概説
自己炎症性疾患(自己炎症疾患または自己炎症性症候群ともいいます)は原発性免疫不全症(表1)のなかの一つに分類され、発熱と眼、関節、皮膚、漿膜などに及ぶ全身の炎症のエピソードが特徴の疾患で、その原因として感染症や自己免疫疾患がないものです。
表1. 原発性免疫不全症の国際分類
(表1、2はJournal of Clinical Immunology.35(8):696-726,2015から引用)
細胞性および液性免疫に影響する免疫不全症 |
関連もしくは症候を有する特徴を伴う複合免疫不全 |
抗体産生不全症 |
免疫調節不全症 |
食細胞の数・機能の先天的欠損症 |
内因性および自然免疫の不全症 |
自己炎症性疾患 |
補体欠損症 |
原発性免疫不全症の表現型模写 |
自己炎症という概念は1999年にMcDermottらによって提唱されたTRAPS(TNF receptor-associated periodic syndrome)という遺伝性疾患が契機となりました。自己炎症性疾患の病態は主に自律的な自然免疫系の活性化によるもので、好中球や単球/マクロファージからのIL-1βやTNF-αなどの炎症性サイトカインの過剰分泌やシグナルを介して引き起こされる全身性の慢性炎症とされます。疾患の原因として、遺伝素因が明らかとなっている疾患もあります。自己炎症性疾患の病態分類(表2)は、最近提唱された症候群で、今後も概念が変わっていく可能性があります。多くは乳児期~小児期に発症しますが、本章では15歳以上で発症する可能性のある家族性地中海熱およびTRAPSについて概説します。
表2.自己炎症性疾患の病態分類
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TRAPS(TNF Receptor-Associated Periodic Syndrome:トラップス)
TRAPSはTNFα受容体をコードするTNFR1遺伝子の異常によって引き起こされる症候群で、発熱発作を繰り返す周期性発熱症候群の一つです。1982年にアイルランド/スコットランド系の家系で最初に報告され、Familial Hibernian Fever(FHF)とも呼ばれていました。1999年TNFR1の遺伝子TNFRSF1Aの異常であることが明らかになり、TRAPSと呼ばれるようになりました。
遺伝形式と疫学
まれな疾患で、遺伝子異常によります(常染色体性優性遺伝)。世界ではこれまでに約200例の報告があり、ヨーロッパ人種で多く報告があります。日本では約30例の報告があります。発症年齢は生後2週から53歳と幅がありますが、多くは幼児期で、中央値は3歳です。
臨床症状と検査所見
主な症状は発熱で、3日~数週間持続し(通常1週間以上)、その発熱の周期を5~6週間おきに繰り返します。皮膚症状の頻度も高く、部位は全身に出現します。痛みや熱感を伴う発疹があることがあります。数日程度(平均13日)持続しますが、数分~数日で移動することもあります。筋肉痛がみられ、皮膚症状が筋肉痛の部位に一致して移動することが多いです。ほかにも結膜炎、眼のまわりのむくみ、腹痛、関節痛、吐き気などの症状がみられます。
血液検査では白血球数の増加、炎症反応高値、補体価や免疫グロブリン値の上昇があります。長期間にわたり炎症が持続するため、炎症物質であるアミロイドが全身の臓器に沈着するアミロイドーシスを合併することが10%程度あり、腎、肝、副腎などの臓器病変に注意する必要があります。
診断
臨床症状がみられ、遺伝子解析によるTNFRSF1Aの変異が確定診断となります。今までの症例から臨床症状の特徴をまとめ、TRAPS診断基準案(表3)が提唱されています。
表3.HullらのTRAPS診断基準案
(Medicine (Baltimore).81(5):349-68,2002から引用)
- 6か月以上にわたって繰り返す炎症兆候の存在(いくつかの兆候は同時にみられることがある)
- 発熱
- 腹痛
- 筋肉痛(移動性)
- 皮疹(筋肉痛を伴う紅斑様皮疹)
- 結膜炎 / 眼周囲の浮腫
- 胸痛
- 関節痛または単関節の滑膜炎
- 平均5日以上続く症状
- ステロイドが有効だが、コルヒチンが無効
- 家族歴あり(いつも家族歴があるわけではない)
- どの人種、民族でも起こるかもしれない
治療
発作が軽症で頻度が低い場合は、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)が有効な場合があります。また症状が重い時にはステロイドが考慮されることもあり、発作の早期に使用するほど効果が高いとされています。発作が重症で頻度が高い場合、ステロイド以外にもアザチオプリン(商品名:イムラン®、商品名:アザニン®)、シクロスポリン(商品名:ネオーラル®)、エタネルセプト(商品名:エンブレル®;TNF阻害薬)、アナキンラ(日本未発売;IL-1阻害薬)、カナキヌマブ(商品名:イラリス®;IL-1阻害薬)などの使用報告があります。このうち、日本ではカナキヌマブが承認されています。
家族性地中海熱(Familial Mediterranean Fever:FMF)
家族性地中海熱(以下、FMF)は、12~72時間の周期的な発熱と漿膜炎をきたす遺伝性周期性発熱症候群です。
遺伝形式と疫学
比較的まれな疾患ですが、自己炎症性症候群の中で最も頻度が高い疾患です。遺伝子異常によって引き起こされると考えられています(常染色体性劣性遺伝)。1997 年にMEFVという遺伝子の異常によって起こることが明らかとなりました。全世界で 1万人を超える患者さんが存在し、地中海沿岸地域に多くみられます。日本では約500名と推定され、大部分は小児期に発症することが多い例ですが、20歳に近い年齢での発症報告があります。
臨床症状と検査所見
周期性発熱が高頻度にみられます。発熱の期間は1~3日と短く、自然に軽快します。発熱時にはCRPなどの炎症反応も上がります。発熱発作の間隔は不安定であり、個人差があります。誘因なく起こることもありますが、ストレス、手術や月経などに誘発されて起こることもあります。発熱に伴い関節炎・皮疹などの症状がみられるほか、漿膜炎を来たし、例えば胸膜炎では背部痛、腹膜炎では腹痛を伴うことがあります。関節炎は足や膝の関節などの下肢の大関節に少数関節炎として起こることが多く、急性で、関節痛、熱感、発赤を伴います。これらの臓器症状以外に頻度は少ないですが、心外膜炎や無菌性髄膜炎がみられることもあります。血液検査では発作時に白血球増加、高値の炎症反応がみられます。またTRAPS同様に長期に及ぶ全身の炎症によりアミロイドーシスの合併がみられることがあります。
診断
日本では下記に示すFMFの診断基準(表4)が用いられています。感染症、自己免疫疾患、腫瘍などがないことを示すことが必要となります。MEFV遺伝子解析も有用です。治療薬であるコルヒチン投与による治療反応性も参考に診断します。
表4.家族性地中海熱の診断基準
(難病情報センター「家族性地中海熱」より引用)
必須項目
12時間から72時間続く38度以上の発熱を3回以上繰り返す。発熱時には、CRPや血清アミロイドA(SAA)などの炎症検査所見の著明な上昇を認める。発作間歇期にはこれらが消失する。
補助項目
i) 発熱時の随伴症状として、以下のいずれかを認める。
a 非限局性の腹膜炎による腹痛
b 胸膜炎による胸背部痛
c 関節炎(股関節、膝関節、足関節)
d 心膜炎
e 髄膜炎による頭痛
f 髄膜炎による頭痛
ii) コルヒチンの予防内服によって発作が消失あるいは軽減する。
必須項目と、補助項目のいずれか1項目以上を認める症例を臨床的にFMF典型例と診断する。
治療
FMFの治療はコルヒチン投与です。発作予防や症状の改善を促し、アミロイドーシスの予防も可能です。コルヒチン無効例や副作用があり十分に使用できない場合には、IL-1阻害薬、TNF阻害薬、IL-6阻害薬の効果が報告されており、日本ではカナキヌマブ(商品名:イラリス®;IL-1阻害薬)が承認されています。
慶應義塾大学病院での取り組み
リウマチ・膠原病内科では、発熱を来すほかの疾患の可能性の除外を慎重に行い、丁寧な診療を心がけています。
さらに詳しく知りたい方へ
- 原発性免疫不全症候群について(PIDJ 原発性免疫不全症関連データベース医療関係者用)
患者・家族のための原発性免疫不全症候群 疾患概説書(PDF)を閲覧できます。 - 慶應義塾大学医学部リウマチ・膠原病内科
文責:
リウマチ・膠原病内科
最終更新日:2024年8月9日