概要
大きなけがや事故に限らず、ちょっとした切り傷でも、よほど浅い傷を除いては、一度皮膚に傷ができると必ず傷あとが残ります。範囲の広い傷跡やひきつれた傷跡などで、体の動きが制限される場合は、症状を改善する手術を行います。
一方で、他の手術のあとの線状の傷あとや、形成外科的にきれいに縫合した傷あとでも、場所によっては、非常に気になることがあります。これらは一般的に手術による修正術を行ってもそれほど改善が得られないことが多いですが、当科では少しでも目立たない傷にすることを目指し取り組んでいます。
そもそも傷あとはなぜ「傷あと」として認識されるのでしょうか。傷のない正常な皮膚と比べ、傷あとは以下の点で違います。
- 皮膚の「きめ」がなくなっているか乱れている。
- 毛や汗腺など皮膚付属器がなくなっている。
- 色素沈着または色素脱失を起こしている。
- 毛細血管が増えている。
- 隆起または陥凹している。
このような傷あとの特徴を知り、それぞれを元通りにすることができれば、元通りの皮膚に戻すことが可能です。例えば、3. や4. などは皮膚の色調に関する問題ですが、これらは様々なレーザー治療や軟膏療法で軽快させることができます。5. は手術により軽減することができます。つまり傷あとを跡形なく再生させるためには、1. と2. が最後のハードルとなっています。これらを根本的に解決するためには、将来的には、細胞治療を基にした再生医療による治療が必要であると考えられます。これまでの形成外科の手技の進化と、さらに本教室の研究から得たアイディアを手術手技に反映させることで、従来治らなかったような傷あとを目立ちにくくすることに成功しています。
患者さんの傷あとひとつひとつでパターンが違いますので、それぞれの特徴をよく観察し最善の治療を提案いたします。
治療
- 治療の対象となる傷あとの種類
顔面・頭の傷あと、手術後の傷あと、熱傷・外傷後の傷あと、リストカット後の傷あとなど。
体質や、体の場所によっては、傷あとは異常に隆起、拡大しケロイドや肥厚性瘢痕といった状態になることがあります。これは、正常な傷あとというよりは、病的な状態なので、別の「傷のひきつれやケロイドの形成外科治療」の項で、詳細に記載しておりますので、ご参照ください。
- 傷あとの治療方法
手術方法には、下記のものがあります。
- 切除術・分割切除術
幅の広い傷あとや、隆起あるいは陥凹している傷あとに対して、切り取って特殊な方法で縫合します。一度で縫合できないぐらい幅が広い傷あとは、初回手術後に半年以上経過してから繰り返して切除する分割切除術を行うことで、縫い縮めることが可能です。一番単純で侵襲も少ない方法です。
- 植皮術・皮弁形成術
幅の広い傷あとや、切除縫合ではゆがみがくる場所(目や口の周囲など)に適しています。他の場所から組織を移行しますので、パッチワーク状の色調の変化が残存することがあります。
- 組織拡張器(ティッシュ・エキスパンダー)
分割切除術に似ていますが、手術で皮膚の下にシリコンでできた水風船を埋め込みます。その後に、2~3か月かけて水風船を膨らまし、皮膚を伸ばしてゆき、この伸びた皮膚を用いて切除した傷あとの部分の補填に使います。
- チップスキングラフト
幅が広いけれど、柔らかい傷あとや色素脱失を起こしている傷に使います。傷あとの表面の皮膚を特殊な器械で削りとった後、同部位または他部位からの皮膚を細かな粒になるまで切り刻み、傷あとの上に植えます。質感の改善に効果があります。
- 頭の傷あと(禿創)
毛髪がある部分に傷ができると、傷あとの中には毛がほとんど生えてきません。傷あとを切り取って縫合しても、皮膚の緊張で傷あとが徐々に広がり、また目立った傷あとになってしまうことがよくあります。私たちは、創縁にかかる緊張をできるだけ少なくする方法、傷あとの中に毛包を誘導する方法、さらに自毛植毛を組み合わせることで、頭の傷あとに関しては最終的にほとんどわからない状態にまで治すことに成功しています。
- 切除術・分割切除術
慶應義塾大学病院での取り組み
患者さんが悩みを抱いている傷あとに関し、どのような状態になれば満足が得られるか、よく相談をしながら前述の方法の中から最適なものを提案していきます。手術以外の方法が望ましいと考えられる場合は、レーザー治療を含め他の治療法を考慮します。
担当医師 貴志 和生(月曜午前、金曜午前)
文責:
形成外科
最終更新日:2017年11月27日