神経外科外部リンク
最終更新日:2019年7月1日

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