概要
クリオグロブリンは37℃より低い温度で沈殿し、37℃で加温すると再び溶ける性質をもつ免疫グロブリンです。クリオグロブリンは3つのタイプに分類されます。
- I型:単クローン性免疫グロブリン(10~15%)
- II型:多クローン性IgGと単クローン性IgM(50~60%)
- III型:多クローン性IgGと多クローン性IgM(30~40%)
クリオグロブリンが血中に増加した状態をクリオグロブリン血症と呼び、II型とIII型のことを混合型クリオグロブリン血症といいます。以前は基礎疾患のないものを特に本態性クリオグロブリン血症と呼んでいました。しかし、1989年にC型肝炎ウイルスが同定され大半の症例にC型肝炎ウイルス感染症が関与していることが分かりました。その他、Ⅰ型クリオグロブリンを生じる疾患として多発性骨髄腫やマクログロブリン血症など血液疾患、II・III型クリオグロブリンを生じる疾患としてSjögren症候群や全身性エリテマトーデスなどの膠原病、悪性リンパ腫などのリンパ増殖性疾患、各種感染症があります。
上記のような基礎疾患がない患者さんにクリオグロブリンが誘因となって生じる血管炎のことをクリオグロブリン血症性血管炎といいます。2012年に米国ノースカロライナ州で開催された血管炎の命名に関する国際Chapel Hillコンセンサス会議では、免疫複合体の関与する小血管(主に毛細血管、細静脈、細動脈)の血管炎に分類されました。
10万に1人と比較的まれな疾患です。男女比はやや女性に多く、50~60歳代に好発します。
症状
小型の血管の炎症による症状を来します。古くから"Meltzerの3大症状"として、触知可能な紫色の斑点(purpura)、関節痛(arthralgia)、筋力低下(weakness)が知られています。その他の症状として、神経や腎臓などが侵されることもあります。症状の程度は軽いものから重いものまで様々です。主な頻度を以下に示します(Current Opinion in Rheumatology 2006;18:54-63)。
- 紫斑 98%
- 関節痛 98%
- 関節炎 6.7%
- レイノー現象(主に指の色が白→青→ピンクなどのように寒冷で変化する現象です) 48%
- 皮膚潰瘍 22%
- 末梢性神経障害 80%
- 腎障害 30%
皮膚病変は下肢に好発し、寒冷刺激部位に網目状の皮疹、紫色の斑点、潰瘍などの症状を呈します。腎障害は症状を伴わない血尿・蛋白尿が50%と最も多く、20%は血液中の蛋白が尿中に漏れ出るネフローゼ症候群、30%は急速に腎障害をきたす急性腎炎症候群を呈します。末梢神経障害は軽度の知覚異常を伴う感覚神経障害が多いです。
診断
現在のところ診断基準は特に定められたものはありません。検査所見としてCRPが陽性となり赤沈が亢進します。血清補体価の低下も高頻度にみられ、特にC4、C1q、CH50は高度の低下、C3は軽度低下を示すことが多いです。補体低下の程度やクリオグロブリンの沈殿の程度は病勢とは相関しないといわれています。皮膚の病理組織では真皮上層~中層の血管に壊死性血管炎の像がみられます。腎臓の病理組織学的検査では膜性増殖性糸球体腎炎の形態像をとるものが80%と頻度が高いです。また、基礎疾患の有無の検索も行います。鑑別すべきほかの疾患としてANCA関連血管炎やIgA血管炎などの全身性小型血管炎、抗リン脂質抗体症候群などの血栓症、血栓性微小血管障害症、膠原病に伴う血管炎、クリオフィブリノーゲン血症などがあります。
治療
原疾患の種類、病状の重症度によって治療法が異なります。
- 全身性血管炎、活動性の高い腎炎の場合:
ステロイドやシクロホスファミド(商品名:エンドキサン®)などの免疫抑制療法、血漿交換療法等を行います。
- C型慢性肝炎やリンパ増殖性疾患などの基礎疾患の場合:
肝臓専門医や血液専門医等の各分野の専門医と連携をとりながら、基礎疾患に応じた治療を行います。
生活上の注意
寒冷曝露をさけて保温に努めてください。
慶應義塾大学病院での取り組み
現在10数名のクリオグロブリン血症性血管炎の患者さんが通院しています。関節リウマチやその他膠原病、他疾患との鑑別を行い、早期診断・治療を心掛けております。
さらに詳しく知りたい方へ
- 循環器病ガイドラインシリーズ (日本循環器学会)(医療関係者向け)
血管炎症候群の診療ガイドライン(最新版)が閲覧できます。 - 慶應義塾大学医学部リウマチ・膠原病内科
文責:
リウマチ・膠原病内科
最終更新日:2024年9月9日