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ブルガダ(Brugada)症候群

ぶるがだしょうこうぐん

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概要

ブルガダ症候群は、1992年にBrugada兄弟が報告したことで、今日ではその名で呼ばれています(文献1)。心電図では特徴的な所見(右側の胸部誘導のST上昇)(図1)を呈し、致死的不整脈である心室細動(図2、文献2)によって突然心臓が停止し、死亡する可能性がある病気の一群です。ブルガダ症候群の患者さんの特徴は、心臓の構造や機能自体は正常なので、発作を起こすまでは全く普通に日常生活を送っていて、突然命に関わる重篤な不整脈が起こる(または起こる可能性がある)ということです。昔は「ぽっくり病」と診断されていた患者さんの中には、本症候群の患者さんが含まれていたと考えられています。病気の背景には、心臓の電気現象の異常があるといわれています。具体的には、心臓の筋肉の細胞が電気的に興奮している時間(活動電位持続時間)が心臓の内膜側と外膜側で異なることで、電気的な不安定性を生み、不整脈につながると考えられています。類似の疾患としてJ波症候群があり、まとめて特発性心室細動と総称されることもあります。

図1. ブルガダ症候群の患者さんの心電図

図1. ブルガダ症候群の患者さんの心電図

 矢印が典型的な波形でコーブド型(弓型)心電図と呼ばれている。

図2. ブルガダ症候群の患者さんに発生した致死的不整脈(心室細動)(文献2より転載)

図2. ブルガダ症候群の患者さんに発生した致死的不整脈(心室細動)(文献2より転載)

ブルガダ症候群は、家族性に出現する場合もありますが、日本では家族や血縁者にブルガダ症候群の患者さんがいなくても発症する例(孤発例)が多い傾向があります。ブルガダ型心電図(図1)は0.2%ほどみつかるため、健康診断の心電図で指摘されて来院する場合が多くありますが、外来での問診や各種検査にて将来不整脈を起こす危険性が低いと判断されれば、大部分の人は経過観察で良いとされます。しかし、時には失神をしたことがある、または親族に若くして突然死をした人がいる場合には入院してさらに詳しい検査が必要になる場合があります。

原因

ブルガダ症候群患者さんのうち約20%に心臓ナトリウムチャネルの遺伝子異常がみつかります(文献3)。そのほかに別の複数の遺伝子異常も報告されていますが、それらが検出される頻度はさらに低くなります。ブルガダ症候群の患者さんは働き盛りの30~50歳代の男性に多い(男女比10:1)ことから、男性ホルモンとの関連も指摘されています。

症状

失神

心室細動が一時的に出現すると、失神する(一過性に意識を失う)ことがありますが、失神の原因は心室細動に限らないため、病院では失神の状況を詳しく問診し、失神の原因を調べるための検査を行います。

突然死の家族歴

ブルガダ症候群の一部は遺伝子の変化が関与しているため、親から子に遺伝する場合があります。血のつながった近しい親族の中に若くして突然死をした人がいないかを詳しく問診します。

心停止の既往

心室細動を起こして心停止になり、病院に救急搬送されてくる患者さんの中にはブルガダ症候群の患者さんもいます。蘇生された後の心電図検査でブルガダ症候群と診断される場合もあります。

検査

外来では、採血、12誘導心電図、胸部X線撮影、心臓超音波、24時間ホルター心電図、運動負荷心電図、加算平均心電図などを行います。場合によっては遺伝子検査を行うことがあります。不整脈を起こす可能性がある程度高いと判断されれば、入院して心室細動が誘発されるかどうかの確認のための検査(心臓電気生理検査)を行うこともあります。
ブルガダ型心電図がはっきりしない患者さんに、ナトリウムチャネル遮断薬という不整脈の薬(商品名:サンリズム)を注射して心電図変化を調べる場合があります。この検査も入院して行います。

本症の原因は、未だ明らかでない部分も多く、多くの検査を行っても将来の心室細動の発生の危険性を予測するのが困難なことがあり、そのためどのような患者さんが重症でどのような患者さんが軽症なのか、学会でも議論が尽きない分野です。多くの患者さんを集めた国内および海外の観察研究では、失神の既往、突然死の家族歴、早期再分極の存在、自然発生のコーブド型ブルガダ型心電図などが不整脈の発生の予知指標になることが報告されていますが、それぞれの患者さんで予後の予測を正確に評価することには限界もあります。

治療および生活上の注意

植込み型除細動器(ICD)

ブルガダ症候群に発生する致死性不整脈(心室細動)による突然死を予防するための確実な治療法は、植込み型除細動器(ICD、図3)の植込みのみです。一度でも心停止や心室細動などを起こしたことがある患者さんは、その後の再発の危険性も高いためにICD植込みが必須となります。不整脈を起こしたことはないけれど将来不整脈を起こす危険性が高いと判断された場合には、ICDの予防的植込みをおすすめする場合があります。ICD植込みにより不整脈による突然死はほぼ100%防げますが、定期的な外来通院と5~7年ごとの電池交換が必要となります。また自動車の運転が制限されたり、電磁波の影響を受けない生活を送る必要があるなどの注意点もあります。日本循環器学会のガイドラインでは(文献4)ICD植込みの適応は下記の通りになっています。

クラスI適応(絶対適応)

  • 心停止・蘇生例
  • 自然停止する心室細動・多型性心室頻拍が確認されている

クラスIIa適応(相対適応:植込んだ方が良いとされている)

ブルガダ型心電図を有し、次の3つのうち2つ以上があてはまる患者さん:
1. 失神の既往がある、2. 突然死の家族歴をもつ、3. 電気生理学的検査で心室細動が誘発される


図3.植え込み型除細動器(ICD)

図3. 植え込み型除細動器(ICD)

内服によって、確実に突然死を予防できる薬剤はありませんが、ICDを既に植込まれた患者さんに対して発作の回数を減らす目的で内服薬を処方することがあります。効果があることを知られている薬には、ベプリジル(商品名:ベプリコール)、シロスタゾール(商品名:プレタール)、ジソピラミド(商品名:リスモダン)などがあります。また、心室細動が繰り返し起きている場合(電気的ストーム)には、イソプロテレノール(アドレナリンの一種、商品名:プロタノール)という薬の点滴が有効であることが知られています。

生活指導

ブルガダ症候群の患者さんの不整脈発作は、夜間、早朝に多いことが知られています。飲酒後や食後に発作が起こりやすくなる患者さんがいるため、禁酒や満腹になるまで食べないなどの生活指導をすることがあります。熱が出ると発作が起きる患者さんもいるので、熱が出たらすぐに病院で解熱剤をもらうよう指導することもあります。また、薬の中にはブルガダ症候群を悪くするものがあり、抗うつ薬やナトリウムチャネル遮断薬といわれる不整脈の薬には要注意です。

慶應義塾大学病院での取り組み

当院では、ブルガダ症候群を含む遺伝性不整脈患者さんの遺伝子解析を実施しております。通常は採血(10ml程度の血液)で主要な原因遺伝子の変異の有無の解析が可能です。費用については通常の診療費以外はかかりません。遺伝子解析をご希望される患者さんは、外来および入院主治医にお問い合わせください。

さらに詳しく知りたい方へ

  1. Brugada P et al. Right bundle branch block, persistent ST segment elevation and sudden cardiac death: a distinct clinical and electrocardiographic syndrome. A multicenter report. J Am Coll Cardiol. 1992 Nov 15;20(6):1391-6.
  2. Wichter, T. et al. Clinical investigation and reports: cardiac autonomic dysfunction in Brugada syndrome. Circulation 2002;105:702-706.外部リンク
  3. Chen Q, et al. Genetic basis and molecular mechanism for idiopathic ventricular fibrillation. Nature. 1998 Mar 19;392(6673):293-6.
  4. 日本循環器学会:QT延長症候群(先天性・二次性)とBrugada症候群の診療に関するガイドライン 班長:大江 透 掲載:Circulation Journal vol.71 SupplementVI(2007)外部リンク

文責: 循環器内科外部リンク
最終更新日:2019年3月5日

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